No.304 卵豆腐のお吸物

ここ数年、暑さから急に冷え込んで、秋の季節を楽しむ時間が無くなっていたけれど、今年はゆっくり季節の移り変わりを味わえる。季節は感じるものではなく、暦を見て知るようになっていた。秋の深まりを感じる事で、古くからの、日本の季節を盛り込む文化がすんなりと心と身体に滲みる。
秋晴れの少し冷える日は、卵豆腐をお吸物仕立てにして、熱くしていただく。朱漆の器は蓋を開くと上品な菊の蒔絵が眼に入る。”朱掛合塗” と箱に書かれているが、黒漆と朱漆を “合掛” する手法の事なのだろう。この器は 近藤 道恵(こんどう どうえ)のもの。
近藤 道恵 は、始まりは江戸前期。加賀藩、前田家のお抱え塗り師として明治の初めまでに11代続いた。初代は 古田 織部 と出会い”知遇”を得て、小堀 遠州 や 片桐 石州 らに引き立てられ武家系の茶道具の塗り師として名声を高めた。
木目の残るくり抜きの木地に、黒が透ける朱の色が心に馴染んで美しい。筒形で、口がほんの少し反っている。高台は無く、緩い曲線が底に続く。置いた姿は、まるでそこに座り込んでいるかのように卓の上に落ち着く。蓋を取ると、内側は綺麗に磨かれた朱漆が厚くかかる。蓋裏の蒔絵の整った繊細な細い線、落ち着いた金の色に気品を感じる。
椀は五客揃いで供箱に入っているが、供箱の蓋は割れ、和紙で補修されている。本体にも虫食いもあり、壊れかけている。いつかの時代に、どなたかが外箱を作らたようで、二重箱になっている。補修された供箱の外観からは計り知れないほど、中の椀は無傷で美しい。どれだけ大事にされて来たのだろう、と感慨深い。
汁の卵豆腐は市販のもの。醤油と塩で味を整えた出汁で温め、上に三つ葉を飾った。温かさが身体に沁み、目に入る器が気持ちを高揚させてくれる。ひと椀の汁で優雅な時間を過ごした。


器 朱掛 合塗 吸物椀 蓋内菊蒔絵(光学下絵供箱) 五客
本体径9,8cm 高5,7cm 蓋径8,cm 高2,4cm
作 近藤 道恵















