カテゴリー
Uncategorized

うつわ道楽

No.233 鶏のオイル掛け

 料理番組を見ていて、料理の上にきざんだ青葱を載せ、上から熱した胡麻油を後掛けする、という料理があった。それを見て昔母がよく作った鶏もも肉の料理を思い出した。私がまだ学生だった頃、一時期、多分数年間の間、母がよく作っていた。家族の評判もよく、本場の中華料理など食べたことのない私には画期的なものだった。

 母も年老いた頃、そう言えばよく作ってたよね、とこの料理の事を話すと、当の本人はそれを作っていた事も、その料理自体もすっかり忘れて思い出す様子は無かった。毎日の献立を考える事に追われて、母は私ほどの強い印象は無かったのかもしれない。母はよく料理番組で見た料理の材料と作り方をメモしていた。それらの全てを作る訳ではないだろうけれど、その中のひとつだったのだろう。家族の中でその料理に名前は無く ”あの鶏肉にオイル掛けたやつ” のような言い方で通っていた。そこでちょっと調べてみたら、中華料理では蒸す事を “清蒸(ちんじゃん)” 油を後掛けする事を “油淋” と言うらしい。なので料理名を付けるとしたら “清蒸鶏の油淋風” とでもなるだろうか。

鶏肉を蒸して、粗熱が取れたら食べやすい幅に切り、皿に乗せる。家では簡易に茹でて作る事も多かった。唯一の味付けとなる塩を振り、上に白髪葱と生姜の千切りを山盛りに。鍋で湯気が上がるほど熱したサラダオイルを上から “ジュッ” と掛ける。白髪葱と生姜に程よく火が入り、鶏には葱油が絡む。

今の私なら鶏はもも肉ではなく胸肉にして、数時間前に塩をすり込み、下味を付けてから蒸す。肉に下味を付けたらもっと味わいが出るはずだ。そしてサラダオイルには半量胡麻油を加えて、風味と香ばしさを加える。きっと、もっとヘルシーで本格的になるだろうな、と思う。多分当時は普通の家庭に胡麻油など当たり前に常備していなかったのかも知れない。テレビの番組では馴染みやすい材料に置き換えていた可能性も有る。次回はこの方法を試してみよう。

盛ったのは江戸時代後期、伊万里焼のなます皿。白洲 正子さんの本に載っているのを見つけ時代が判明。この大きさで縁が立ち上がり、少し深さのある皿を “なます皿” と呼ぶ。おせち料理にも付き物の料理、なますの事でおかずを盛る向付の、この形態の皿を指す名称だ。母を思い出しながら、久しぶりの懐かしい料理を味わった。

器 伊万里 染付草花紋 なます皿  径14cm 高3,5cm

作 伊万里焼