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うつわ道楽

No.173 蛍烏賊

 小指の先ほどの大きさで、プリっと丸い身体に小さいイガイガの吸盤らしきものが付いた糸のように短い脚。その愛らしい見かけに、つい頬が緩む。旨味が強く、春の訪れを感じさせる蛍烏賊は、富山県を代表する海の幸のひとつ。富山に住む友人が、その地元の食材を誇らしげに話していたのを思い出す。

眼と軟骨を取り除き、軽く茹でたほたるいかを、生わかめと盛り合わせた。酢味噌を合わせるのが普通だし、美味しいのだけれど、白味噌を切らしていた事を思い出した。いつも自前の味噌しか使わないので、特に用途のある時しか味噌を買う事がない。家の味噌でも酢味噌は作れるけれど、この可愛らしい蛍烏賊には、色の濃い酢味噌はかけたくないないなあ、と考えていて味噌マヨネーズを思いついた。野菜のディップソースにする事はあるが、蛍烏賊に合わせるのは初めて。でも思った通り、マヨネーズのまろやかさで美味しくいただいた。

 人の肌感覚は敏感で、気温が上がってくると急に冷たい飲み物やサラダを欲するようになる。眼から入る情報も同じなのだろう。ガラスが使いたくなって、涼しげな切子の皿に盛った。

カットされた先端が尖っていて、皿の縁のギザギザは手に痛いほど。切子ガラスは人の手で削り出すこの深くて鋭いカットが命。手に取ってみれば、そのカットの良さがすぐに解る。切子細工の器を、義山(ギヤマン)と呼ぶ。箱を誂えて大事にされて来たこの皿の箱にも義山、と書かれている。

調べてみたら『江戸時代、オランダから伝えられたガラス細工の加工にダイヤモンド(オランダ語でディアマンテ )が使われたことから、後にガラス製品全般を”義山”と呼ぶようになった』とある。ギヤマン、日本語として聞いたら意味は理解出来ない異国の響きに、漠然とした憧れと浪漫を感じる。当時、薩摩や江戸で作られていた切子細工、腕の良い職人はどれほど居たのだろう。

器 義山 切子 丸中皿  径10,5cm 高3,5cm