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うつわ道楽

No.26 蛸の酢の物

 半夏生(はんげしょう)。元々は花の名前で、別名片白草。暦の上では夏至から数えて11日目、7月2日を指しそこから5日間を雑節で半夏生と呼ぶのだそうだ。この時期に花を咲かせることから、この名前が付いた。関東で生まれ育った私は、この半夏生を知ったのは割と最近で、この日には蛸を食べるという風習もそれまで知らなかった。元々は西日本の農家にとって大事な節目の日で、この日までに田植えを終わらせる目安とし、ここからの5日間を一段落して畑仕事を休みとする地方も有るらしい。蛸を食べるのは主に近畿地方の風習で、脚が8本も有る蛸のように、作物がしっかり根を張るようにという願いがこもっているのだそうだ。蛸を食べる、というだけで食べ方や料理は特に決まっていないらしい。

 蛸と胡瓜、わかめの酢の物は魯山人の伊賀焼の向付に盛った。ろくろ目が残った力強い器だ。魯山人の器は、素人料理でも格段に映える、不思議な力が有る。土肌や見込みの窪みに溜まった釉薬の深い緑が器に表情を付けている。5客揃いだが、其々大きさも釉薬の上りも違う。その時の気分と料理で使い分けている。

器 伊賀釉向付 5客組 径11,5cm 高さ3,5cm

作 北大路 魯山人

 

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No.25 新じゃがと新玉葱の煮物

 大好きな陶芸作家さんはたくさん居るが、この 5代 清風与平もそのひとり。江戸から続く京焼の名門の家柄で、代々得意とする技法を持ち、高い技術力に基づく作品を残している。3代は、陶芸界で初めて帝室技芸員にも選ばれた。その中でこの5代清風は、先代の誰とも違う独特な個性を持ち、作風も独創的。私は惹かれるが、もしかしたらそのせいで彼の作品を好む人は少し限られるのかも知れない。

清風与平とは、私がまだ器を集め始める前、かなり若い頃に家人と2人で訪れた京都のお道具屋さんから香炉を譲り受けたのが最初の出逢いだったと記憶している。当時5代はまだご存命で、そのお道具屋さんはご本人から直接買い取ったものだった。白磁の手捻りに独特な画風で漢詩の情景を描いたものだ。お煎茶道具をよく作られた方で、いわゆる文人と呼ばれる教養の高い方だったのだろう。彼の作品の多くは、全面が画や文字で埋め尽くされ、余白が全く無かったり、少なかったりする。私のプライベートコレクション化している5代 清風のぐい呑みで、色絵はとても小さい物から少し大振りな物まで、地が見えぬほど描き込まれている。それが彼の作風の大きな特色なのだが、呉須だけの絵付けのものでは白磁の余白を生かしていて、でも、そのどちらにも共通した作家の個性が現れている。すごい事だと思う。

今日はこの季節ならでは、新じゃがと新玉葱を使い、鶏ひき肉の餡で絡めて肉じゃが風の味付けにした。この器は我が家の5代 清風与平コレクションの中でも珍しい、5客揃いの向付。呉須赤絵に金を使った植物と動物の絵柄が優しいが、見込みには文字。内容は解らないが漢詩だろうか。漢字が書き込まれているのに硬くならず、まるで模様のように全体がバランス良くまとまっている。この器は見込みに絵の無い空間が広く、料理も映える。

器 呉須赤絵 向付 5客組  径 15cm 高 6cm

作 5代 清風与平 (1921-1990)

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No.24 キャラメルバナナケーキ

スィーツはそれほど好きな方ではないのだが、去年から時々家で作るようになった。店頭から小麦粉が売り切れるようになった、あの時期だ。皆、考えることは同じね、と思いつつTVの料理番組で見た焼菓子で、簡単に作れるレシピがいくつか私のレパートリーに加わった。お菓子作りは難しい。分量を少し間違えただけでも膨らまなかったりして失敗する。そんな中で、このバナナケーキは作り方がかなり簡略化されていて失敗が無いのが気に入っている。元々、番組で紹介されたのはりんごを使ったケーキだった。りんごで何度も作ってとても美味しかったのだが、りんごは多く出回る季節が限られているので、ある時りんごをバナナに置き換えて全く同じレシピで作ってみたら大成功。普段はあまりいただかないスウィーツの中でもバナナケーキは好きだったので、家で作れたのは嬉しい出来事だった。いつもはシンプルに切り分けていただくが、今回は生クリームのホイップを添えた。

 花柄の手描きの絵付けが美しい、マイセンのケーキ皿。古い物ではないと思うが、言わずと知れた旧東ドイツの名窯で、食器だけでなく彫刻のような人物や動物の美術的な磁気製品も多く作っている。東ドイツ時代には国営の窯だったのだが、ドイツ併合後は民営化され経営が難しくなっていると聞き、心配だ。これは、一脚のカップ&ソーサーとケーキ皿の3点セットで持っている。せっかくの手描きの花が隠れてしまうのは残念だが、食べ終わった時に現れる見込みの花もまた楽しみだ。

器 マイセン焼 ケーキ皿 径18cm

 

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No.23 エンドウ豆の葛かけ

 大阪、なにわの伝統野菜に指定されている、碓井エンドウ。関東では滅多に出回らず、この前八百屋の店頭で初めて見つけた。その日のお目当てはグリーンピースだった。見つけた、と思ってよく見ると全体が黄味がかっていて、一瞬、鮮度がイマイチ?と勘違いしたのだが、よく見ると商品名が違う。うすいエンドウ。聞いた事がなかった。尋ねると『グリーンピースみたいなものだけど、もっとホクホクして青臭さが少ない。関西でよく食べるんだよ。美味しいよ』と教えられた。考えていたメニューは、出汁と薄口醤油で翡翠風に煮て、味が絡むように少し葛を掛けようと思っていたので、この豆で初めて作ってみた。確かに青臭味が無く、ホクホクして豆の味が濃い。色が若干黄味がかっている分、思っていたグリーンピースの様な色の鮮やかさには欠けるが、発芽する芽の部分が黒く、可愛らしい豆だ。これはこれ。とても美味しくいただいた。後で調べたらアメリカから伝わった種で、日本では大阪府羽曳野市の碓井地区で根付いたそうで、この名がついた。現在は和歌山県の特産らしい。関西ではこの豆でお豆ご飯をするそうだ。次回出逢うことが有ったら、ご飯でいただいてみたいと思う。

 葛をかけた煮物なので蓋物に、と思いこの小振りの永楽の器に持った。赤絵に金を使って、さらっと描かれた筆使いがとても優しい。蓋物にしては小さめな作りで、小鉢として、本体だけでもよく使う。第14代 永楽善五郎 (得全)の奥様で、永楽妙全(みょうぜん 1852-1927 お悠さん)の作ではないか、と思われる。

器 赤絵蓋付小鉢 径8,5cm 高8,5cm

作 永楽 妙全