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うつわ道楽

No.157 玄米茶

 今年もあと数日。気持ち良く新年を迎えるための大掃除の手を止めて、少し休憩。玄米茶の香りが芳ばしく立ち上る。

普段はぐい呑としても使っている、このちょっと変わった湯呑みは5代 清風 与平の作品。大好きな陶芸家さんで、もう何度も登場している。白磁に呉須や色絵で、余白も残らないほどにくまなく描き込む。この湯呑は手捻りで、稚拙に見えるほどに形も歪。しっかりした鮮やかな呉須の色を背景に、花が白く表現されている。

玄米茶を注いで、この茶碗を眺めていた。花が描かれているはずなのに、そのひとつが龍の顔に見えて来た。次の年が辰年なのが頭の隅にあったからだろうか。龍と言ってもアニメに出て来そうなお茶目で可愛らしい顔立ち。家族に聞いても『いや。花でしょう』と一掃された。確かに、顔だけで身体は見当たらない。でも、一度そう思ってしまうと何度見ても私には可愛らしい龍の顔に見える。いくら遊び心の有る方だったとは言え、清風さんが花の中に龍を紛れ込ませた、なんて事は無いだろうけれど、私の中で、この湯呑にまた別な愛着が生まれた。

器 染付湯呑  径6cm 高8,5cm

作 第5代 清風 与平

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No.156 冬至のオードブルプレート

 今日は冬至。冬至に食する風習の南瓜、煮物にする事が多いけれど、今年は少し趣向を変えてマッシュドパンプキンにしてオードブル風に盛り合わせた。皮を取って柔らかく茹でた南瓜は、熱いうちに軽く潰して、塩、胡椒、バターで味付けし、温かいうちにレーズンを加える。南瓜の優しい甘さとレーズンの甘酸っぱさ、トッピングに軽くローストしたスライスアーモンドを乗せると、更に香りと食感にアクセントが付いて美味しい。

トマト、プルドポーク、明太子とサワークリームの3種のブルスケッタや温野菜と盛り合わせたのは、Rene Lalique(ルネ ラリック)の『COQUILLE(コキーユ)』と呼ばれる貝をモチーフにした皿。調べてみたら作られたのは1924年。時代を反映したアール デコの、ラリックの代表的なデザインのひとつとなっている。オパルセントと呼ばれる青く乳白色に光るガラスで作られた物と透明ガラスの物が有るらしい。この皿は、オパルセントではあるようだけれど、色の出方がとても淡く、光の具合で淡く色が浮かぶ事もあるが、殆ど透明のように見える。

幾何学的に並んだ帆立貝の様な貝殻、殻頂(かくちょう)と呼ばれる二枚貝の繋がった頂点が中央に集まり、その厚みのある4個の突起が皿の脚となっている。この大きさの皿に中央に寄った4点の脚は不安定そうに思えるが、ガラスの厚みが重さになって、とても安定感が有り、貝の立体感も上手く表現されている。厚みを感じさせないガラスの透明感を活かしたデザインに感心する。

器 COQUILLE(コキーユ) 径30cm 高4cm

作 Rene Lalique(ルネ ラリック)

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No.155 茹で卵

 ひとり用の、なんとも可愛いエッグスタンド。脚の付いた小さいタンブラーの様な形のエッグスタンドは見た事が有ったけれど、このソルト&ペッパー入れまでセットされたエッグスタンドは見た事がなかった。英国人はこんなお洒落な器で茹で卵を食べるのかしら、と驚いた。小振りのソルト&ペッパーは、底に穴が開いていて、そこからそれぞれ塩、胡椒を入れて、コルク栓で蓋をするように作られている。

このSusie Cooperは、1936年に作られた〝GREY LEAF“というシリーズのもの。調べると、ミート皿の大きい皿も作られていたようだが、我が家に有るのはひとり用の朝食用としてまとめられたワンセット。このエッグスタンドの他に、ティーポット、ミルクピッチャー、カップ&ソーサー、パン用の皿とサラダボウル。元々、これが揃いで作られていたのかは判らないが、ロンドンのアンティークマーケットで見つけた時は、これがワンセットで売られていた。

 柔らかい青空のようなブルーが美しい。淡いグレーの細い線で繊細に描かれた葉は、最初鳥の羽かしら、と思ったほど軽やか。どんなレディー、またはジェントルマンがこれで朝食を摂っていたのだろう、と想像が膨らむ。

