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うつわ道楽

No.170 筍と菜花の胡麻だれ

 旬とは言え、まだ八百屋の店先に並んでいる筍は小振り。柔らかくて灰汁も弱く、優しい風味で春そのものを食べているようだ。サラダ風にそのものの味を楽しみたくて、塩茹でした菜の花と盛り合わせて胡麻だれでいただいた。白のねり胡麻を出汁で伸ばして、少しの塩と砂糖、米酢で味付けた。和えずに掛けただけなら野菜の色も楽しめる。

 盛った高取焼の皿に瑞々しい野菜が映え、白胡麻のたれは釉薬の色とも馴染んで、こんな使い方も良いかしら、と嬉しくなる。この器は、高取 重定(しげさだ 本名 源十郎)の作。天保6年頃の事らしい。それ以外の詳しい情報はわからないけれど、この皿は私が思っていた高取焼の印象を大きく変えた。

粒子の細かい土を使う高取焼は、土の滑らかな地肌に釉薬が馴染み、備前や信楽、唐津などに比べて土物(つちもの)の割に上品で力強さに欠ける、と思っていた。お茶の世界では小堀 遠州が好んだことからお茶入れや花器、水指など使われるけれど、料理の器はあまり多くないし、つるんとした印象で器としての高取焼には興味が無かった。だがそれは、この舟型の高取焼に出逢うまでの話。滑らかな土だからこそ、薄作りの繊細なディテールとシャープなシルエット。丸くて小さい3つの脚に支えられて浮かぶ舟の姿に惚れ惚れした。この小さな舟に、次は何を盛ろうか考えるとわくわくする。

器 高取 足付舟形皿

作 高取 重定

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No.169 大根の浅漬け

 友人から、庭で収穫した大根をもらった。大きめの人参位の大きさで、大根としては小振りだけれど、大きく茂った瑞々しい葉がついていた。包丁の通りが柔らかく、そのままで美味しそうだったので、軽く湯掻いた茎や葉と一緒に浅漬けを作った。

使った小皿は、度々登場する第5代 清風 与平の染付け。鮮やかな呉須のしっかりした筆使いで描かれた山水画は、小皿の小さな見込みに収まらないくらい雄大に見える。皿の裏には、縁に沿ってぐるりと漢詩が書かれている。残念ながら私には読めないけれど、この情景のもととなった内容なのだろうか。切り立った山や岩肌、舟を浮かべて漁をする人影。小皿の中に物語を感じる。

器 染付小皿  径11cm 高1,5cm

作 第5代 清風 与平

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No.168 フレンチトースト

 春めいた陽射しに誘われて、少し固くなったバゲットでフレンチトーストを作った。多めのバターとメープルシロップ、グリルした野菜とウィンナーを添えた。ワンプレートに使った皿は、フランスのカンペール焼。調べてみたらカンペール焼のHPに、その説明があったので以下、引用させていただく。

『フランス陶器の「大家」カンペール焼は、フランスで最も有名な手書き絵付けの陶器です。 総窯元であるアンリオ-カンペール社は、フランス ブルターニュ・カンペールの地で、 ルイ14世の時代に王家により設立されました。 その歴史は現存するフランス最古の企業としても有名です。 全てにおいてハンドメイドで製作されるノウハウは、フランス最上級の芸術品として認められており、その偉大な歴史と技巧は企業遺産の認定を受けております。 また、ゴーギャンやセザンヌ、ピカソ他、多くの画家がカンペール陶器でイマジネーションを高めた事でも有名です。』

 ベルサイユ宮殿を作ったブルボン王朝第3代のフランス国王、ルイ14世(1638〜1715)が生きた時代。日本は江戸時代で、寛永から元禄、正徳の頃。1716年から享保年間になる前年に77歳で亡くなっている。ルイ14世が50歳を過ぎた頃、1690年頃にカンペール焼を作ったとして、330年を超える歴史が有る事になる。この皿が作られた年代は不明。あまり古くはないが、新しくもない。日本でいうと昭和初期、といった辺りだろうか。

