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No.269 山椒の実

 今年の山椒はまだまだ先だけれど、佃煮になっている袋詰めをいただいた。丹波産の青山椒で、パッケージの隙間から少し見える山椒の実は摘みたてのようにきれいな色。それを見ただけで、実をぷちんと噛んだ時の口に広がる香りが蘇り、唾が出て来た。

 思った通り、炊き立ての白米に載せて食べたら最高に美味しい。煮た鶏や白身魚に添えても風味が引き立つ。珍味のように小さい器に入れてあげたいと考えて、この竹節の香合に入れた。竹の意匠を見て、きっと筍に添えても良く合うだろう。新鮮な山椒の葉ももちろん良いけれど、試してみたくなる。冷凍庫で大事に保存して、筍の季節まで楽しもうと考える。

 白磁で、筍の節の根の尖った突起が鋭い。その繊細な作りに呉須で色を加えて、筍の根の部分がとてもよく表現されている。胴には笹の葉が描かれ、蓋の持ち手も笹、傍に蝶が二匹飛んでいる。もしこの根を表す尖りが無かったら、ここまで鋭く、繊細でなかったら、と想像すると魅力が半減してしまうのではないかしらとすら感じる。

作ったのは 川瀬 竹春。大好きな作家さんで何度も登場している。我が家に有るのは殆どが 第二代 竹春 だけれど、この香合は供箱が無く、初代か二代かは不明。本来は香を入れるための器だけれど、山椒も香りを楽しむと言う意味で、使い方は間違えてはいないのではないかしら、と言い訳のように考えてみる。

器 染付 竹節香合  径5,5cm 高3,5cm

作 古余呂技窯 川瀬 竹春 (代不明)

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No.268 熱燗

 裏庭の白梅が見頃を迎えた。紅梅の盛りが過ぎ、次は私の番と言いたげに良い香りを漂わせる。先日の雪で、枝や花に積もる雪にめげる事なく咲く白梅は美しい。昨年はこの木になった梅の実が豊作で、楽しませてもらった。

雪の日に、その “雪中梅” を眺めていてこの酒器を思い出した。ちょうど今が季節の器だ。なんとなく思い浮かべた “雪中梅” と言う言葉。どこから来たのだろうと思って調べてみた。

何か物語に出てくる言葉かと思っていたのだが、なんと新潟県上越市の日本酒の銘柄だった。”越乃寒梅” “峰乃白梅” と並び、越後三梅と呼ばれるそうだ。そう言えば昔、聞いた事があったような気もする。日本酒の銘柄で聞き覚えがあり、頭に残っていたのだろうか。でも、雪に咲く梅、としか表現していないのに、雪景色に美しく咲く梅の風景が眼に浮かぶ。実際には見たことがなかったとしても、写真や映像で見た記憶がそうさせるのだろうか。

 この酒器は、第16代 永楽 善五郎 (即全 1917〜1998) のもの。18歳で 善五郎 を襲名し、金蘭手、仁清写、交趾など多彩な技法で作品を残している。この酒器は乾山写で、土の上に藁灰を掛け、鉄釉と白薬、呉須を使って乾山らしい白梅が描かれている。箱には一対の酒器と、五客の猪口が組になっていたようだけれど、我が家に来た時に猪口はひとつ欠けていた。

寒い日の熱燗はご馳走。残念ながら日本酒の “雪中梅” は無かったけれど、手持ちの純米酒で温まった。

器 乾山写 梅 酒瓶 

酒瓶 径6,5cm 高11,5cm 猪口 径6,5cm 高3,5cm

作 第16代 永楽 善五郎 (即全)

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No.267 菜花の辛子和え

 立春が過ぎ、暦の上では春が訪れた。八百屋の店先にも春の野菜が並び始め、菜花の辛子和えを作った。春野菜は少し苦味のある物が多い。寒さの中で育ったせいかしら、なんて勝手に想像してみる。でもそのほろ苦さが春の味覚だ。

使った器は高取焼。黒田 長政 が朝鮮出兵の際に陶工を連れ帰り、福岡県直方市にある鷹取山の麓に窯が開かれたのは400年前、1600年頃と伝わる。江戸時代には黒田藩の御用窯で、二代藩主の頃に 小堀 遠州 と交流を深めた。遠州七窯に数えられ茶道具のお茶入れや水差しなどが多く伝わる。

