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No.231 枝豆

 気温が定まらない時期。急に真夏のような暑さかと思うと雨が降って冷たい風が吹いたりする。三寒四温の時期はとうに過ぎたけれど、暑かったり肌寒かったりで、日々の服装に悩む。とは言え梅雨も近くなり、枝豆が出始めたのを見るともうすぐ夏だと感じる。

うぶ毛の付いた瑞々しい緑の鞘が映える、この濃い色の皿は江戸時代後期、作者は 大橋 秋ニ (1975〜1857) 。釘で彫って出来た窪みに白の土を使って素朴な花模様が白く浮き出している。小さい皿だけれど表も裏も轆轤目が際立ち、表情が豊か。作り手の上手さを感じる。

大橋 秋ニ は、愛知県津島市で稲垣家の長男として生まれ、 のちに大橋家の養子となり医者になる。茶事、画、詩歌と風流を好んだ。37歳の頃、京都の 尾形 周平 に作陶を学び、その後瀬戸、晩年は美濃養老山に窯を開き、養老焼と呼ばれた。作った作品は売る事はなく、ほぼ全て知人に送ったものと伝わっている。

器 花三嶋写 小皿  径12cm 高3cm

作 大橋 秋ニ

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No.230 ソルティドッグ

 年々、夏が長くなって今年もまだ5月というのに既に蒸し暑い。一般的に人は暑くなりかけの頃に冷たいメニューを欲するらしい。身体が慣れていないからなのだろうか。そんな蒸し暑い夕方に、久しぶりにソルティードックを作った。

近頃は柑橘類の種類が豊富で、どんどん新種が店頭に並ぶ。そのせいかグレープフルーツを見かける事が少なくなった。柑橘類が沢山並んでいるので、私が見落としているだけかもしれないが。私が子供の頃、柑橘類のバリエーションはそう多くなかった。みかん、夏みかん、はっさく、伊予柑、洋物ではネーブルとグレープフルーツ位なものだった。日本は農作物の品種改良で優れていると聞くから、苺と同じように産地のそれぞれで新作を作り出しているのだろう。輸送費も掛かる、遠い国から来るグレープフルーツは国産の新種に押されて消費が減っているのかもしれない。

とは言え、ソルティードックにはやっぱりグレープフルーツが欠かせない。搾りたてのジュースにウォッカを注ぐだけの簡単なカクテルだ。ソルティードックは、19世紀末にイギリスで生まれた “ソルティードックコリンズ” が原型とも言われていて、当時はジンとライムジュースに塩をシェイクした物だったらしい。確かにイギリスならウォッカではなくジンなのも頷ける。

名前の由来は、イギリスで “甲板員” を意味するスラングで “Salty Dog” 。潮風や波しぶきを浴びながら働くため塩っぽい彼らの事をそう呼んでいたらしい。ウォッカとグレープフルーツが主流になったのがいつ頃か、は私が調べた限りでははっきり判らなかった。しかし、その後の何度かの大きな戦争が関わっているのかもしれない。そしてジンより香りが穏やかなウォッカをベースにするならライムよりグレープフルーツの方がきっと美味しいだろうと思う。試した事はないけれど。

カクテルのグラスの縁に塩付けるのは “スノースタイル” と呼ぶそうで、見た目のお洒落さと塩加減を好みで調節出来るメリットも含めて、なるほど素敵なアイディアだと感心する。しかし、縁に美しく塩を付けるのは思ったより難しく、プロのようには行かない。ピンクグレープフルーツを使ったので、ピンク色のソルティドッグになった。

使ったグラスは Baccarat(バカラ) のローハンタンブラー。昔、友人から贈られたグラスだ。ぐるりと継ぎ目なく描かれた唐草模様はパリ万博で金賞を受賞した “アシッドエッチング”という手法によるものだそう。揺らした時に氷がグラスに当たる音も涼しさを誘う。

器 Baccarat ローハンタンブラー  径9cm 高9,8cm

作 Bacarrat

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No.229 絹さやの卵とじ

 家庭菜園で収穫した絹さやをいただいた。友人のご両親が育てているもので、以前から様々な野菜をいただいている。どれも、八百屋に並んでいる野菜と見た目も遜色なく、とても美味しい。絹さやは、付け合わせや煮物の彩り、味噌汁など何にでも使うけれど、私は塩茹でした絹さやを斜めに細く切って簡単な丼物やちらし寿司などのトッピングにするのが好きだ。シャキシャキした歯触りが良いアクセントになる。

でも、今日は新鮮で柔らかい絹さやを生かして卵とじを作ってみた。これはいつも行く八百屋さんで、ちゃま様と呼ばれるマダムに教えてもらった料理。もうご高齢で随分前に引退されたけれど、いつもきちんとメイクして、ファッションもご自身らしさの有る、素敵なマダムだった。姿勢の良いシャッキリしたお姿を見て、私もこの先、歳を重ねてもこう在りたいと思っていた。

まだ私が若かった頃、八百屋の店先で『絹さやはね、卵とじも美味しいのよ。軽く炒めて溶き卵でとじて、ちょっとお醤油を垂らすの』とちゃま様に教わった。それ以来、時々作るメニューになった。卵の黄色と絹さやの緑が目にも楽しい料理だ。最近我が家に来た水月窯の皿に盛った。