器 ソルト&ペッパー付エッグスタンド  幅8cm 奥行8cm 高4,5cm

作 Susie Cooper (England)

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No.154 揚げ出し豆腐

 もう、随分前に放送されたTVドラマで、現代の医者が階段から落ちた拍子に江戸時代にタイムスリップしてしまうドラマがあった。原作は漫画で、調べてみたらドラマが放送されたのは2009年、続編となる完結編が2011年の事。タイトルは『JIN-仁』。主人公のタイムスリップしてしまう医師、南方 仁は、抗生物質も無い時代に、その時代でも医師として奮闘する。坂本 龍馬や勝海舟なども登場して、とても面白かった。

江戸時代にタイムスリップしてしまった仁先生は、若い武士に助けられ、その一家の居候となる。その家で仁先生の好物が揚げ出し豆腐。前置きが長くなったけれど、それ以来、私の中で揚げ出し豆腐はそのドラマと結び付き、つい仁先生を思い出してしまう。

そもそも江戸の終わり頃に揚げ物料理が有ったのか、と調べてみたら、あのドラマを観て私と同じように感じた方が居たらしい。その回答は、『江戸中期に出た豆腐料理の本に、揚げ出し豆腐は掲載されていたので、この物語の江戸後期には一般の食卓にも出ていただろう』と。食用油なんて貴重だったのでは、と思ってしまう。カリッと上がった衣に漬け汁が沁みて、中は熱々の豆腐。当時とは違ってメイン料理にはならないけれど、今でも作りたての揚げ出し豆腐は心温まるご馳走だ。

 この器は呉須染付。五つ組の向附けで、所々ホツ(欠け)の直しがある。少し不恰好だけれど、鳳凰と思われる鳥が見込みにもに描かれている。

呉須染付は、呉須赤絵と呼ばれる中国の陶器の中で呉須の青だけを使った、古染付のような見え方のものを指す。漳州窯(しょうしゅうよう)で焼かれていたこの呉須赤絵や呉須染付は、格調高い特別なものではなく、むしろ大量生産の雑器で、形状も多くは皿や平鉢などに限られている。同じ時代に景徳鎮で作られ、日本に運ばれて来た古染付や祥瑞とは性格も格も違う焼き物だった。とは言え、長い年月を経て今に残っている。作られた頃の位置付けは別として、古染付と共に呉須染付も日本で長く大事にされて来たのだ、と嬉しく思う。

器 呉須藍絵端反 五脚組  径12cm 高6cm

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No.153 粕汁

 奈良漬の残りの酒粕が、ほんの少し残っていたのでひとり分の粕汁を作った。在る材料で、具沢山のけんちん汁に粕を加えたようなものだ。お出汁で煮た根菜、きのこと揚げに、味付けは薄口醤油と味噌を少し。最後に酒粕を溶かして完成。少し酒の香りが漂う。酒に弱い方ならそれだけで酔ってしまうかもしれない。でもその分、身体は温まる。

この根来(ねごろ)の椀、特に名のある方の作品ではないけれど、温もりと素朴さが有って使いやすい。根来塗は、今の和歌山県岩出市の根来寺に由来する。漆椀の発祥とも言われているそうだ。木地に生漆を掛け、口周りを布で補強し、黒漆を掛けた上に朱漆を薄くかける。使って行くうちに表面の朱漆が薄くなり下の層の黒漆が透けて見えて来る。

 根来塗の発祥は鎌倉時代。高野山での対立により、本拠地を根来寺に移した新義真言宗の僧たちが、寺での食事に使う器として作ったのが始まりらしい。だから、日常の使用のための耐久性が求められ、その使いやすさから寺の外へ広まって行った。しかし、その後の1585年、豊臣 秀吉の紀州根来攻めで、漆の職人達が散り散りになり、根来塗は長く忘れられていた。その後復興され、高度成長期にはプラスチックの下地に根来塗の漆を施した椀を多く作っていたそうだ。現在では、手の掛かる漆塗りの下地をプラスチックに、なんて考える事は無いだろうけれど、価格を安くするために考えられた、生き残るための苦肉の策だったのだろう。

 椀の縁に薄く黒漆が透けて見え、朱一色の椀には無いアクセントと表情が生まる。少しカジュアルな雰囲気が増し、普段使いの気軽さを感じる。久しぶりに使ってみて、改めて好きになった。

器 根来塗 椀  径12cm 高6cm(蓋込8cm)