No.19 花酒 と ラフテー
しばらく前に、友人にお土産で貰った日本最南端、与那国島の泡盛を開けてみようと思った。花酒(はなざけ)と言われる蒸留酒で、日本では与那国島でしか作ることを許されていない、アルコール度数60度のお酒だ。琉球王国時代には、この酒が琉球王朝へ献上品として納められていたという。また、この島には古くからこの酒を冠婚葬祭に使用する文化が有り、そのひとつの代表的な儀式として『洗骨葬』という風習が有るらしい。この風習は、日本では鹿児島県と沖縄県の一部に限られたそうだが、世界では、中国、東南アジア、オセアニア、インド洋諸国、アフリカ、北米先住民と広く分布していると言われている。与那国島で行われていた『洗骨葬』は、亡くなった方を一度埋葬し、7年後にお骨を取り出して花酒で清める。こうして汚れ(けがれ)を取る事で、子孫に幸福と豊穣をもたらす祖霊に昇華する、と考えられているのだそうだ。
そんな歴史を持つこの貴重なお酒をいただくには、どんな料理が良いのだろう、と考えた。強い酒にはやはり水分の多い野菜や、淡い味では負けてしまうので、コクのある沖縄料理のラフテーを作ってみた。皮付きの豚の三枚肉はそうそう手に入らないので、断念して普通の豚バラブロック肉を使ったが、いつもは日本酒か焼酎を使って、結果『角煮』になってしまう所を、今回は花酒に敬意を表して普通の度数の泡盛を使って本格風ラフテーにした。
花酒は海に囲まれた南の島を思い描き、ルネ ラリックの魚が群れて泳いでいる模様のショットグラスに注いだ。小さくひと口、口に含むと、舌に刺さる強い刺激とアルコールが鼻に抜けるツンとした衝撃。やはり普通の泡盛とはパンチが違う。度数の強いお酒は、50度程度の中国の白酒を飲んだ経験が有ったので、そうそうこんな感じ。と思い出した。こんなお酒には、とろける脂としっかりした味のラフテーが良いバランスで、食とお酒の、長い歴史の中で完成されたバツグンの相性に感心する。
ラフテーは南西諸島を思い浮かべて、安南(現在のベトナム)焼の器に盛った。安南焼は、古いものは桃山時代から江戸初期にかけて日本に輸入され、茶人に好まれたそうだ。染付の模様は釉薬に流れて不鮮明なところも特徴だ。この器はその安南を、日本の廣永(ひろなが)窯が写したもの。時代と作者は不明。厚手の素地におおらかな絵付けと、青みを帯びた釉薬の調和が気に入っていて、使いやすい。
器 安南写 染付小鉢(廣永窯)
グラス ルネ ラリック魚紋脚付きショットグラス