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うつわ道楽

No.83 蛸の柔らか煮

 私が自分で蛸や烏賊が好きな事は、もういい加減大人になって気が付いた。実家にいた頃は母が好きでよく食べていたけれど、当時は自分が特に好んだ記憶は無い。いつの間にか好みも変わっているようだ。今や高齢となった母は蛸や烏賊の刺身は食べ難く、たまに蛸を柔らかく煮る。味醂と酒と醤油、梅干しも加えた。柔らかくなるまで小一時間。大分縮んだけれど、良い色に出来上がった。

 蛸は、永楽の深さのある小皿に盛り付けた。小振りで、深さは有るのだが量を多くは盛れない。お料理屋さんのようでちょっと気取った雰囲気だ。蛸を盛ったら絵付けの色と馴染んで、良い感じに落ち着いた。

この皿は、多分中国の古い焼き物の写しだろうか。どの代かは不明だが、高台内に永楽 善五郎の印が在る。横長だけれど、上下にも緩く膨らんで、この形を何と呼ぶのだろう、と考えていたら『木瓜型』と教えられた。丸や楕円とは少し趣の違う形が楽しい。小さな見込みには舟に乗った人物が描いてある。舟遊びかと思ったけれど、よく見ると女の子は荷物を持って、右手の人物は厚手のコートのようなものを羽織っている。旅の道中なのかもしれない。

今ではもっと平たい皿を使うけれど、昔は刺身醤油を入れるのに深さのある小振りな器を使っていたようだから、この器もそんな風に使われていたのかもしれない。

器 木瓜型色絵小皿 径 8,5cmx6cm 高 3cm

作 永楽 善五郎

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No.82 フォー

 前回の棒棒鶏の茹で鶏を煮た時のスープで何を作ろうか、と考えた。少し白濁した生姜風味、やっぱり麺類が合いそうだ。暑さの反面エアコンで冷えた身体に、優しい味のフォーを作った。フォーはベトナムの米を原料とした麺料理だ。中国や東南アジアで多い、ライスヌードルを使った料理には台湾のビーフンやタイのパッタイなどが有る。パッタイの麺もフォーと同じ、きしめん状の平たい麺だ。乾燥のライスヌードルをぬるま湯で戻して茹でる。味を整えたスープに茹で鶏とパクチーを飾った。

フォーを盛ったのは、三浦 竹軒(ちっけん)の鉢。京焼で1883年(明治16年)に窯を開いた初代 三浦 竹泉の三男で、父亡き後二代を継いだ兄が早世したため三代を継ぐことになる。しかしそれから10数年後の1921年(大正10年)、四代(兄の二代の息子)に代を譲り、自分はその後 竹軒 と名乗り作陶を続けている。初代の三浦 竹泉(父)は、13歳で高橋 道八に弟子入りし、陶芸を学んだ。竹泉は磁器の染付けが多いが、器用な方で、色絵や金蘭、祥瑞など代々、手法も多岐に富んだそうだ。書画を趣味としたそうで、その影響からか煎茶道で珍重され、お煎茶道具を多く作っている。

竹軒のこの鉢も、本来は菓子鉢と思われる。厚手でずっしりと重みのある鉢で、深さも有る。土に白薬を掛けた上に呉須で漢詩を書いている。釉薬が厚く掛かった所はガラス質になり細かな貫入が見える。轆轤目が浮き出た肌の表情が優しい。

器 漢詩染付深鉢 径 13,5cm 高 10cm

作 三浦 竹軒 

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No.81 棒棒鶏

 買い物に出掛けたら、骨付きの鶏のもも肉のパックに値下げのシールが貼られているのを見つけた。前日売れなくて期日が近くなったのだろう。骨のない開いたもも肉を買うつもりだったのだけれど、骨を外せば同じ事だしこのまま廃棄されちゃうことになったらなあ。と思って手に取った。折角骨付きならこのまま茹でてスープも取ろう、と考えながらシール付きのもも肉2本を買って帰った。帰ってすぐに塩をもみ込み時間を置いて茹でた。葱の青い部分と生姜を加えて弱火でゆっくりと。おかげで柔らかくて程よい塩味のもも肉が茹だった。棒棒鶏が良いな、と思いついた。

