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うつわ道楽

No.113 ペカンナッツ ショコラブラン

 まるで森に降る雪が、地面に落ちた木の実に積もったように見える。この美しいお菓子は、ホワイトチョコレートが掛かったペカンナッツ。洋菓子と和菓子を作るお菓子屋さんで見つけ、このお皿に盛ってみたいと購入した。

 雪輪と呼ばれる輪郭のこの皿は、私が一目惚れしたもので、第13代 楽 吉左衛門(惺入 せいにゅう 1887-1944)の作品。鮮やかな翡翠色に金の色は美しく、楽焼きの柔らかい土の質感を遮ることなく釉薬を纏っているようで、皿だけ見ていても見飽きる事がない。

最近、楽 吉左衛門はお抹茶茶碗しか作られていないようだけれど、以前の代では茶懐石の器や手炙りなども多く作られていた。それらの器は赤楽の物が多く、色を付けたものは比較的少ない。楽焼は焼きが甘く、水分が染み込みやすい上に壊れやすいので、使うのは相当に気を使う。この皿もこれまで実際に何かを盛って使ったことは殆ど無く、時々出して、ひとりで眺めて楽しんでいた。そんな皿だ。

ペカンナッツはピーカンナッツとも呼ばれるらしい。原産は北米で、胡桃と似ているが少し細長い形をしている。胡桃はヨーロッパからアジアが原産で、形は丸く少しの苦味が有る。カナダやアメリカではこのペカンナッツが胡桃のように使われているのだそうだ。苦味が無い分、ホワイトチョコレートとのハーモニーも良く、マイルドでとても美味しい。また見付けたら、雪輪の皿に盛ってひとりで贅沢に楽しもう。

器 雪輪小皿 五枚組  径11cm 高2,5cm

作 第13代 楽 吉左衛門(惺入)

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No.112 きんきの煮付け

 魚屋の店頭で小振りで活きの良いきんきを見つけた。煮付けにしたら美味しそうだ、と迷わず買った。地元の魚屋は大きい店が二軒並んでいて、どちらも取り扱う種類も量も多く、新鮮な魚が揃っている。そんな環境でもきんきを見つける機会はそう多くない。

帰って早速煮付けにした。柔らかくて淡白なきんきは、少し強めの味付けが美味しい。肝も後から加えて共に盛り付ける。淡白な魚ではあるけれど、この季節には脂が乗っていて煮汁にも僅かながら脂が浮いた。熱々のご飯とよく合う。濃い色の煮汁に朱いきんき、ほぐすと真っ白の身が美しい。この煮付けは清風与平の祥瑞の皿に盛った。魚は小振りながらこの主張の強い皿に負けない存在感が有る。

濃いが鮮やかな色の呉須で、見込みいっぱいに細かく描き込まれた皿だ。この作者、第5代 清風 与平は以前にも書いたが余白恐怖症かと思うほど隙間なく絵で埋める。このパワーはすごい。図柄は皿いっぱいに描かれた大きな花。それを構成する花弁には、ゆるく捻りが有ってそれぞれの花弁に花や鳥、祥瑞特有の幾何学模様が書き込まれている。とても力強い。縁が立ち上がっているので少し汁のある料理に向いている。見込みは迫力の有る絵で埋め尽くされているが、裏はすっきり、刷毛目の跡が残る呉須一色で塗られている。裏面の中央に高台は無く、釉薬の掛からない白磁の素地が覗いている。

器 祥瑞捻花反鉢 径23x21cm 高4cm

作 第5代 清風 与平

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No.111 酒

 半月ほど前、裏庭の梅に小さな蕾がたくさん付いているのを見つけた。冷たい風に縮こまるように固く小さな蕾だった。立春は過ぎたけれど、蕾はなかなか膨らまない。と思っていたら今朝、たった一輪開いているのを見つけた。今日は関東では珍しく冷たい雪の朝。そんな寒い日に咲くとは、と驚いた。開いたばかりの深い紅の花に真白い雪が積もって、なんとも風情の有る景色で見惚れてしまった。紅白で並んでいる梅の木は、毎年紅梅が早く、紅白が揃って満開を迎える事がない。

頑張って咲いた紅梅を見てこの盃を思い出した。薄く透ける白磁の花弁が儚げで美しい。こんな雪の寒い日は、この盃の花を見ながら熱燗を呑みたくなる。

この盃の作者は 第16代永楽 善五郎(即全 1917-1998)。即全は、14代の得全と、得全亡き後永楽窯を支えた妻の妙全の息子で、No.109 (2023/1/27)で使った土瓶の作者、15代正全の甥に当たる。即全が生きた時代は大正から昭和、と思うとこの盃も近しく感じる。

器 梅花盃  径8cm 高3,5cm

作 第16代 永楽 善五郎(即全)

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No.110 湯豆腐

 明日は立春。前日の今日が節分で旧暦の大晦日にあたる。豆まきは『鬼は外、福は内』の掛け声でこれまでの一年間の邪気を祓う儀式だと言う。

世間では節分の恵方巻が人気。様々なお店がオリジナルの恵方巻を店頭に並べていて、見て歩くのも楽しい。しかし最近知ったのだが、古来から立春の縁起物として豆腐を食べる風習があるそうだ。白い豆腐には邪気を祓うほどの霊力が宿るとされ、節分に食べると一年の罪や穢れを祓い、立春に食べると清めた身体に福を呼ぶのだとか。

豆腐料理、と考えて久しぶりに熱々の揚げ出し豆腐が良いか、と思ったが邪気を祓うほどの、と言われると真っ白いままの湯豆腐が一番だろう。身体を温めて消化も良く、この季節には特に美味しい。薬味には葱とおろし生姜で更に効果的。理に適った料理だと思う。今年は恵方巻は作らずに、見繕って気に入った物を少しだけ買って来たので、豆まきをしたら湯豆腐と太巻きで節分の夕餉としよう。

湯豆腐は土鍋で煮るけれど、取り皿には古染付の向付を使った。熱い豆腐を入れるには少し厚手の器を使うのが良いのだけれど、今日は少し改まった気分でいただこう。少し深さのあるこの大きさは小鉢としても使いやすく、和え物や副菜を盛るのに重宝している。見込みの絵は大きな手の付いた盛り花。呉須一色の絵付けだけれど華やかで優しい。旧暦の正月となる明日の立春、福を呼び込むためのお豆腐料理は何にしようか。

器 古染付 向付  径13,5cm 高4,5cm