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うつわ道楽

No.96 林檎のケーキ

 林檎が店頭で目に付くようになった。最近は少なくなった紅玉を見つけて、久しぶりに林檎のケーキが食べたくなった。林檎をカラメルソースで煮て、生地に混ぜ込んで焼くだけの簡単レシピだ。以前、このレシピで林檎をバナナに変えて作ったバナナケーキも掲載したが、バナナなのか林檎なのか、残念ながら写真での見た目は変わらない。このタイプのケーキは焼いてすぐより、翌日の方がしっとりして美味しくなる。食べながら、次回はシナモンを少し加えてみようかと考えた。

この皿はShelley(シェリー)。イングランド、スタッフォードシャーの陶器メーカーのものだ。1853年に窯を開いて以来、シェリー窯になるまで、経営者が変わって、数回窯の名前が変わったらしい。このシェイプの皿はB&Bプレートと呼ばれる。色柄の違いでバリエーションが沢山ある。実は我が家にも4枚。多分このシェイプの皿は長く作られていて、時代によって絵付けの傾向が変わっているのだろう。草花をモチーフにした柔らかい色使いのものや、この皿のようにアール・デコのシャープなものなど、デザインは様々だ。この皿は、アール・デコ全盛期の1920-30年頃のものだろう。お菓子を盛ったり、果物やサラダに、と食卓によく登場する。

器 Shelley (シェリー) B&Bプレート 径25x21cm 高2,5cm

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No.95 茶碗蒸し

 急に肌寒くなって、熱々の茶碗蒸しが恋しくなった。百合根や銀杏も店頭に出始めている。具は、その百合根と銀杏、小海老に椎茸と彩りの三つ葉。出汁が多めで柔らかい口当たりが好みだ。大きめの器でたっぷりいただく。

この、捻紋の蓋物は白磁の地の部分が多く、涼しげな印象から蒸し物にはあまり使っていなかったのだが、見込みが大きくて良いかしら、と思って使ってみた。作者は初代の矢口 永寿(1870〜1952)。号を清々軒という。石川県の温泉宿の生まれだそうで、山中町に1904年(明治37年)に永寿窯を開いた。作品は東京や名古屋の数奇者などが買っていたようだ。作陶の他に書画や料理にも秀でた方で、魯山人とも交流があったらしい。山中温泉と言えば No.87の回で使った、辻 石斎の漆碗は山中塗。きっと同じ辺りだろうか。

透き通った白い地肌に、濁りのない呉須の青が清々しい。朝顔か夕顔か、花弁のように開いた輪郭は、文字通り花びらの縁のように波打ち、弧を描いている。5客有るが、本体にも蓋にも動きがあるので、収まりの良い蓋を合わせるのにいつも頭を悩ませる。

器 白磁捻紋 蓋付向付 5客 径10,5cm 高8cm(蓋込10cm)

作 初代 矢口 永寿 

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No.94 無花果の胡麻だれ

 無花果は夏が季節と思いがちだが、秋にも旬が有るそうだ。ちょうど今頃も、美味しそうな無花果が八百屋の店先に出ている。以前、無花果の生ハム載せを作って、魯山人の織部釉の皿に盛った(No.40)。調べてみたらちょうど一年前、昨年の10月だった。生ハムを載せるのも美味しいけれど、この胡麻だれをかけた無花果も好きでよく作る。白の練り胡麻を出汁で伸ばして、少しの砂糖と薄口醤油で味を付ける。甘くて柔らかい無花果の果肉に、薄い塩味の胡麻だれが不思議と合う。生ハムを載せてイタリアンに、胡麻だれをかけると和風の献立になる。食卓に一品加えると、ちょっとお洒落なアクセントになる。

片口の萩焼の向付は六客揃いで、第13代 坂田 泥華(さかた でいか 1915〜2010)の作。とても気に入っていて長く使っている。不思議と、何を盛っても良く映る。素朴な萩焼の肌で、窯の火の当たり具合で、ピンク色に発色している所とグレーに沈んだ部分がひとつの器に同居する。片口の小さな口は、後から本体に付けた時の指の跡が残る。手で持って釉薬をかけた時の指跡も。どんな風に持ったのだろう、と、指跡に倣って試してみたりする。色の発色も、釉薬の掛かり方も六つがそれぞれに違っていて、個性が有って楽しめる。

器 萩焼 片口向付 六客組  径15cm 高7,5cm

作 第13代 坂田 泥華

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No.93 鈴の最中

 猫の首に鈴を付ける。これは日本の寓話かと思っていたが、実はイソップ物語なのだそうだ。天敵の猫が近づくのを察知するために、鼠たちが考え出した知恵だ。アイディアは秀逸だけれど、実際に猫に鈴を付けに行く鼠が居なかった。その事から良い思いつきでも実行出来ない事の例えとしても使われる。

我が家の猫の首にも鈴が付いている。販売されている猫の首輪には、元から鈴付きのものが多い。今どき、家の中に鼠は居ないし、もし居たら困るから飼い猫に鈴を付けるのは考えもの。とは言っても鈴を鳴らして歩く姿は愛らしく、毛繕いの動きで鳴る鈴の音には気持ちが和む。我が家の猫も最初は少し戸惑っていたけれど直ぐに慣れて、あながち嫌でもなさそうだ。

鈴は、金属の薄い殻のような外形の中に球が入っていて、振動で鳴るというとてもシンプルな楽器だ。古代、胡桃や団栗などの実で、中に隙間がある個体を振ると音が出る、という事に気付いた先祖が、それを祈祷や踊りで楽器として使い、やがて土鈴が出来、金属へと進化して行った。今でも、神社でお参りする時には大きな鈴を鳴らす。日本でも昔から神事と深い結び付きがある。

その可愛らしい鈴の形の最中は、博多で90年続く和菓子屋さんのもの。東京の百貨店の催事に出店していたので購入した。鈴が屋号にもなっている、その和菓子屋さんの名物最中だそうだ。さて、何に盛ったら似合うかしら。と考えたらこの赤楽が浮かんだ。楽 吉左衛門の十代で、江戸後期に活躍した旦入(1795-1855)の皿だ。楽焼は柔らかいので水分が入り易く、いつも使うのを躊躇うのだけれど、この最中なら安心して使える。思った通り、いや思った以上によく似合う。見込みの指跡の渦巻き状の窪みが柔らかい陰影を作る。楽焼は轆轤を使わない。どうやったらこんなに綺麗な渦巻きが出来るのだろう、と思いを巡らす。裏には小さな突起の脚が3つ。表情の有る皿だ。

器 赤楽小皿 五枚組  径12cm 高2cm

作 10代 楽 吉左衛門(旦入)