 この古高取の向附は5客組で時代や作者は不明。陶器でありながらきめ細かい土を使い、磁器のような薄さが高取焼の特徴。4片の花弁が緩く曲線を描き、見た目で感じるよりも見込みが広い。まだらに流れる釉薬の表情は豊かで、部分的に厚く掛かる黒が器の表情を引き締める。

器 高取焼 輪花向附  径9cm 高5cm

作 不明

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No.266 白菜漬け

 2回続けて漬物はどうかしら、とは思いながら、ちょうど今が食べ頃の白菜漬けにした。

近頃、漬け物に凝っている。糠漬けはずっと以前から漬けているけれど、冬に仕込む漬物にはちょうど良い季節、と思って挑戦した。寒さで素材の甘みも増していて、美味しい白菜漬けが出来た。

初回なので白菜は半株。半株を4等分にして陽に干し、少し水分が抜けたところで塩をして下漬け、重しをして水が上がってから改めて本漬けにした。塩は控えめにして昆布、唐辛子と柚を入れた。

 私が生まれ育った関東や東日本では、白菜の漬物は一口大に切ってあるのが普通。野沢菜や広島菜なども同じ切り方で見てきたけれど、西日本では細かく切る事も多いようだ。確かに京都の漬物は細かく刻んだ物が多い。白菜漬けの細切りには始め少し驚いたけれど、食べ慣れてみるとこの方が口馴染みが良く、旨味を感じる気がして気に入っている。

 漬け物には少し深すぎる器だけれど、和のサラダ感覚で食べたくて沢山盛った。この器の本来の用途は火入れ。 火入れとは、茶道の道具のひとつで煙草盆に載せる。煙草に火を付けるための小さい火鉢のような物で、灰を入れて上に火の付いた小さな炭を置く。火入れは見込みの底部分には釉薬を掛けずに、土の素地が見えている。でも磁器なら汁が染みる事もないので料理にも使っている。

作者は 第4代  川本 半助 (生年不明〜1857)。文政5年(1822年)に家業の窯を継ぎ 「山半」や「真陶園」 の号で作品を残している。巧みな技量で 天保年間 (1830~1843) に尾張徳川家の御焼物師に任じられた。以後毎年、御紋付きの器を献上し、瀬戸を代表する窯となった。この 4代 半助 は名古屋から著名な南画の陶画師を呼んで絵付けをさせたそうだ。この火入れの様な、山水や花鳥など自然の風物や祥瑞を得意とした。この器にも下部には牛、上部には祥瑞で丸紋の中に細かく描き込まれた風物があり、とても見事で引き込まれる。見ていて楽しい器だ。

器 瀬戸焼 祥瑞 火入れ  径11cm 高9,3cm

作 第4代 川本 半助

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No.265 漬物

 裏庭の紅梅は二分咲き。白梅の蕾はまだ固く、毎年紅白が時期を同じく満開を迎える事がないのを少し残念に思う。日々、少しずつ陽が沈むのが遅くなり、植物も若葉や花の準備を始めている。本当なら庭に霜柱が出来そうな寒さなのに、乾燥していてそんな水分も無いのだろうか。

 梅の花が描かれている角鉢を使いたくて、何を盛ろうかと考える。明るい色は使われていないのに、梅から勝手に連想するせいか、華やかさを感じる。煮物、魚、お菓子、と考えてもしっくり来ない。深さが有る事で難しいのかしら、などと考えていて漬物を盛り合わせたらどうだろうと思い付いた。

ちょうど、本当なら作るのにとても手の掛かるたくあんを、お手軽に作れるレシピを見つけて先週漬けてみたところだ。生の大根の歯応えが少し残っていて、私にはこの位が食べやすいと気に入った。大根は数日軒先で干してから砂糖や塩、少しの酢と水で漬け込むだけ。でもしっかりたくあんの風味が感じられるから不思議だ。京料理のお店で、壬生菜としば漬けを買って来たので漬け物3種を盛り合わせ、それぞれの風味を味わった。

梅の角鉢は廣永窯のもの。しっかりした厚みで、側壁が高く立ち上がり、力強さを感じる。鉄釉と呉須だけの絵付けだけれど、表情豊か。卵焼きや海苔巻きなども似合うかも知れない。

