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うつわ道楽

No.200 秋の煮物

 長い夏から急に紅葉の季節に移り変わる。のんびり楽しんでいる時間は無いけれど、短い秋を味わいたい、と永楽の手鉢に煮物を盛った。鶏肉と里芋、蓮根、人参、椎茸といんげん豆。見様見真似で人参を紅葉に切って秋の風情に見立てた。

 この鉢は、永楽窯 第12代 永楽 善五郎 (和全 1823〜1896) の作。20歳で12代 善五郎を襲名し、1871年48歳で隠居、息子の得全に善五郎を譲り、その後は善一郎の名で作陶を続けたそうだ。

緩い角形の鉢は懐が深く、抱えるように縁が立ち上がり、その縁も湾曲していてゆったりした印象。手が無くても充分素敵だろうと思う。けれど、この手がつく事で引き締まった印象になり、器の外側と内側のコントラストが一層際立っているように感じる。

鉄釉の、渋く枯れた色合いの外見に対して、色の掛かっていない見込みは所々ピンク色の“御本”(ごほん)が浮き上がり、優しい。その見込みの、ピンク色の底に満開の白菊が描かれている。白の釉薬が盛り上がって、立体的な菊の花が華やかで愛らしい。器を覗き込んだ時に、ふと頬が緩む光景だ。

 このブログも、お陰様で200回を迎えた。我ながらよく続いたものだと感慨深い。日々素敵な器に触れ、料理を盛って楽しむ事の出来る生活は、幸せに思う。これからも細く長く、続けて行きたい。

器 仁清写 菊手鉢 径19×17,5cm 高9cm(手込み14,5cm)

作 永楽窯 第12代 永楽 善五郎(和全)

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No.199 常備菜

 この、磁器の小皿の作者は 八田 円斎 (はった えんさい 1862〜1936)。 元々は古美術商だったのが、縁有って、東京 戸越銀座の窯を受け継ぎ、八田窯を開く。裏千家13代 円能斎の“円”の字を賜って円斎と号した。仁清写を得意とし、どちらかと言うと陶器の作品が多い作家さんなのだけれど、この古染写もとても繊細。磁器の器も上手く作る作家さんだ。個性の強い器ではないけれど、つい使いたくなる。

少し縁が高くなったこの小皿は、副菜や酒のつまみを盛るのにぴったり。大きさも形も使いやすく、とても薄い。軽い印象で、個性が強くない分、複数並べても『くどさ』が無く、並べて使ってみたくなった。作り置きに更に作り足して、五種類の常備菜をそれぞれに盛ってみた。お酒のつまみにぴったりな盆ができた。

 盛ったのはポテトサラダ、茄子と南瓜の煮浸し、きのこのマリネ、ほうれん草のナムル、ひじきの煮物。この時期のポテトサラダは、薩摩芋と馬鈴薯とを半々くらいにして作る。後はいつも通り、茹で卵や人参、胡瓜を併せる。甘味のある薩摩芋とマヨネーズの酸味が良い感じで合わさって、ひと味違う秋の楽しみのひとつ。お馴染みの料理ばかりだけれど、気分が変わって楽しめた。

器 古染付写 笛吹人 小皿  径10cm 高3cm

作 八田窯 八田 円斎

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No.198 鶏手羽元と大根の煮物

 大根の煮物が美味しい季節になった。甘辛い出汁で、卵と鶏の手羽元をしっかり味が沁みるくらい煮込んで盛り合わせた。

 祥瑞(しょんずい)のこの鉢は、永楽窯、永楽 妙全 の作。前々回 No.196 鰯の蒲焼丼 の赤絵の鉢と同じ作者だ。祥瑞とは、スペースを線で区切って、それぞれに違う絵や幾何学模様が描き込まれた染付磁器の事。この鉢のように器の口や、あるいは胴などに、鉄釉でぐるりと細い線が入る物が多い。

呉須で細かく描かれた祥瑞は、少し格の高い磁器なので、料理も上品に、薄い色に仕上げて盛る事が多いけれど、この鉢は大振りで少し厚手。骨付きの手羽元を盛っても負けない迫力がある。

 大根と手羽元は別々に下煮をする。骨付きの肉は火を通すと生の状態では無かった血の塊などが出てくる事が有るので、下煮した後に取り除いてから調理する。下煮の前に、骨周りに少し切り込みを入れておくと食べる時に肉離れが良くて食べやすい。

味の染みた大根はお腹の中から身体を温める。汗ばむ気温から肌寒さを感じるほどの、急な季節の変化に身体が慣れるように食事にも気を使う。食欲の秋、味覚の秋は楽しみたいけれど、体感出来る爽やかな秋の季節は年々短くなっているようで残念に思う。

器 祥瑞本捻 鉢  径20cm 高10cm

作 永楽窯 永楽 善五郎(妙全)

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No.197 無花果のタルト

 出かけたついでに、お気に入りのお店でタルトを買って来た。ここの無花果のタルトは初めてだ。タルト生地のさくさく感としっとりしたカスタードクリーム、季節の無花果がたっぷり乗っていて、とても美味しい。

 タルトは、ケーキ皿のサイズでは窮屈なので、Susie Cooper (スージー クーパー) のミート皿に盛った。“ウェディングリング” と名付けられたこの柄は、リングの名の通り “輪” が描かれている。皿の見込みからへりにかけて、僅かな段差の傾斜部分に印象的なイエローが入っている。縁に向かって透明感のある淡いグリーンが、そしてその外側に淡いイエローがグラデーションで。グリーンの輪は2本分の幅で、その中央は重なる事によって色濃く現れ、ラインが描かれているかのように見える。色の関係性として、色相環で近い位置にあるイエローとグリーンが、黄味がかった素地につけられているのでコントラストは柔らかく、温かみがあってとても使い。

 この “ウェディングリング” の柄は、比較的長い期間作られていたようだ。調べてみるとこの皿は、Susie Cooper のバックスタンプから、1924〜1931に作られた物と判る。同じデザインの色違いなど、その後の1932年から60年代まで使われたバックスタンプの物もあるので、人気のあったデザインなのだろう。

器 ウェディングリング ミート皿  径22,5cm 高1,8cm

作 Susie Cooper (1924~1931)