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No.31 蓮根餅

 笹の葉に包まれた蓮根餅。蓮根の澱粉と和三盆で作られた生菓子で、舌に乗せるとすっと消えていくまろやかな甘さ、葛や寒天とは違った独特の舌触りで、夏によく冷やしていただくととても美味しい。深い緑の笹の葉に包まれた姿もとても涼しげで、見た目でも汗が引く。薄茶でいただくのも勿論美味しいけれど、真夏の暑い日なら冷たいお煎茶が欲しくなる。

 この涼しげなお菓子をどんな器に盛ろうか。色々考えて選んだのは備前焼の兜鉢。軽く霧を吹くと、良い感じに笹の葉の緑も冴える。土の肌と色、緋襷のアクセントが備前焼の魅力だが重い器が多い。しかしこの鉢は備前焼にしてはかなり薄い作りで、見た目も軽やかだ。

広くゆったりとした見込みのこの兜鉢は、金重陶陽(1896〜1967)のもの。明治29年に岡山県に生まれ、備前焼の陶工として初の人間国宝に選ばれた。江戸中期以降、伊万里焼や九谷焼に押されて人気を失っていた備前焼を再興された中興の祖と称される名工だ。

器 備前焼兜鉢 径28,5cm 高6cm

作 金重陶陽

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No.30 ガスパチョ

長く仕事をしていたが、しばらく前に退社。その後アルバイトで4年ほどスペイン料理のデリに勤めた経験がある。スペイン料理で代表的なパエリアやアヒージョなどを売っていた。旬の素材を使ったパエリアや、季節に合わせてメニューも入れ替わる。そこで覚えたのが、スペイン料理の夏の定番、ガスパチョだ。元はアンダルシア地方の発祥で、ガスパチョ(gazpacho)の語源はアラビア語で『びしょびしょしたパン』だと言う。確かにレシピには少量のパンが入る。これが少しのとろみの効果を加えるのだろうか。ガスパチョの初めはスープに浸かりっぱなしのパンをそのまま混ぜてしまった、とか言う、日本の納豆のようなエピソードが有ったりして。と考えると楽しい。

 それまでに、そしてその後もガスパチョは度々レストランなどでいただく機会が有ったが、私はこのデリのガスパチョが一番気に入っている。残念ながら、その店はもう閉店してしまったので、それからは夏になると覚えたレシピで自分で作る。販売する訳ではなく、自分でいただくだけなので許して貰えると思う。トマトの他にセロリ、胡瓜、ピーマンなど数種の野菜にワインビネガーやオリーブオイル、香辛料を使って、加熱はしないのでビタミンCもたっぷり。飲むサラダで夏には最適のご馳走だ。トッピングは、細かく刻んだ野菜と最後にオリーブオイルをひと回し。

 グラスは、ルネ ラリックのグラスでその名も『NIPPON』。1930年に作られたデザインだそうだ。どの辺りが日本なのかしら、と考えてしまうけれど。

器 ルネ ラリック NIPPONグラス 径7,5cm 高9cm

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No.29 杏のシロップ煮

 梅雨も半ばになると杏が出回る季節。5年くらい前からだろうか杏を見つけるとシロップ煮を作るようになった。ちょうど梅雨の蒸し暑さから梅雨明けし、真夏に向かって身体がバランスを崩す頃、これを食べると元気になる。かなり酸味のある杏だが、よく冷えたシロップ煮をいただくと気分もスッキリ、身体もシャッキリする。杏の柔らかい果肉を崩さないように扱うのは気を使う作業だが、形の崩れたものはそのままジャムにする。残ったシロップは炭酸水で割って飲むと杏の香りがして、これもまた美味しく、夏の楽しみだ。

 さて。杏は何に盛ろうか。ガラスのフルーツ皿や小鉢でも良いけれど、今日は古染めの皿を使った。呉須絵の古染めにフルーツは意外に良く映る。縁が少し立ち上がったこの形は古染めではあまり見ない形だ。この大きさだと、いわゆる なます皿 のように縁が緩やかに持ち上がる形がとても多いのだが、この皿は見込みは水平で、縁は抱えるのではなくむしろ反るように立ち上がっている。

器 古染付皿 径14cm 高2,5cm

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No. 28 金平糖

 織姫と牽牛。年に一度、七月七日の夜に会うことが出来ると言われる七夕の伝説。子供の頃は笹に願い事を記した短冊を下げて、叶うように願ったものだった。

元々は中国で前漢の頃、采女が七月七日に七針に糸を通す『乞巧奠』(きこうでん)と言う風習が記された文献が有り、これが七夕の起源とされる。その後の南北朝時代の『荊楚歳時記』には、七月七日は織姫と牽牛が会合する夜である、と有りその夜には女性達が7本の針の穴に美しい彩りの糸を通し、針仕事の上達を願った、と記されているそうだ。日本には、奈良時代にこの風習が伝わり、日本古来の『棚機津女』(たなばたつめ)の伝説と合わさって宮中や貴族の間で行事として行われたらしい。その後、江戸時代になって手習い事の願掛けとして庶民にも広がったとされる。

 星に見立てた金平糖を盛ったのは、刷毛目のぐい呑みで、高橋道八のもの。江戸後期から続く京焼の窯元で、道八の前に代々それぞれの号が付く。このぐい呑みの印は 「道八」 となっていて2代 仁阿弥 道八か、3代 華中亭 道八かは定かでない。口が広く涼やかな刷毛目は、これからの季節にちょうど良さそうだ。

器 刷毛目ぐい呑み 径7,5cm 高2,5cm

作 高橋 道八

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No.27 蕪の葉の胡麻和え

 野辺地の蕪の葉の胡麻和え。以前、No.21 ルネ ラリックの皿の回で野辺地の蕪とトマトのサラダを盛った。これはその時の文中にも書いた、我が家の定番となっている料理だ。この蕪は、白くて瑞々しい蕪本体に負けず劣らず、葉と茎も立派で美味しく小松菜やほうれん草などと同じように、葉物野菜の料理に使える。胡麻和えはもちろん、お浸しや味噌汁、煮浸しにも。蕪と軽く湯がいた茎と葉で浅漬けにしても美味しい。蕪を買って葉物野菜も付いてくるのでレパートリーも広がるしお得感も有る。

 胡麻和えは基本的に白胡麻を使っている。春菊のように香りの強い野菜の時は黒胡麻で和えるのが好きだが、黒胡麻には独特の風味が有るので淡白な野菜には向かないと感じる。今日は白の煉胡麻に砂糖、薄口醤油を出汁で良い加減の硬さに緩めて和えている。擂り胡麻を使う時もある。私は少し甘さの有る胡麻和えが好きでよく作るが、以前、京都の知人のお宅でご馳走になった胡麻和えが美味しかったので聞いたら、そのお宅ではお砂糖は使わないと言う。胡麻和えひとつにも其々の家庭の味が有り、其々の美味しさが有り、と改めて思う。

 少し深さのある小鉢は何度か登場している、2代 川瀬 竹春 (古余呂技窯) のもの。覗き(のぞき)と言うほど深く細くもない。向付ではあるけれど、少し小振りに感じるのでやはり小鉢、だろうか。5客揃いで入手したが箱が無いのでご本人が何と呼んだのかわからない。一目で竹春と判るフォルムと色。厚手でぽってりした白磁の地に竹春の明るい青と黄が映える。

器 六角小鉢 5客組  径 10,5cm 高 6,5cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春