器 梅繪 角鉢  径16,3x16cm 高5,2cm

作 廣永窯 

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No.264 寒椿

 もうすぐ大寒。1月20日からの約2週間、2月4日の立春までの期間が二十四節気の大寒に当たる。文字通り最も寒い時期を指すのだけれど、実際には立春を過ぎてもまだまだ寒さは続く。そんな寒さの中で咲く椿は品種も多く、花の時期は秋口から春先までと長いらしい。我が家の椿は咲き始めた物もあるけれど、まだ蕾だ。

 この豊前銘菓の “寒菊” は椿の花に雪が降り積もる様子を真っ白い砂糖で表している。醤油のおかきの上に甘く生姜が香る砂糖が掛かり、食べ飽きない味だ。寛政年間(1789〜1801)に小倉藩主に献上したという伝統のある銘菓だそうで、文字通り寒い時期に仕込み、完成までに約2ケ月を要するらしい。

この寒菊を 大野 昭和斎 (1912〜1996)の干菓子盆に盛った。桑の木の木目が美しい。この昭和斎は人間国宝 (重要無形文化財 木工芸) 。木目の美しさは自然の産物だけれど、人間国宝の眼がその素材を見極め、その技術に掛かると、この見惚れるような盆に仕上がる。細くてシャープな縁取りが皿の口に回り、繊細さが際立つ。

器 干菓子盆  径21cm 高1,7cm

作 大野 昭和斎

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No.263 鶏そぼろの卵焼き

お正月に、伊達巻の代わりにと思い付きで作ってみた卵焼き。お節は甘い料理が多いので、甘みを控えた卵焼きを、と考えた。でもだし巻き卵よりは日持ちが良く、しっかりした卵焼きにしたかった。それで思いついたのがこれ。いつも作るそぼろご飯の鶏そぼろを入れた卵焼きを芯に、外側を卵だけで巻いた二重構造。味もしっかりしていてご飯にも合い、満足の行く出来栄えだったのでまた作ってみた。

盛り合わせたのは黒豆と広島の漬物。漬物は胡瓜と人参を広島菜で巻いてある物で、以前よく食べていたのが懐かしく、久しぶりに買って来た。ご飯にも合うし、お酒にも合う。新年を祝う若松が描かれた皿に盛った。

 この皿は、初代 伊東 陶山(1846〜1920)の向附。明治から大正にかけて活躍した。横長で深さのある見込みに、美しい線で若松が描かれている。裏には脚が3本、高さが出るので御膳や食卓に並べた時のバランスも良い。見込みの絵の構図やバランスに目を惹かれて調べてみたら、12歳から円山派の画家 小泉 東岳 に絵を習い、その後東岳が手掛けていた作陶を手伝うようになって陶芸の道に進んだのだそうだ。私が惹かれた理由も、その辺りにあるのかも知れない。

陶山は京都の粟田口三条に生まれ、東岳に学び、その後、五条坂の陶工 亀屋 旭亭 に弟子入りして本格的な陶器製作を開始。三代 高橋 道八、村田 亀水、幹山 伝七、岩倉山 吉兵衛 などここにも登場している陶芸家の窯を訪ねて研究に励んだ。1867年、祇園白川に “陶山” を開業、茶器、酒器など創作性の高い作品を作った。明治に入ってからは洋食器や装飾品などを作り海外貿易にも積極的だったそうだ。

 季節を楽しむ食材や料理、そしてそれを盛り付ける器まで、それら全てを愛しむ日本人の “心” が和食の文化をここまで作り上げて来たのだと改めて思う。そしてそれをこの時代に享受する自分は幸せ者である。

器 若松繪 向附 五枚組  径19×10,5cm 高3cm

作 初代 伊東 陶山

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No.262 お正月の盛り合わせ

 歳を得るごとに時の経つのが早くなる。日々、それなりに忙しくしているのだけれど。特に昨年の夏の暑さは長かった。暑さが一段落したらあっという間に新年がやって来た。でも、もし病に臥せっていたら、と考えたら一日一日はとても長く苦しいだろう。だからこれは、健康で過ごせている証なのかも知れない。また今年一年、元気で過ごせる事を願う。

