No.38 ロングビーンの中華炒め
日本では、ささげと呼ばれるこの豆。見た目は、インゲンのとんでもなく長いやつ、としか言いようがない。太さも形も長いだけでインゲンにそっくりだけれど、皮の質感と艶、そしてしなやかさが違う。先日見つけた時、八百屋の店先では束ねて、丸く巻いてまとめてあった。長さは50〜60cmもある。前回出逢ったのは5年位前だろうか。聞いたら滅多に店に並ばない野菜だそうだ。私も毎日買い物に行くわけではないし、時間も大抵は夕方。滅多に出ない、しかも数も少ないとなると、中々お目にかかれないのも仕方がない。私のように見つけたら迷わず買ってしまうお客様も居るのだろう。その時も残りは2束。ひと束手に取って、最後のもうひとつも買ってしまおうか少し迷った。が、出逢いは欲張るものではない。逢えたのがめっけもの、と思い、最後のひとつは次に手に取る、もうお一方と分け合おうと断念する。
ささげと聞くとお赤飯に入れる小豆を連想する。調べたら、厳密にはささげと小豆は違う植物の豆だそうだ。どちらもささげ属だが、この長い鞘の野菜は正式名称を十六ささげと言い、そこから採れる豆がささげ豆。ささげ豆の方が小豆より色が黒ずんでいて、茹でても皮が破れにくい。そのため切腹しない、という縁起担ぎもあってお赤飯にはささげが使われる。十六ささげは、日本では茹でてお浸しか胡麻和えなどにして食すのが一般的らしい。次回は試してみようと思っている。
そもそも私とこの十六ささげの出逢いは、以前にも書いたが仕事でよく行っていた香港でのこと。お取引先との会食では、本当に美味しい高級中華料理を度々ご馳走になった。しかし、この料理と出逢ったのは、仲間内で見つけた四川料理のカジュアルなレストランだった。いつも滞在するホテルから近く、価格も手頃な気取らない店だった。一度食べてから、このお店に行く度に、と言うよりこれを食べたくてその店を訪れるようになった。ニンニクと唐辛子、挽肉、インゲンのような細長い野菜を中華の調味料で味付けしてあって、強めの辛味と程よい食感。この野菜は何だろう?といつも話していた。インゲンが一番近いけど、食感も味も違うよね。あのインゲン特有の青臭さも無い。と。時間のある時に現地のスーパーを探しても、これ、という野菜は見つからない。ある時、現地のスタッフに聞いたら、ロングビーンだと教えられた。
ロングビーン。日本では聞いたことがないから東南アジア特有の野菜かと思っていた。だがそれから何年もして、ある日、地元の八百屋の店先で見つけたのだ。ささげと書いてあったが、あのロングビーンだと直感した。さっそく買って、味を思い出しながら作ってみた。味はレストランを完全に再現することは出来なかったけれど、これこれ、とひとり満足気分に浸った。
そんな訳で、最初にこの十六ささげを食べた時のインパクトが強すぎて、写真のような中華炒めこそ、私が好きなロングビーン。きっと、私が知らないだけで、東南アジアでは広く食される食材なのかもしれない思う。だとしたら年間平均気温も高いから、日本ほど限定された収穫時期ではなく、手に入る季節も長いかもしれない。香港へよく行っていた最後の頃、そのレストランが在ったビルが建て替えられ、レストランも移転したのか、閉店したのか、行方知れずとなり、残念な想いをした。いつか、どこかの中華レストランでこのメニューにお目にかかれる事を期待している。
磁器やガラスが続いたので、ロングビーンの炒め物は土物の三島の皿に盛ってみた。一枚切りだが、何を盛っても良く映るので、使用頻度が高く、使い込んでいるのでトロっとした艶のある、良い表情になった。鮮やかな緑、少し見える唐辛子の赤が沈んだ色の皿に映える。
器 三島皿 16世紀 李氏朝鮮 径14,5cm 高3,5cm