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うつわ道楽

No.39 果物盛合せ

 よく行く八百屋の店先で、ふと眼に留まった小粒で透き通るような淡い緑の葡萄。近頃の葡萄の品種の多さと、大粒で高級感に溢れた堂々とした姿に圧倒されていた私の眼に、その葡萄はまるで画家が静物画の題材を選ぶような、そんな視点で飛び込んできた。前から果物を盛りたいと思っていた、ラリックの鉢がある。昼顔の花軸が鉢の脚に繋がる、なんとも優雅なフォルムで、セピアがかった色から盛るなら秋の果物と思っていた。翡翠色の小粒の葡萄を見つけた時、私の頭の中でその鉢と繋がった。

この小粒の葡萄は、名前をナイアガラと言う。その名の通りアメリカ、ニューヨーク州で1872年に生まれた白葡萄で、主にワインに使われる品種なので、食用に流通するのは珍しいのだそうだ。どうりで見たことがなかった。迷わず買い求め、少し考えて最近気に入って度々買っている無花果も一緒に買った。この無花果は同じ八百屋に出ていて、今年見つけた品種だ。比較的小粒で、甘味はそれほど強くなく、さっぱりした味わいが好きでそのまま食べるのではなく、料理に使うことが多い。

葡萄の表面に付いている白い粉のように見えるのはブルームと言うのだそうだ。葡萄が自らの果肉を乾燥から防ぐために、表面に付着させている蝋の成分だそうで、人が食して問題のないものらしい。粒ごと口に入れて、果肉を吸って皮と種を出す。最近の大粒の葡萄だと口の中で持て余すほどだけれど、子供の頃は主流だったデラウェアやこのナイアガラくらいの粒だと、その食べ方が適している。これは、つい最近のTV番組で知った情報だが、葡萄は食べ易さで人気の有る種無しよりも、本来の種の有る葡萄の方が糖度が高く、美味しいそうだ。実際に食べ比べ、糖度を測って検証していた。出始めた頃は、種が無いなんて食べ易くて画期的と思ったが、美味しいものをいただくには手間を惜しんでいては駄目と言うことか、と納得する。

買って帰ると、さっそく鉢に盛ってみたくなった。もう一種類、一緒に盛り合わせたのは梨。瑞々しく、柔らかい乳白色の果肉、歯触りの良さは独特の食感だ。恵みの秋、収穫の秋。次はこのガラス鉢に毬栗を盛ってみたくなった。

器 ルネ ラリック ガラス鉢 (1921年 VOLUBILIS イエローガラス) 径22cm 高6cm

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No.38 ロングビーンの中華炒め

 日本では、ささげと呼ばれるこの豆。見た目は、インゲンのとんでもなく長いやつ、としか言いようがない。太さも形も長いだけでインゲンにそっくりだけれど、皮の質感と艶、そしてしなやかさが違う。先日見つけた時、八百屋の店先では束ねて、丸く巻いてまとめてあった。長さは50〜60cmもある。前回出逢ったのは5年位前だろうか。聞いたら滅多に店に並ばない野菜だそうだ。私も毎日買い物に行くわけではないし、時間も大抵は夕方。滅多に出ない、しかも数も少ないとなると、中々お目にかかれないのも仕方がない。私のように見つけたら迷わず買ってしまうお客様も居るのだろう。その時も残りは2束。ひと束手に取って、最後のもうひとつも買ってしまおうか少し迷った。が、出逢いは欲張るものではない。逢えたのがめっけもの、と思い、最後のひとつは次に手に取る、もうお一方と分け合おうと断念する。

ささげと聞くとお赤飯に入れる小豆を連想する。調べたら、厳密にはささげと小豆は違う植物の豆だそうだ。どちらもささげ属だが、この長い鞘の野菜は正式名称を十六ささげと言い、そこから採れる豆がささげ豆。ささげ豆の方が小豆より色が黒ずんでいて、茹でても皮が破れにくい。そのため切腹しない、という縁起担ぎもあってお赤飯にはささげが使われる。十六ささげは、日本では茹でてお浸しか胡麻和えなどにして食すのが一般的らしい。次回は試してみようと思っている。

そもそも私とこの十六ささげの出逢いは、以前にも書いたが仕事でよく行っていた香港でのこと。お取引先との会食では、本当に美味しい高級中華料理を度々ご馳走になった。しかし、この料理と出逢ったのは、仲間内で見つけた四川料理のカジュアルなレストランだった。いつも滞在するホテルから近く、価格も手頃な気取らない店だった。一度食べてから、このお店に行く度に、と言うよりこれを食べたくてその店を訪れるようになった。ニンニクと唐辛子、挽肉、インゲンのような細長い野菜を中華の調味料で味付けしてあって、強めの辛味と程よい食感。この野菜は何だろう?といつも話していた。インゲンが一番近いけど、食感も味も違うよね。あのインゲン特有の青臭さも無い。と。時間のある時に現地のスーパーを探しても、これ、という野菜は見つからない。ある時、現地のスタッフに聞いたら、ロングビーンだと教えられた。

ロングビーン。日本では聞いたことがないから東南アジア特有の野菜かと思っていた。だがそれから何年もして、ある日、地元の八百屋の店先で見つけたのだ。ささげと書いてあったが、あのロングビーンだと直感した。さっそく買って、味を思い出しながら作ってみた。味はレストランを完全に再現することは出来なかったけれど、これこれ、とひとり満足気分に浸った。

