No.163 蕗のとうの天麩羅
関東でも積雪があり、久しぶりに雪景色になった。そんな雪の下から蕗のとうが顔を出していたので、食べられそうな大きさに育ったものを選んで天麩羅にした。蕗のとうだけでは足りなくて、菜の花と茗荷、前日に出始めを買って茹でていた筍を一緒に揚げ、春の香りを味わった。
松林が描かれたこの扇面の皿は、尾形 乾女の作品。昭和51年(1976)8月、喜寿記念に日本橋三越で開催された作品展のカタログの表紙に掲載されているものと、同一ではないが同じ図柄の皿だ。今から46年前の事になる。
尾形 乾女(本名 奈美 1905〜1997)は、その名の通り尾形 乾山の血筋を継ぐ方で、元々日本画家であったが、自ら陶芸の世界を志したのだそうだ。父、6世 乾山は大正13年(1924)に73歳で亡くなっているが、その後40年ほど経ってからの方向転換だった。当時、乾山を名乗る縁もゆかりもない陶芸家が現れる事件が有ったため、乾山の名は6世の父をもって完結する事と決め、父の没後50年の年に乾女(けんにょ)と号して作品を発表した。本拠地は鎌倉だが、この皿のような乾山の流れの作品は、6世 乾山も作品を焼いたという、犬山の尾関窯にて作陶したものだそうだ。乾山の作風ではあるが、長く日本画家として活躍された個性だろうか、色の付け方や筆使いに柔らかさを感じる。乾山の世界を思いつつ、その血をひく乾女はどんな女性だったのだろうと想像がふくらむ。
器 松濱千鳥 扇面皿 上幅38cm 下14cm 縦27cm 高3,5cm
作 尾形 乾女