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うつわ道楽

No.18 柏餅

 肉厚で、ゆるやかな曲線の輪郭がユーモラスな柏の葉が、大きな手のひらのように中の餅を包む柏餅。端午の節句の和菓子に使われる柏は、新芽が育つまで古い葉が落ちない『葉守りの神』が宿る良い木とされ、家系が途切れないという縁起を担いだものらしい。この餅は、徳川9代将軍の家重から次の家治の頃、江戸で生まれたとされる。同じく端午の節句に食されるちまきは、中国が起源で歴史が古く、日本には奈良時代から平安の頃伝わったのだそうだ。今は5月5日の節句には柏餅が主流になっているが、元々は柏餅は関東、ちまきは主に関西で食されていたとか。この時期、敷地の広いお宅では、庭に棒を立てて大きな鯉のぼりが掲げれていたものだったが、近頃の住宅事情ではその光景も見かけなくなったのは少し寂しい。

 この漆の皿は仕舞い放しだったのを思い出して、久しぶりに使ってみた。透けて見える木目が美しい。松の生地に透き漆をかけたもので、皿の縁にぐるりと一周、銀をつけている。木のものに金属を組み合わせるのは難しそうだが、縁に銀を盛った事で輪郭が際立ち、漆の柔らかい印象を引き締めている。

器 銀覆輪 ため塗り菓子皿 (径14cm)

作 不明

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No.17 新玉葱のムース

 地元の、昔馴染みのイタリアンレストランの料理教室で何年か前に習ったレシピ。瑞々しくて甘味のある新玉葱の旨味が凝縮されたピュレをゼラチンで固めてムースにした、お洒落なオードブル。実はいつもはここまで手を掛けず、ポタージュとして、温めたり冷やしたりして頂くことが多い。でも、たまには教わったレシピでと思い、器にこの氷コップを思い付いた。

氷コップ。初めてこの名を聞いた時『なるほど。かき氷のためのコップ』とすぐにその用途に結びついたが、なんともレトロな響きの可愛い名称が気に入った。今回のような浅くて口の開いた氷コップにはアイスクリームやかき氷、と用途を限っていたのだが、ムースを盛ってみたら気に入った。淡い緑のガラスはウランガラス。この淡い緑の色を出すために放射性のあるウランを微量混ぜ込んだもので、ボヘミア地方(現在のチェコ西部)で発明されたそうだ。日本でも大正時代から昭和にかけて食器や工芸品が製造されていたそうで、この氷コップもその頃のものと思われる。当時は単純に色を付けるための手法だったとしても、作る過程での健康被害に対する配慮も無い時代だったのだろう。ウランガラス製品は製造されてから今も、人体には影響を及ぼさない程度(体内の必須ミネラルに含まれる程度との事)の放射線量を発し続けていると言われる。そう聞くと、紫外線を当てた時の美しく光る発光現象も妖しさを帯びて見える。

ソーサーに組み合わせたのは、英国の Royal Albert (ロイヤル アルバート) のカップ&ソーサーの皿。色とサイズで選んだのだが、このアールデコの図柄から見ておそらく1920〜30年代のものと思われる。ウランガラスについて調べて、日本ではウランガラスが大正 (1912~1926) から昭和にかけて製造されたと知った。と、いう事は日本と英国で同時代に造られた可能性がある。古い器や道具を使っていると、思いがけない組み合わせや発見が有って面白い。

器 ウランガラス 氷コップ(日本 径10cm)

皿 Royal Albert (英国 径14,5cm)

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No.16 若竹煮

 旬の幸を自宅で楽しめるとはコロナ禍の今、なんて贅沢な事だろうと思う。今回の筍は、家人の福岡出身の母が毎年送ってくれる福岡県、合馬のもの。この合馬の筍、いつも新鮮で柔らかく、香りの良いものが届くが、今年の筍は例年にも増して柔らかい。料理によって、根に近く繊維の硬い部分と穂先に近いところと使い分けたりするが、今年は硬い部分が全く無く、炒め物や好きな筍のキンピラにまでは回らず、ほとんどを煮物でいただいた。 季節を同じく旬を迎えるわかめとの組み合わせは『春先の出会いもの』と言われるそうだが、季節が一緒と言うだけではない絶妙な組み合わせだと思う。わかめは保存食として年中流通しているが、今の時期の生わかめは歯ざわりも色も良くて好きだ。これに木の芽を添える。出始めた山椒の若芽は、香りでも盛り付けにも彩りを添えるので欠かせない。このメニューを完成させた人はすごいと感心する。

