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うつわ道楽

No.60 鰆の味噌漬

 立春が過ぎ、冷たい空気の中に少しだけ春の気配を感じる頃。気がつくと、いつの間にか夕方の時間が長くなり、庭の紅梅も開き始めている。

満開の梅を描いた角皿に、春の魚と書く鰆の味噌漬けを盛った。数日前に、蜂蜜味噌で漬けておいたものだ。蜂蜜味噌は、以前それを使ったアレンジ料理の本を見てから、自作の味噌で作って常備している。魚の切り身や肉、チーズなどを手軽に漬けるのに便利だ。

鰆。字を見て旬は春先と思っていたが、関東と関西で認識されている旬の時期が違うという。関東は12月から2月、関西では3月から5月。鰆は春、産卵のために外洋から瀬戸内海に集まって来るため、関西ではこの時期を旬としていたのだそうだ。分類ではスズキ目、サバ科、サワラ属。鱸も鯖も鰆も親戚という事なのだろうか、味は随分違うけれど。鰆は出世魚で名前も関東と関西で少し違う。関東では体長50cmを境に、サゴチとサワラを使い分け、関西ではサゴシ、ヤナギ、70cm以上をサワラと呼ぶ(旬の食材百科)らしい。

淡白な鰆は西京漬が多いけれど、コクのある味噌漬けの方が私は好きだ。付け合わせは、真白な石川の蕪で甘みを控えたなますにした。柚子の香りが味噌漬けの魚を引き立てる。

角皿は九谷焼で、絵は伊東 深水(1898-1972)が描いている。大正、昭和の日本画家。美人画が人気で、美人画の要望が多過ぎて他の画題に取り組めない時期もあったらしい。娘は宝塚歌劇団出身の舞踊家、歌手、女優でもあった朝岡 雪路さんだ。深水は、陶器の絵付けは本職ではないが、昔は絵師や僧侶などが焼き物に絵や文字を入れた合作もよく有った。これも深水が九谷を訪れた時の数少ない合作だろうか。

皿の裏、高台の中に見込みの梅と同じ朱で、九谷の青泉窯の名と共に『此君汀』(しくんてい)と入れている。此君汀は、深水が自分で出来が良く、気に入った美人画などの作品にのみ使う名だと言われている。この皿も、ご本人の満足の行く仕事だったのか、と有難い気持ちで眺める。見込みいっぱいに描かれた満開の花が華やかで、今にも梅の香が薫って来るようだ。

器 伊東 深水画 梅花角皿  径20cm 高5cm

作 九谷青泉窯

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