No.54 お正月の盛合わせ
昨年の元旦からスタートしたこの『うつわ道楽』。初回もお節だった。私が作るお節はお決まりの品揃えとは違うが、自分や家族が好きな料理を作ってお正月風に盛り合わせる。そうは言っても黒豆や数の子、見栄えの海老は外せない。昨年と同じメニューの他に今年は百合根の金団とサーモンのサワークリーム添えを新しく加えた。
お正月料理は甘味の強い料理が多い。長い歴史で、甘味自体がご馳走だった時代もあっただろう。そして日持ちの為の知恵も。しかし今のこの贅沢な時代には、少しそぐわない事も事実だ。お酒やご飯にも合う味付けのメニューなら、お節料理としてだけでなく、常備菜として単品で食卓にも出せるので、無駄なく最後まで美味しくいただける。私の今年の目標は、我が家でのフードロスを無くすこと。もちろん、これまでも心掛けていたけれど、うっかり使い忘れてしまったり、ついつい買いすぎてしまう事があった。美味しいうちに美味しくいただき使い切る、を理想としたい。
今年の器は、お重ではなく縁高(ふちだか)。縁高、と言ってもお濃茶の主菓子を盛る、あれよりかなり大きい。一辺の長さがほぼ倍なので、普通の縁高を4つ並べた大きさだ。高さも倍。かなり大きな空間だ。縁高の外側面と割蓋は鏡面そのもの。歪みなく鮮明に映す、研ぎ澄まされた表面が美しい。しかし見込みにはその跳ね返すような緊張はなく、磨かれてはいるが木目が少し透けて見えるような暖かみのある塗りだ。
これは、初代 佐野 長寛(ちょうかん 1794〜1856)の作品。長寛は、幕末の京都の塗蒔絵師で、三代前から塗師として長濱屋を称する家に生まれた。先代の父を21歳で亡くし家名を継いだが、その翌年から諸国の漆工を歴訪し、5年後に京都に戻り名を長寛とした。作品は茶道具、家具、膳椀などを作り、多作で同じ意匠のものも多く在るが、全く同じではなく、必ず図や技法を異にしていたそうだ。若い頃から奇行が多かったとの記録もあるが、一体どんな人だったのだろう。
なんとも迫力のある縁高だ。深みを増した真塗りの、沈んだ漆の質感に圧倒される。文字通り使う私が試されているように感じる。まだまだ、と言われて当たり前。勉強させていただこう。
盛付けを考えるのに時間を要した。こんなに大きくて深さもある器には、テクスチャーの違う器を嵌め込むとメリハリがついてまとまりやすい。今回は、白磁の蕎麦猪口に黒豆を、ガラスの小鉢(No.4にも使用)には数の子、紅白なます、百合根の金団、と水分のある物や形のまとまりにくい料理を器に入れて盛り込んだ。これを見たら縁高の作者、長寛は何と言うだろう。
器 光悦面取 真塗割蓋引重 30cmx30cm角 高15cm
作 初代 佐野 長寛 (塗匠 長寛造)