 年末を忙しく過ごしていたので、お正月料理はいつもの紅白の蒲鉾の他に、気に入った美味しそうな黒豆やなますを買い揃えて盛り合わせた。使った器は 飛来 一閑(ひき いっかん) の通盆。代と時代は不明。通盆とは、茶会や懐石で亭主が料理などを客人へ運ぶためのお盆の事。だから本来は直に料理を盛るものではない、のだけれど盛り合わせるのに大きさもちょうど良く、気に入っている。

飛来 一閑は、一閑張り細工の家で千家十職のひとつ。和紙を貼り合わせて生地を作り、それに漆を掛けて棗や香合などを作っている。初代は江戸時代初期 寛永6年(1629年)に、中国から渡来してきた明国の学者で、古代中国に伝わる乾漆工芸の印可を受けた技術の持ち主だったらしい。日本の良質な和紙を主原料に、独自の技術を考案したことが一閑張の始まりで、日本での創始者とされている。当代は16代に当たる女性が勤めているそうだ。

漆盆ではあるけれど、見込みの筋の凹凸が表情になって、器のように見えて来る。華やかな色の料理が美しく映える。

器 一閑張 通盆 5枚組  径22,5cm 高2,2cm

作 飛来 一閑 (代不明)

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No.261 フォー

 スープ用に、と肉屋の店頭で手羽先を袋に詰めて売っていた。骨で鶏ガラスープを取ったことは有るけれど、と興味が湧いて買ってみた。スープの取り方はガラと同じ、生姜と長葱の青い部分を入れた。暫く煮込むと、鶏ガラよりも少し白濁した、とろみのあるスープが出来た。

このスープを何に使おうか、と考えて思いついたのがフォー。米粉の乾麺を買って来て、鶏の蒸した胸肉ともやし、パクチーを載せた。まろやかな鶏のお出汁は優しく、身体が温まる。

残りを冷蔵庫で保管していたらゼラチンを入れ過ぎたゼリーのようにかたく固まっていた。鶏出汁が冷えて固まるのは何度も経験しているけれど、こんなにしっかり固まるのは初めて。ゼラチン質、とかコラーゲンと言うけれど、と思って調べてみたら、

「ゼラチンはコラーゲンというタンパク質の一種で、温かい状態では液体に溶けていますが、冷えると固まる性質があり、この性質を利用したものが、『煮こごり』や『ゼリー』です。」

とある。ゼラチンとコラーゲンて分けて考えていたけれど、と知らなかった常識をまたひとつ学んだ。

 少し小ぶりの鉢が良いなと思って、使ったのは 永楽 善五郎 の鉢。第12代 永楽 和全 (1823〜1896) のもの。外側は茶の釉薬で口周りに鉄釉を施し、それが垂れて景色を作っている。見込みには笹の葉が緑と青、そして雪景色の白で大胆に描かれている。永楽の鉢なので、基本的には菓子鉢であろう。まさかベトナム料理を入れるとは、と鉢も驚いているかもしれない。けれどスープや麺の白と鉢の見込みが溶け込んで、とても美しい。楽しみながらいただいた。

器 笹図 鉢 径17,3cm 高8,5cm

作 第12代 永楽 善五郎 (和全)

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No.260 糠漬け

 八百屋で表面だけが緑色の大根を見つけた。切ると、外輪がほのかに緑で、薄切りにしてサラダに入れたり、少し前は刺身の盛り付けにも使った。普通の大根に比べると細くて短い。水分は少なく、身が締まっていて少し硬い。これはきっと糠漬けにしても美味しいだろうなと思って漬けてみた。歯応えがあって水分が少ない分、味がしっかりしていて美味しい。盛り合わせたのは人参と胡瓜。

 お皿は萩焼で、吉賀 大眉 (よしが たいび) のものを使った。白い釉薬が厚く掛かり暖かみのある質感で、縁にだけ鉄釉で細く線が入っている。調べると萩焼の白釉薬は藁灰と長石が成分で、長石が入ると、藁灰だけの時より厚く掛かると説明されていた。

吉賀 大眉(1915〜1991) は萩に生まれ、東京美術学校で彫刻を学んだ後、萩に戻って陶芸に転向。独自の手法を編み出し、萩焼の芸術性を高めたとされる。この皿もその手法のひとつで、独自の白釉薬を使った “大眉白” と呼ばれるもの。暖かみのある乳白色の肌に瑞々しい野菜の色が映える。

器 萩焼 小皿 5枚組  径13cm 高4cm

作 吉賀 大眉