使った皿は、古染付け。種類の違う草花が放射状に4種描かれた柄が気に入っている。古染めにはあまり見かけない柄で一枚しか無いが、呉須の色も良く眺めていても楽しい。瑞々しい胡瓜の食感と、胡麻だれで美味しくいただいた。

器 古染付皿 径15,5cm 高2,5cm

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No.80 トマトのビーフカレー

 暑い季節にはスパイシーなカレーが食べたくなる、と言われるが、我が家では季節を問わずよく作る。ただ、蒸し暑い時はルーのしっかりした重めのカレーより、サラッとしたいわゆるスパイスカレーの方が食欲をそそる感じがする。今回は、すね肉を煮込んだビーフカレーを作った。玉葱と人参、セロリをよく炒めてトマトも入れた。野菜は炒めた後に肉と一緒に煮込んだので、煮崩れてとろみのようになっている。カレーを食べる時、カレーの本場のようにナンなどのパンや、現地の米の場合もあるが、日本の白米でいただく時は、カレーがサラサラでご飯にすっかりしみ込んでしまうより、ご飯の上に載るくらいの方が好きだ。添えた夏野菜は後からトッピングで盛り合わせた。深く加熱した野菜の甘みにトマトの酸味が加わり、家族の好みで辛さは控えめ。優しい味のカレーが出来た。

 我が家では、洋食器の割合が和食器に比べると圧倒的に少ない。なのでどんなメニューも和食器に盛ることが多くなる。和食器でカレーをいただく時でもスプーンは金属ではなく、塗り物や当たりの柔らかい素材を使えば食器を傷める心配もない。

今回は古染付の皿を使った。焼きの甘い陶器だと、カレーの色が染みそうで不安だけれど、磁器ならその心配もない。この、唐子が踊っているような絵の皿は余白が多く、全面に絵や文字が有る皿よりも盛った料理が際立ち、映えるので使う頻度が高い。見込みの中央に7つ有る眼跡は、皿を重ねて窯に入れる時に皿同士がくっつかないようにする緩衝材で、焼き上がって外す時に釉薬が一緒に剥がれた跡だ。本来は傷のような物で、勿論無い方が良いのだろうけれど、長く使われて来た今ではこれも皿の模様の一部のように溶け込んでいる。

器 古染め付皿  径19,5cm 高4cm

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No.79 蛸のジェノバソース

 ベランダで、大き過ぎるほどに繁ったバシルを大量に消費しようと、ジェノバソースを作った。これも以前、地元のイタリアンレストランの料理教室で習ったレシピだ。松の実とパルミジャーノレッジャーノ、少量のガーリックにオリーブオイルを加えてペースト状にする。塩とガーリックは控えめにしておいて、使うメニューに合わせて調節する。

イタリアの北西部、ジェノバ辺りの料理であることからこの名が付いたソースで、パスタに和えるととても美味しい。トマトソースやピザのトッピングにしたり、ドレッシングに加えたり、楽しみ方は色々ある。濃い緑色のソースは見た目にもアクセントになる。オイルや道具を冷蔵庫で冷やして準備し、低温で手早く仕上げるのがポイントだそうだ。

盛り付けた料理は、今が旬の茹でた真蛸にポテト、いんげんをジェノバソースで和えたもの。冷えた白ワインによく合う。夏至が過ぎて7月初旬は半夏生。一年のうちで昼間が最も長くなる時期だ。昔からの農家の風習で、この時期には蛸を食す。昨年のこの時期にも書いた記憶があるが、8本もある蛸の脚のように作物の根がしっかり張るように、との想いが込められているのだそうだ。タウリンが豊富な蛸を食べて暑さ対策にもなり、実益を兼ねた食文化だ。

使った皿は古染め付。作られたのは約400年ほど前の中国で、遠い昔に海を渡って日本に来た皿だ。大切に使われて時が流れ、今は私がイタリア料理を盛って楽しめるとは贅沢な話だわ、と感謝の気持ちで楽しんだ。

器 古染め付皿 径15cm 高3cm