No.296 鱧 (長州切子 ①)

器を集め始めた頃、背伸びして少しずつ良いものを手に取る様になった。京都の古い器を扱うお道具屋さんで見つけたガラスの小皿。切り子の良し悪しも詳しくなかったけれど、一目惚れした。この小皿が我が家のガラスの器の第一歩となった。
よく見ると少し赤味がかった茶をしている。昔の技術では完全に不純物を取り去る事が出来ず、透き通った中に少し色がついている事がある。そんな色味にも温かみがある。縁の凹凸や尖りにも殆ど傷は無く、エッヂの効いた切り口は鋭いながらも滑らかだ。2種類の違う意匠の皿が5枚ずつ組み合わさって全部で10枚、ひとつの箱に納められている。
若い頃は嬉しくてよく使った。友人達を呼んで料理をもてなす時にも登場していた。使う時は取り扱いは慎重に。長い年月大事にされて来た物を、現在損なう事が無いようにと気をつける。この小皿が私の中で切り子の基準となって行った。贅沢な話だ。
薩摩切子は聞いた事があるけれど、長州にも切子はあったの?と不思議に思っていた。この皿の箱に 『文久三年 長州侯より拝領』とある。我が家に来てかなり経った頃、偶然にも科学的に成分を調べてもらう機会があった。含有される成分を調べる事で時代や地方がより明確になる。
幕末(1860)の頃、ひとりの長州藩士の科学者がガラス製造に取り組み、長州ガラスが生まれた。しかし工場の火災や開発者の死、幕末の混乱により6年間で途絶え、長州ガラスの存在はあまり知られていない。しかしこの小皿はどうもその短期間に作られた長州ガラスのひとつらしい、と確認された。歴史的な研究対象としての価値まで加わって、現在所有している責任を改めて感じる事になった。それを知って以来、気軽に使える皿ではなくなったけれど『うつわ道楽』の1ページには残しておきたい。
ひと箱に組んだ器は、その中で一脚だけを使う、を原則にして来たけれど、今回は2回に分けて2柄の皿を掲載する事にした。1回目、今回の切り子はすっきりと大きめの面で構成されていて、もうひとつの柄と比較すると少し厚めに出来ている。切り子の模様により、大きい模様の深さを出すには厚手にする必要が有る、という事だろうか。縁はアーチ状の輪花で縁取られている。底は平らで麻の葉の模様にカットされ、立ち上がった側面にはダイヤ柄の突起が並ぶ。ガラスなので夏らしく、鱧の梅肉ドレッシング掛けを盛った。

器 ギヤマン 麻形小皿 拾枚 径9cm 高2,6cm
作 不明 (長州藩)














