No.15
『その手は桑名の焼き蛤』 これは、最近では聞かなくなった江戸時代の洒落言葉だ。私が子供の頃は、蛤が食卓にのぼると年長の男性がよく口にしたものだ。今や蛤は高級食材。現在日本で流通している蛤のうち国産は一割程度しかないそうだ。その日本の蛤には外洋性と内湾性の2種類があり、千葉県から茨城県の太平洋沿岸で獲れる外洋性と、三重県や熊本県などの内湾、淡水と海水の混じる汽水域に生息する内湾性。三重県特産の内湾性の蛤は桑名だけではなく、その一帯の名物として昔から名高い食材だったようだが『その手は くわない』との語呂合わせから桑名が冒頭の洒落言葉となり、多くの人に広まったらしい。
その桑名の蛤。嬉しいことに三重県在住の親類が、毎年季節になると送ってくれる。蛤は料理に入れても美味い出汁が出て良いのだが、そのものの美味しさを楽しむのは、やはり焼き蛤か酒蒸しだろう。出来立てはもっと艶やかでふっくらしていた身が、撮影した時には少し冷めてしぼんでしまったのが残念だ。
器は萩焼。10代 三輪休雪のもの。沓形で、内側の上部に入った三島(柄)様の釘彫がさり気無く、広い見込みのアクセントになっている。萩焼のやさしい色合いとろくろ目が器に表情を付けていて、あたたか味がある。
器 萩焼 鉢 (径18cm)
作 三輪 休雪 (10代) 隠居名 休和