そんな訳で、最初にこの十六ささげを食べた時のインパクトが強すぎて、写真のような中華炒めこそ、私が好きなロングビーン。きっと、私が知らないだけで、東南アジアでは広く食される食材なのかもしれない思う。だとしたら年間平均気温も高いから、日本ほど限定された収穫時期ではなく、手に入る季節も長いかもしれない。香港へよく行っていた最後の頃、そのレストランが在ったビルが建て替えられ、レストランも移転したのか、閉店したのか、行方知れずとなり、残念な想いをした。いつか、どこかの中華レストランでこのメニューにお目にかかれる事を期待している。

磁器やガラスが続いたので、ロングビーンの炒め物は土物の三島の皿に盛ってみた。一枚切りだが、何を盛っても良く映るので、使用頻度が高く、使い込んでいるのでトロっとした艶のある、良い表情になった。鮮やかな緑、少し見える唐辛子の赤が沈んだ色の皿に映える。

器 三島皿 16世紀 李氏朝鮮 径14,5cm 高3,5cm

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No.37 太刀魚のムニエル

 九州の親戚から、かぼすを送ってもらった。料理に添える事で風味と栄養価も上がる柑橘類は、無くても支障はないけれど有ると盛り付けも気分もアップする。嬉しいことに私が好きなのを覚えていて、毎年季節になると産地から送ってくれる。だから、この季節はかぼすが日々食卓に登場する。魚屋さんの店先で銀色に光る太刀魚を見つけ、かぼすを添えたムニエルが浮かんだ。皮が薄く傷が付きやすい太刀魚は、その皮目の輝きと傷が無いことが見分けるコツ。塩焼きもさっぱりして良いけれど、バターの風味がふっくらして淡白な白身を引き立てるムニエルが一番好きだ。

秋の気配が近づいて、きのこの季節。少しのにんにくとオリーブオイルでソテーしたきのこと共に、少し秋を感じる盛り付けにした。つもりだったのだけれど、この日、青みのアクセントに使ったのは夏の代表野菜ゴーヤ。たまたま、いただき物で手元に有ったゴーヤをチップスにしてみたら、ゴーヤ特有の強い苦味が緩和され、カリカリの食感が良く、そして輪切りにしたフォルムもおもしろい。いつもなら、軽いサラダリーフやブロッコリ、食感の良いスナップエンドウを付け合わせるところだ。鮮やかな緑が有ると盛り合わせが生き生きと引き立つのだけれど、今日は主役の一員、かぼすも引き立てたいし、揚げた事で少し色が落ち着いたゴーヤチップスを使ってみた。でも、よく見ると夏から秋へ季節の移り変わりをそのまま盛り合わせたひと皿になったようだ。

 使った皿は、明末清初の時代の古染め付け。肉や魚料理によく使っている。揃いではなく一枚しかないが、このサイズの単品の古染めの皿は他にも有るので、組み合わせて使っている。

この皿は桃の実の形を模していて、縁に回した鉄釉がその輪郭を引き立て、皿全体を引き締まった表情にしている。青みを帯びた白磁に大きく実った桃の実が描かれているが、その構図と余白は、鉄釉の皿の縁で括られた額の中の絵のようだ。

器 古染付 皿  径20cm 高4cm

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No.36 西瓜

夏を代表する果物と言えば西瓜。ここ数年、夏になると西瓜が楽しみのひとつになっている。特に今年はほぼ毎日食べているので、買い物が大変だ。昔はカットして小分けの単位での販売など無かったから、大きな西瓜を丸ごとひとつ買って、お風呂に水を張って冷やしたりしたものだった。今はラップが進化して、カットして販売しているので冷蔵庫事情的にも助かる。

お風呂上がりの冷たい西瓜は、果汁が身体に吸い込まれて渇きを癒し、身体の熱も冷ましてくれる。人と旬の食材の理に適った関係には深く納得させられる。水分が豊富でカリウムも有って、というのは以前から知っていた。が、改めて調べてみると利尿作用があり、美容にも、ダイエットにも良いのだとか。以前見たテレビ番組で取材していた西瓜農家さんは、赤や黄の果肉だけでなく、表面の皮だけ取って白い果肉も捨てることなく食すと知った。瓜の一種だけあって浅漬けにすると美味しいそうだ。

 日本ではあまり見かけないが、東南アジアでは西瓜はそのまま食べるのではなく、絞ってジュースにして飲むのが一般的だ。昔、仕事でよく行っていた香港では、現地スタッフはいつもウォーターメロンジュースを飲んでいた。個人的には、旅行で行ったバンコクのマンダリンオリエンタルホテルで飲んだウォーターメロンジュースが最も美味しかった。フルーツ天国のタイだけあって、このホテルの朝食ビュッフェには、フレッシュフルーツジュースが毎日20種類位サーバーに入って並んでいた。3泊して毎日3種類ずつ飲んだけれど、全部はとてもじゃないが制覇出来なかった。お料理も美味しいし、ジュースも欲張り、連日朝から食べ過ぎだった。このフレッシュジュースを飲むために、またいつか是非、訪れたいと思っている。

今年の夏は忙しく動き回ることが多かったが、7月、8月の暑さを乗り切ることが出来たのは西瓜のおかげか、と改めて実感する。西瓜もまだ暫くは出回っているので、暑い間はその甘い果汁と効能に助けてもらおう。

改めて西瓜を盛る器は、と考えると自分の中でこれが正解、と思える組み合わせが浮かばない。夏だし目にも涼しげに、と思ってラリックのガラスの皿に盛ってみた。透明、無色のシンプルな皿。いつもはカルパッチョなどに使っているけれど、これはこれで悪くはないかなあ。と、まだ思い悩んでいる。

器 ルネ ラリック皿  径 22cm