 暖かみのある象牙色、焼きが甘く柔らかい肌。縁を彩る黄色と青のラインは太陽と海を思わせる。見込みには南国風の鳥と実の付いたオリーブのような植物。鮮やかな色使いと筆のタッチに魅入ってしまう。眺めるだけでフランスの風景が浮かんで来るようだ。暖かい日差しの中、カフェのオープンテラスでいただくブランチを思い描いて楽しんだ。

器 鳥と植物図皿  径 21cm 高3,5cm

作 カンペール焼(フランス)

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No.167 蛤の酒蒸し

今年も三重に住む親類から蛤が届いた。大きくて新鮮。さっそく酒蒸しにしていただいた。

焼き蛤も美味しいけれど、近頃のガスコンロは優秀すぎて、高温になると自動的に消火されてしまい、料理によっては使い勝手が良くない事がある。カセットコンロを出して焼けばきっと出来るのかしら、と思う。次回は試してみよう。貝の下には旬の青菜を添え、蛤の汁を含んだ菜の花も美味しくいただいた。

使った皿は、村田 亀水(きすい)。8代の亀水が2018年に亡くなったそうだ。その後を継ぐ方はいらっしゃるのだろうか。この皿はその亀水の何代か前、幕末の頃に作られたもの。幕末期とは260年続いた江戸時代の最後の15年間を指すらしい。今からざっと160年前だから、4代とか5代の頃だろうか、確認は出来なかった。

鮮やかな呉須で細かく描かれた草花は生き生きとして、風に揺れる様が眼に浮かぶ。本体は厚手で、丸く作った皿のニ辺を切り取り、見込みにはその直線の縁に平行に、ヘラで抉り取ったような溝が数本。その大胆な作りにダイナミックさを感じる。裏には実と葉のついた枝の図が彫られ、その部分は土が見えている。その彫刻以外の肌には青磁色の釉薬がかけられていて、淡い緑青色の透明感が美しく映える。迫力が有りながら、繊細さと洒落感もあり、とても惹きつけられる。

器 染付草花紋 木瓜皿  径20x15cm 高4,5cm

作 村田 亀水

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No.166 ちらし寿司

 もうすぐ雛祭り。少し早いけれど恒例のちらし寿司を作った。家に伝わる大正時代の雛人形は、長い年月のうちに壊れたり紛失した飾物も有る。無いものは補いながら、壊れた所は直しながら、飾り方を工夫して今も変わらず私の宝物。昭和、平成、令和と時代は変わり、飾る場所も変わって来たけれど、年に一度飾って、再会するのを楽しみにしている。

雛祭りのちらし寿司はやっぱり華やかにしたい。今年は錦糸卵に菜の花といくら、海老を飾り、酢飯には穴子、酢蓮根、筍、白胡麻と大葉を混ぜた。この華やかなちらし寿司を青呉須の皿に盛った。料理も明るく華やかで、皿の染付の青の色が美しく映った。

青呉須は、染付の藍色の呉須とは異なり、呉須赤絵などに使われる緑ががった透明感のある色で、この青呉須だけで描かれた陶器を『タンパン』とも言う。見込みの中央に漁師を乗せた舟が描かれ、私には読めないけれど詩も書かれている。素朴な筆使いと絵が暖かい。

縁が付いた平皿にはよく有る作りで、裏には低い高台が有るのだけれど、この高台よりも皿の中央が下がっていて、机に置くと高台が浮いてしまって収まりが悪い。きっと窯の中で何かと重ねて焼いていて、皿の底が下がってしまったのだろう。こんな器は、机や折敷を傷つけるので、少し厚みのある布や繊維で出来た敷物を使う。今の時代では皿として商品にはならないけれど、古い器を使うにはこんな不都合も楽しめる心のゆとりが必要だ。使った時の美しさと満足感には代え難い物があるのだから。

器 青呉須 舟図平皿  径21,5cm 高4cm