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うつわ道楽

No.183 枝豆

 枝豆と冷えたビールは完璧な組み合わせで、私の夏の楽しみのひとつ。今時の表現で言うと “マリアージュ” だろうか。枝豆は豆腐や味噌の材料となる大豆と同じだが、未成熟で緑色の状態の時に収穫したものを枝豆と呼ぶ。そのまま収穫せずに成熟させ、色が枯れて乾燥したものが大豆、となる。

どちらも豆である事に変わりはないが、枝豆は生鮮食品の緑黄色野菜に分類されていて、豆類の大豆とは区別されているらしい。最近の枝豆は、大豆とは品種違いの黒豆や茶豆の枝豆もあり、更に細かく品種が別れている。八百屋の店先にも常に数種類並んでいて、どれを買おうか迷ってしまう。

美味しい茹で方には色々方法が有るけれど、私は茹でる前にたっぷりの塩で軽く揉み込み、10分程度置いてから沸騰した湯で茹でている。どちらかと言うと少し早めに上げて、歯応えが残るくらいが好み。茹でる時の湯気に枝豆の香りが強く立つ時は美味しい枝豆の印で、茹でたての熱い豆をつまみ食いする手が止まらない。

 枝豆を盛った見込みは三島、外側に刷毛目の模様の小鉢は 、第2代 清水 六兵衛(1790〜1860)のもの。江戸後期の頃の人だ。鉢は角が反って開いているので、見込みの白く浮き出た化粧土の模様がよく見える。綺麗に並ぶ可愛らしい模様は眺めていて飽きることがない。土色の釉薬に温かみのある乳白色が馴染み、優しい色合いで瑞々しい枝豆の緑が良く映える。

器 内三島 外刷毛目 角鉢  径18×17,5cm 高6cm

作 第2代 清水 六兵衛

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No.182 中華風冷奴

 日本食を代表する食材のひとつ、豆腐。海外の和食ブームでも最初の頃から低カロリー、高たんぱく質として注目されていたと記憶している。その代表的な料理は、夏なら冷奴、冬なら湯豆腐や鍋物、味噌汁なら季節を選ばないし、厚揚げや油揚げも豆腐の仲間。そう言えば中国料理にも麻婆豆腐など、豆腐料理が有るし、やっぱり豆腐も中国から伝わった食品かしら、と調べてみたら思った通り、今から2200年前に中国で発明されたものだそうだ。紀元前200年、前漢高祖の時代に准南王劉安によって発明され、日本へは奈良時代に豆腐の製造法が伝えられたらしい。

伝わった当時は、中国に倣って同じ作り方をしていたと思うけれど、現在では日本と中国で少し違うそうだ。『日本では水に漬けて柔らかくした大豆を擦り潰し、それを煮てから絞って、豆乳を作る。しかし中国では、擦り潰した大豆の液は加熱せずに生のまま絞って豆乳を作る』らしい。『加熱して作る日本の方法はたんぱく質をより多く引き出すことができ、豆腐もなめらかな仕上がりになるのが特徴』だそうだ。

そうと知って、両国の豆腐料理の違いにも納得が行く。日本のなめらかな舌触りの豆腐は、そのまま味わう冷奴や湯豆腐に適している。その分崩れやすいので、すき焼きなどに崩れにくい焼豆腐が出来たのだろう。それぞれの食文化によって豆腐が進化し、違って来たのだ。ついでに気になって調べてみたら、チャンプルを作る沖縄の島豆腐は、思った通り現在でも中国と同じく加熱せずに絞って豆乳を作っているそうだ。

 シンプルな葱とおろし生姜の冷奴はもちろん美味しいけれど、私がよく作るのは具沢山の中華風の冷奴。元々は、中学生の頃に家族で行っていた中華料理店で食べた冷奴がヒントだった。それは、豆腐の上にほぐした蟹と葱、胡麻油と醤油の風味のたれをかけた物。初めて食べたその冷奴に感動した。大人になって、その時の冷奴を思い出して、自分なりにアレンジして作ってみたのが、この盛り沢山の中華風冷奴。蟹の代わりに手軽に使える鶏のささ身、薬味の野菜も欲張って盛り沢山。搾菜を加える事で味にアクセントがつく。その時の気分で醤油か胡麻のドレッシング、どちらでも美味しく、少し辣油を垂らすと更に良い。暑い季節の食卓には度々登場するメニューだ。

 今日は葡萄色の切子ガラスの皿に盛った。厚手のガラスは重量もあって存在感が有る。我が家に来てからも頻繁に使っているけれど、来た時から既に見込みには細かい傷がたくさん付いていた。以前の持ち主達にも好んで使われていたに違いない。どれ程の人達に使われて、どんな食卓を飾って来たのだろう、と考えると楽しくなる。

器 切り子ガラス皿  径18cm 高4cm

作 不明

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No.181 いさきの刺身

 旬のいさき。あまり馴染みがなかったけれど、地元の魚屋の店頭で美味しそうな半身が出ていたので買ってみた。元々、淡白な白身で、塩焼きでいただくことが多いけれど、生のいさきの身は、鯛よりは少しピンクががかった透き通るような白身で、適度に脂が有ってとても美味しい。

 刺身用の半身を買って来て自分で切り分けたら、薄く切ったつもりでも思ったより厚く、見た目も少し暑苦しい盛り付けになってしまった。やはりお料理屋さんのようには行かないものだ、と思いながらとても美味しくいただいた。

 この舟形の皿は、野々村 仁清を模して第2代 清水 六兵衛が作ったもの。白濁した釉薬の垂れた跡が模様にもなって、表情に変化が有って美しい。仁清を模しただけあって皿は薄作り。5枚組の内のこの皿は、窯の火の具合で見込みの中央に少しだけ赤味が強く出てピンク色。皿はそれぞれが釉薬の垂れと色の出方に違いがある。きめの細かい土とへらで両端を切ったシャープな舟形は、洗練された上品さを感じる。

器 仁清 向付 舟形皿 5枚組  径14x10cm 高3,5cm

作 第2代 清水 六兵衛

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No.180 カプレーゼ

 毎年ベランダ菜園で育てているバジル。今年も去年の種を発芽させたのが、大きな葉を繁らせるほどに育った。初夏の強い陽射しで日々育つ様は驚くほど早い。さっそく、バジルの香りを楽しもうとカプレーゼを作った。

 大好きなフルーツトマトは皮が厚め。口に残るのが気になり、湯むきして使っている。モッツァレラチーズとバジルを盛り合わせ、軽く塩を振ってオリーブオイルを回しかける。たったこれだけなのに、完璧な味のハーモニーに、食すたびに感動する。

 皿は古染付。古染にはよくある、皿の縁に虫食いと呼ばれる釉薬が爆ぜた跡が無いのは、縁に細く鉄釉が回し掛けられているからだろうか。見込みに描かれているのは、一枚の大きな葉と『梧桐葉落 天下皆秋』の文字。”秋になるといち早く落ちる梧桐の葉が散るのを見て、秋の訪れを知る”と季節の移り変わりを読んだ詩なのだそうだ。梧桐とはどんな木なのか知らないけれど ”桐”の字が使われているからその一種だろうか。葉が、まるで標本のように大きく一枚描かれているのを見ると、きっと大きな葉なのだろう。少し調べたら、同じ詩と葉が描かれた皿は他にも有るらしく、この時代には知られた詩だったのかもしれない。初夏に向かう今、この皿の図柄は少し季節感が違うけれど、皿の縁に描かれた呉須の模様と鉄釉が、瑞々しいカプレーゼを縁取って美しい。

器 古染付 中皿  径13,5cm 高3,5cm