 水月窯は、昭和21年、後に人間国宝となる 荒川 豊蔵 が岐阜県多治見に開いた窯。この場所は 虎渓山 永保寺 の土地を借り受けた物で、国宝永保寺観音堂 が別名水月堂といわれることに因んで付けられたそうだ。日常生活で使いやすい器を、土作りから成形まで全ての工程を手作業で行い、薪を使った登り窯で焼成している。水月窯では、たとえ豊蔵が作ったものでも個人の名は入れないので、当時の器の中には “これは豊蔵の作だろう” という物が有ったりする。粉引、染付、色絵、唐津風、乾山風など様々な作風を作っているが、私は水月窯なら粉引が好きだ。温かみが有って、使うほどに味が出る。

今年の季節は過ぎてしまったけれど梅に鶯、鉄釉で描かれた素朴な構図の絵が楽しい。5枚組で、同じ絵柄のはずだろうけれど、かなり簡略化されて、幹と枝だけ。鶯の姿が見えない物もあり、並べてみてつい笑ってしまう。人がやる事、こんな時もあるかもね、と。

器 粉引 梅文皿  径15,5cm 高3cm

作 水月窯

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No.228 生七味

 近所の鶏屋さんで焼鳥を買って来た。焼鳥に七味唐辛子は欠かせない。瓶詰めで売っている、お気に入りの生の七味唐辛子を出した。いつもはお皿の端に置いたりするけれど、時にはちゃんと器に盛るのも気分が変わる。普段から薬味入れに使っている青磁の手桶の形の器に入れた。

お抹茶のお手前で使う水指に同じ形の物がある。真塗りの蓋が添っていて、もちろんこの器よりかなり大きい。この器は同じ形をしていて小さいだけだけれど、小さき物はなぜか訳もなく愛らしい。裏に印らしき物はあるけれど判別も付かず、どの時代に誰が作ったものかは不明。たまたま集まって来た我が家の器達と色々組み合わせて使っている。

青磁は、もっと澄んだ明るいブルーの色から、この手桶のように黄味を帯びて濁った緑、さらにもっと沈んだ深い緑まで色の幅は広い。でも、どの色の青磁でも食卓に並べると染付や漆の椀とのバランスが良く、とても使いやすい。焼鳥は古染付の皿に盛って青磁の色を添えた。

 近頃は新しい和食器もブームのようで、あちらこちらで若手陶芸家が作る、洋食にも使えそうな和陶磁器を見掛ける。家具やインテリアなどを扱う国内外の大手小売店や百均でも、格安で食器は手に入る。でも100年後、この中で大事に使われ続けている器はどれだけ有るのかしら、と考えてしまう。我が家に有る器たちは既に長い時を経た物が多く、先人達の手を渡って今ここに在る。その器たちを、小さな物でも生活に取り入れて、次に繋げて行く人も増えてくれたら良いなと思う。

器 青磁 手桶形小鉢  径6,5cm 高7cm(持手込)

作 不明

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No.227 シーザーサラダ

 よく行くパン屋さんで、食パンの端の切り落としを袋に詰めて売っていた。滅多に出会うことはないのでつい買ってしまう。家に帰って、クルトンを作る事にした。小さくサイコロ状に切ったつもりが、結構大きい食べ応えのあるクルトンになった。

本来なら油で揚げるところだけれど、カロリー控えめを考えて多めのオリーブオイルでゆっくり炒めた。完全に油が回っていないところもそれで良しとし、水分を飛ばしてカリっと。この、ボリュームのあるクルトンと、買って来たロメインレタスでシーザーサラダを作る事にした。

シーザーサラダは1924年にメキシコの ティフアナ にあるホテル“シーザーズプレイス“のシェフ、シーザー カルディーニが考案したものらしい。材料が足りなくなって、その時手元にあったロメインレタス、クルトン、パルメザンチーズで作ったのだそうだ。

自己流のシーザーサラダは、ビネガーに少しの砂糖、オリーブオイルで少量のフレンチドレッシングを作り、マヨネーズと粉チーズを加える。ドレッシングは、そのまま野菜を入れて和えるので、大きなボウルで作る。有れば生のにんにくの切り口を最初にボウルの内側に擦り付けておくと薄くにんにくの香りが加わって美味しい。洗って水気を取ったロメインレタスや好みで新玉葱や胡瓜、そしてクルトンを加えて手で和える。そのまま器に盛ったら出来上がり。クルトンは、和える少し前にもう一度炙っておくと、カリカリの食感が際立つ。レストランでいただくシーザーサラダならポーチドエッグがトッピングされているのだろうけれど、朝茹でた卵が有ったのでそれを飾った。

金の縁取りが輝くこのサラダボウルは、Susie Cooper (スージー クーパー)のもの。以前同じシリーズの皿を使った事がある(No.49  2021/12/3)。この皿のような白磁は、Susie Cooperの中でも後期で、初期の頃の厚手の皿 (No.9  2021/2/26)と、絵付けの柄やタッチはよく似ているけれど、素地の質感や色が違っているために雰囲気はとても現代的で、新しさを感じる。

器 手付きサラダボウル 径21cm 高6cm

作 Susie Cooper