No.20 伽羅蕗
家の裏庭の蕗が、大きな葉を茂らせて育っている。以前、No.8の回で蕗のとうの天ぷらを作った、あの蕗だ。なるべく太く育った蕗を選んで収穫し、伽羅蕗を作ってみようとレシピを調べたら、すごく簡単で驚いた。作りたての伽羅蕗は、食感も香りもフレッシュで美味しい。日持ちもするのでしばらく楽しめそうだ。常備菜を食卓に載せるとき、ちょっとした蓋物の器を使うことが多い。基本的に、その食事で食べ切る程度の量を盛って出すのだが、その日のおかずのように全て食べ切ってしまうとは限らないから蓋があると乾燥も防げる。そして何よりこういうアイテムがあると食卓にも変化がつく。
この蓋物、本体は新渡(しんと)と言われる中国の磁器。古い時代の中国磁器を古染付(こそめつけ 1620〜40年代)と呼ぶので、それより新しい時代のものを、新しく海を渡って来た、という意味で新渡と言うのだそうだ。中国の清朝の頃に作られ、日本には江戸後期に渡ったとされる。古染付に比べると今どきの磁器に近く、古染付の土や釉薬の粗さによるムラや、器の縁の釉薬がはぜて素地が出てしまっている、いわゆる『虫食い』などもない。中国の焼物なので元々の用途は不明だが、日本に渡ってから、いつの時代かに手にした誰かが、本体に合わせて木の蓋を誂えたと思われる。茶道に詳しい家人の推測だが、お抹茶の薄茶器の茶粉を入れる『棗(なつめ)』の替茶器として使ったのではないか、と。棗に入る茶の量はそう多くない。人数の多い席で、棗のサブとして替茶器に『見立て』て茶道具として使ったのなら、これだけ手を掛けた蓋を作ったのも頷ける。普段は何気なく使っていた器も、いざちゃんと向き合うと歴史を感じる。どんな方の手で蓋が作られ、大切にされたのか。時代が過ぎ現代になって、使い方は違っても、今は私が大切にしよう。と改めて思う。
器 新渡 磁器蓋物 本体口径9,5cm 高さ6cm