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うつわ道楽

No.153 粕汁

 奈良漬の残りの酒粕が、ほんの少し残っていたのでひとり分の粕汁を作った。在る材料で、具沢山のけんちん汁に粕を加えたようなものだ。お出汁で煮た根菜、きのこと揚げに、味付けは薄口醤油と味噌を少し。最後に酒粕を溶かして完成。少し酒の香りが漂う。酒に弱い方ならそれだけで酔ってしまうかもしれない。でもその分、身体は温まる。

この根来(ねごろ)の椀、特に名のある方の作品ではないけれど、温もりと素朴さが有って使いやすい。根来塗は、今の和歌山県岩出市の根来寺に由来する。漆椀の発祥とも言われているそうだ。木地に生漆を掛け、口周りを布で補強し、黒漆を掛けた上に朱漆を薄くかける。使って行くうちに表面の朱漆が薄くなり下の層の黒漆が透けて見えて来る。

 根来塗の発祥は鎌倉時代。高野山での対立により、本拠地を根来寺に移した新義真言宗の僧たちが、寺での食事に使う器として作ったのが始まりらしい。だから、日常の使用のための耐久性が求められ、その使いやすさから寺の外へ広まって行った。しかし、その後の1585年、豊臣 秀吉の紀州根来攻めで、漆の職人達が散り散りになり、根来塗は長く忘れられていた。その後復興され、高度成長期にはプラスチックの下地に根来塗の漆を施した椀を多く作っていたそうだ。現在では、手の掛かる漆塗りの下地をプラスチックに、なんて考える事は無いだろうけれど、価格を安くするために考えられた、生き残るための苦肉の策だったのだろう。

 椀の縁に薄く黒漆が透けて見え、朱一色の椀には無いアクセントと表情が生まる。少しカジュアルな雰囲気が増し、普段使いの気軽さを感じる。久しぶりに使ってみて、改めて好きになった。

器 根来塗 椀  径12cm 高6cm(蓋込8cm)

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