 筍は毎回盛り付けに悩む。香りを生かして大きめに切るので、盛るのが難しい。もっと平たい鉢を使うと格好良いのだが、更にハードルが上がるので、今回は厚手でどっしりした濱田庄司の深めの鉢を使った。明治27年(1894)に生まれ、学校でも2年先輩という河井寛次郎と共に民藝運動に師事し、主に昭和に活躍した陶芸家だ。丸く抜い素地に大らかで素朴な草を描いた、力強い鉢だ。

器 鐡砂丸紋鉢 径21,5cm

作 濱田 庄司 

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No.15

 『その手は桑名の焼き蛤』 これは、最近では聞かなくなった江戸時代の洒落言葉だ。私が子供の頃は、蛤が食卓にのぼると年長の男性がよく口にしたものだ。今や蛤は高級食材。現在日本で流通している蛤のうち国産は一割程度しかないそうだ。その日本の蛤には外洋性と内湾性の2種類があり、千葉県から茨城県の太平洋沿岸で獲れる外洋性と、三重県や熊本県などの内湾、淡水と海水の混じる汽水域に生息する内湾性。三重県特産の内湾性の蛤は桑名だけではなく、その一帯の名物として昔から名高い食材だったようだが『その手は くわない』との語呂合わせから桑名が冒頭の洒落言葉となり、多くの人に広まったらしい。

その桑名の蛤。嬉しいことに三重県在住の親類が、毎年季節になると送ってくれる。蛤は料理に入れても美味い出汁が出て良いのだが、そのものの美味しさを楽しむのは、やはり焼き蛤か酒蒸しだろう。出来立てはもっと艶やかでふっくらしていた身が、撮影した時には少し冷めてしぼんでしまったのが残念だ。

 器は萩焼。10代 三輪休雪のもの。沓形で、内側の上部に入った三島(柄)様の釘彫がさり気無く、広い見込みのアクセントになっている。萩焼のやさしい色合いとろくろ目が器に表情を付けていて、あたたか味がある。

器 萩焼 鉢 (径18cm)

作 三輪 休雪 (10代) 隠居名 休和

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No.14

 香りでも桜を楽しもうと、桜餅を買いに近くの和菓子店へ行った。お目当ての道明寺を頼んでふと見ると、最近見かけないと思っていた3色のお団子が有るではないか。それなら、と、思わず花屋に寄って、切り花で売られている啓翁桜を飾って家でこじんまりとお花見団子をいただいた。

 お花見団子、花より団子という言葉もあるが、お花見とお団子の結びつきはどこから来たのだろう?と思って調べてみたら、豊臣秀吉が晩年、贅を尽くして開いたとされる『醍醐の花見』に由来する。らしい。10年ほど前だろうか。京都をお花見で訪れた時に、この醍醐寺の桜を見た。この辺りは平安時代から『花の醍醐』と呼ばれる桜の名所だとか。広い境内には紅白の幕が張られ、とても華やかで優雅で、秀吉の時代もこんなだったのだろうかと思いを馳せた記憶がある。そこで、買って来たお花見団子を秀吉の時代はどんなだったろう、と私なりに再現してみた。

 美しい塗りの輪花皿は、長野 横笛 (おうてき) 初代のもの。 江戸後期、享和年間に漆器、蒔絵の製作を始めたとされる。年月が経った漆の、真塗りの落ち着いた美しい色。しっとりとした皿の面には、そこに盛ったお団子と満開の桜を、まるで鏡のように鮮明に映している。

器 真塗 輪花皿 5枚

作 長野 横笛