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うつわ道楽

No.179 金目鯛の煮付

 これから旬を迎える金目鯛。少し時期は早いけれど、たまたま多く水揚げされたのか、魚屋さんの店先でお手頃な金目鯛を見つけた。お頭付きの大きな金目鯛も有ったのだけど、家の鍋には納まらないので、骨付きの半身の方を買って、切り身の大きさに切り分けて煮付けを作った。

 切り身は軽く塩をしてから熱湯を回し掛け、霜降りにする。鍋に酒、砂糖、醤油、味醂を合わせた煮汁を沸かして、切り身と生姜のスライスを入れ、落とし蓋をして煮る。煮汁が煮詰まって切り身に味が染みたら出来上がり。白いご飯と贅沢な煮魚で美味しくいただいた。

 使った鉢は私が大好きで、もう何度も登場している 第5代 清風 与平 のもの。赤い魚の煮付けは何に盛ろうか、と考えた時に力強い呉須の絵付けを選んでしまうのは、私の変わらぬ好みのようだ。と言うのは、以前の回を見返していたら昨年の2月、No.112 の回で同じ 清風 与平 の祥瑞の皿にきんきの煮付けを盛っていたのを見つけた。考える事は変わらないなあと思う。

鉢は、外側にも見込みにも文字や風景、漁をする人の姿が細かく描き込まれている。でも口の部分はぐるりと丸く、白磁の白が残されていて、その白が呉須で描き込まれた鉢の輪郭を際立たせ、中に盛った料理を引き立てる。やっぱり清風 与平 の器は好きだなあと改めて思った。

器 染付 漁翁図鉢  径20cm 高6cm

作 第5代 清風 与平

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No.178 冷えたワイン

 

 マイセンと言えば、旧東ドイツ(現 ドイツ連邦共和国 ザクセン州 ドレスデン地方 マイセン郡)の磁器製品のブランド。東洋から伝わった磁器をヨーロッパで最も早く、1710年頃に再現したのはドイツの錬金術師で、マイセンの前身である王立ザクセン磁器工場が作られたのだそうだ。特徴は磁器の細かい細工のボディと優雅な手描きの絵付け。東洋の呉須だけで描かれたような、マイセン特有の青の線描“ブルーオニオン“は西洋風にアレンジされた更紗模様が美しい。美しい発色の釉薬で描かれた花の模様も、まるで絵画のようだ。マイセンの製品の多くに東洋の影響を受けたと思われる絵付けがされている。

 その磁器で有名なマイセンのワイングラスに、冷えた白ワインを注いだ。すごく久しぶりに箱から出してみたら、このグラスで飲みたくなった。そもそもマイセンでガラスも作っていたとは、これを見るまで知らなかったのだけれど、カットで表現された絵柄をよく見ると、磁器に施された絵と確かに同じ。この、アラビアンナイトのモチーフや、優美な女性、エキゾチックな世界に引き込まれる。確か、赤ワイン用のグラスにはハンティングの柄が刻まれていたように記憶している。もう、ずいぶん以前に手放してしまったものだ。脚の球状にカットされた膨らみが、グラスを持つ手によく馴染み、つい手に取ってしまうからワインが進む。レモンとケッパー、スライスオニオンを添えたスモーク ド サーモンと共に味わった。

器 ワイングラス  径6cm 高13cm

作 国立マイセン磁器製作所

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No.177 アスパラガスの春巻き

 北海道出身の友人から、アスパラガスが届いた。柔らかくて香りが高く、とても美味しい。アスパラは大好きな春野菜で季節には度々買っている。塩茹やバターソテーは日常的に良く作る。今回は少し手間をかけて春巻きを作った。食材は衣で包んで油で揚げる事で、中は蒸された状態になるため、香りが閉じ込められて美味さが一層際立つ。春巻きは、市販の皮で包んで揚げるだけ、と手軽なので包む食材を工夫して色々試している。

 アスパラは軽く塩茹でして粗熱を取る。春巻きの皮の上にスライスしたハムを置き、その上にアスパラを載せて包んで揚げる。この料理には、勤めていたオフィスの近くにあるチャイニーズレストランで出会った。もう随分前の事だ。確かその時はアスパラは切らずに長いままだったと記憶している。揚げる鍋の都合もあって、自分で作る時は半分の長さに切って並べて包むようにしている。ハムの旨味と塩味で、何もつけずにそのままで丁度良い味になる。揚げたてを頬張るとアスパラガスの良い香りが口に広がる。

