カテゴリー
Uncategorized

うつわ道楽

No.254 ふかし芋

 薩摩芋の手軽な料理、ふかし芋。洗って蒸すだけで美味しい。残ったらバターでグリルしても美味しいし、生クリームや砂糖を加えてスイートポテトにも出来る。薩摩芋や南瓜の甘い芋類の美味しさには最近目覚めた。歳を重ねてその美味しさに目覚めたらしい。味覚や好む色は歳を重ねると変わるようだ。

 蓋付きの器は、先週と同じ岩倉焼のもの。細い線描きの笹が描かれている。使われている色は呉須と鉄釉だけ。いかにも岩倉焼らしい絵付けだ。菊の小皿とは趣が違う、本来の岩倉焼らしさを感じる。

岩倉には思い出がある。15年ほど前、ひとりで京都に滞在し初めて鞍馬寺を訪れた時のこと。鞍馬寺から木の根道を通って貴船神社にお参りし、バスで貴船口へ戻って叡山電鉄鞍馬線で市中へ帰る。その途中に岩倉という駅が有る。行きに岩倉焼の岩倉かしら、と気になりつつ、気持ちは目的の鞍馬山に向かっていた。帰る車中でまた岩倉駅を思い出した。散々歩いて疲れていたけれど、異を唱える人も居ない。これを逃したらまた来る事も無いかもしれない、と思いきって降りてみた。

今は窯が無いのは知っていた。地図で見たら天台宗の門跡寺院で実相院という寺院が有るので行ってみることにした。駅から歩いて10分ほどだっただろうか。道すがら行く先の道に落ちる影が長く、背丈の3倍くらいの自分が居たのを覚えている。きっと今頃の季節だったのだろう。門の前まで行くと、市バスの終点があった。計画して行くのであれば、この方法が楽かもしれない。床に映る季節ごとの景色が美しいお寺だが、残念ながら紅葉にはまだ早かった。その時は観光客など1人もいない、静かなお寺をお参りして帰った。

 蓋の持ち手には七宝紋。几帳面な細工で深く凹凸がつけられ、上品な美しさが有る。岩倉焼は焼きが甘いので濃い色の料理を盛ると色が染み込みやすいから少し気を使う。蓋物だし、この器に何を盛ろうか、と考えを巡らせるのも楽しい。

器 岩倉焼 笹図蓋物 本体径16,8cm 高9cm 蓋径15,6cm 高3,2cm

作 不明