No.32 鰯の梅煮
もう数十年前だろうか、まだまだ料理のレパートリーが少なかった頃、料理上手で知られた向田邦子さんの本を見て作ったのが最初だったと記憶している。背の青い魚は大好きだ。今の時期、魚屋さんの店先にザルに盛った鰯がよく出ていて、お手頃に手に入る。もちろん塩焼きも美味しいけれど、新鮮なうちに料理して作り置き出来る煮魚は便利なメニューだ。この蒸し暑い時期、梅干しで日持ち効果とクエン酸で疲労回復、ぴったりな料理ではないだろうか。
盛ったのは、波と魚、海藻が色絵で描かれた荒川豊蔵の平鉢。梅干しの赤が、赤絵の色とも映えて美味しそうだ。だが、この涼やかで伸び伸びとした図柄は、器に水を張っただけで眺めても、金魚鉢のように楽しめるかもしれないし、この季節なら氷を浮かべて素麺も良いと思う。季節に合わせてメニューと器をコーディネートする、日本の食文化の楽しみ方は奥が深い。
器 赤絵魚の図鉢 径22cm 高6cm
作 荒川 豊蔵