 戸棚の奥に仕舞い込んでいた鍋島の皿を久しぶりに使いたくなった。鍋島焼は、佐賀県の大川内(おおかわち)に在る。1675年に同じ佐賀県の有田から30人程の腕の優れた陶工達を連れて来て開かれた、鍋島藩の御用窯。御用窯とは、一般に出回ることのない将軍や老中などに献上するための焼物のみを作る窯の事。それまでは有田の窯で焼かれていたが、他に無い高い技術が漏洩するのを防ぐためにあえて険しい地形の大川内に移され、人や物の出入りも厳しく取り締まっていたそうだ。この大川内が選ばれたのは、鍋島焼の特徴のひとつである、青磁の原石が採掘される土地だった事も理由のひとつらしい。

 鍋島焼は、染付け(呉須)、色絵、青磁の3種類に分類される。この皿は呉須で青海波と更紗調の紋様が描かれ、上部にはまるで空を示すかの様な青磁の透明感のある深緑。鍋島焼の特徴的な、抱えた皿の見込みに大胆な図柄。精緻な筆使いで、御用窯の品の高さを感じる。この皿は、裏に呉須で3ヶ所に絵柄が描かれている事、また高い高台には櫛に似いる事で “櫛歯文“ と呼ばれる縦のラインが入っているのが特徴。洋にも和にも映える器で、つい使いたくなって近頃は毎日のように使っている。

器 鍋島焼 青海波更紗文皿  径20cm 高6cm

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No.176 蕗ご飯

 春先に蕗のとうを天麩羅で楽しんだ、その蕗が裏庭で育ってちょうど食べ頃になった。売られている蕗ほど太くないけれど、育ったものから収穫して、季節の香りを楽しませてもらう。定番のお出汁で煮たのはもちろん美味しいけれど、初めてふきご飯作ってみた。下茹でした蕗をお出汁と酒で色を残す程度に軽く火を入れて下味をつけ、炊き立てのご飯に混ぜ込んだ。淡く透き通るような緑の蕗は、熱いご飯と共に口に入れるとふきの香りが立って、しゃきしゃきした食感がアクセントになり、春野菜の風味を味わった。

 蕗は、収穫したら洗ってたっぷりの塩で板摺りし、茹でて水に晒す。表皮をスジと共に取り除く、手間が掛かるけれどこの作業が結構好きだ。ふきの切り口から周囲のぐるりを、指でバナナの皮を剥くように剥ぐ。その剥いだ外皮をまとめて持って下方へ引くと気持ちよく皮が剥げる。何も考えずに皮を剥く事だけに集中する時間。これも毎年の季節の仕事のひとつと思うと楽しめる。

 蕗の色を楽しみたくて黒の漆の椀に盛った。普段使いの椀で、漆が痛んで浮いて来ている所もあるけれど、時と共に真黒だった漆が少し透けて赤みを帯びている、この柔らかい色が美しい。厚底で安定感のあるこの形も気に入っている。いつ、どこで作られたものかは判らないけれど、木の温もりが手に馴染む。

器 黒漆 椀  径12,5cm 高7cm

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No.175 柏餅

 端午の節句に食す風習の柏餅。調べてみたらその始まりは江戸時代だそうだ。『柏餅は徳川九代将軍家重から十代将軍家治の頃、江戸で生まれた。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないことから、「子孫繁栄(家系が途切れない)」という縁起をかついだものとされる。江戸で生まれた端午の節句に柏餅を供えるという文化は、参勤交代で日本全国に行き渡ったと考えられているが、1930年代ごろまで柏の葉を用いた柏餅は関東圏が中心であった。』そうだ。柏の葉はどこででも入手できる訳ではなかったようで、その後韓国や中国から柏の葉が輸入されるようになったこともあり、柏餅が全国的に主流となったらしい。

 近所の和菓子屋で買って来た柏餅。肉厚の葉に包まれた餅には、ほんのり柏の葉の香りが移る。桜餅もそうだけれど、葉で包む事で香りを加えて完成させるとは、なんとも詫びた日本らしい演出だと思う。大きな椿皿のような根来の盆に柏餅を盛った。いつの時代のものかは判らないけれど、時間を経てとろりとした落ち着きのある漆の質感が美しい。漉餡の白と粒あんの草餅を盛り合わせて楽しんだ。

器 根来 高台付 盆  径27cm 高7cm