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うつわ道楽

No.43 牛すじ煮込

 東京で生まれ育ったので、大人になるまで牛すじという食材を知らなかった。初めて口にしたのは広島を訪れた時、お好み焼き屋さんでの事だった。よく煮込まれて味が染みて、牛すじはとろけるようでとても美味しかった。西日本では昔から好まれていたようだが、その頃でも東京の精肉店の店頭で牛すじは見たことがなかった。部位として一般的ではなかったから、店頭に並ばず飲食店に卸されていたのだろうか。おでんの具材として売っている乾燥の牛すじを買ってみたこともあったが、私が食べたかった牛すじとは違った。それから何年か経って、少し高級なスーパーで生の牛すじを見かけるようになり、買い求めて、みよう見真似で料理するようになった。茹でこぼして灰汁をしっかり取って、圧力鍋で柔らかくしてから料理する。煮込みやおでん、カレーも美味しい。今では地元で手に入るのでありがたい。

私は義務教育の年代に、父の転勤で数年間だけ兵庫県に住んだ事がある。その時、関西と関東、こんなに狭い日本でも文化の違いが大きくあることを知った。親戚関係も関東より北だったので、西に行ったのは初めての事だった。当時、母が作るカレーは豚が普通。関東で肉といえば豚か鶏、精肉店のショーケースに並ぶ牛肉のスペースは狭かった。兵庫に越して、母と買い物に行った時、いつものように豚肉を探したが見当たらない。鶏肉も見つからない。その精肉店のショーケースの殆どが牛肉で、様々なランクと部位が並んでいた。よくよく母と探したら、ケースの端に僅かに豚肉と鶏肉を見つけ、ほっとした思い出がある。そんな大袈裟な、と思われるかも知れない。今では関東でも関西でもそこまで極端な品揃えはしないはずだ。でも昭和50年頃の日本はそんな感じだった。当時、新幹線で3時間の距離で、こんなにも違いがある事を知った。移動時間も短くなり、情報も地球規模で瞬時に伝わる現在では遠い昔のことに感じる。

 厚手の古染めの鉢に牛すじと盛り合わせたのは、大根と比婆の蒟蒻。私が好んで作る牛すじ煮込みの組み合わせだ。味の染みた大根と、とろとろの牛すじ。秋も深まって、熱々の煮込みが美味しい季節になった。

器 古染め鉢  径17cm 高7,5cm

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