No.63 梅干し
庭の紅白の梅が満開だ。晴れた青い空によく映える。まだ冷たい空気に漂う梅の香が清々しい。
繊細ながら力強い絵付けの蓋物は、不老軒 亀寿 (宮田 亀寿)のものだ。蓋の盛り上がりが高くてボリュームが有り、蓋をした状態だと上部から底の高台にかけての緩やな曲線。祥瑞の縁の太い一文字の紋が、この柔らかい形を引き締める。絵付けはしっかりした呉須の色で、繊細ながら力強い筆使いの松竹梅の絵柄。有無を言わせない、完結した姿が出来上がっていて、私は見るたびに惚れ惚れする。
亀寿は父の教えでこの技を身につけたらしい。父は陶工の塩野 熊吉朗。天保の時代、有田焼の窯へ出向いて染付の技術を学び、京へ戻ってその技術を高橋 道八、仁阿弥 道八らへ伝えた事で、幕末の京焼の染付が大きく発展したのだそうだ。
器を眺めるだけで楽しめるのだが、今日は昨年漬けた小梅の梅干しを盛ってみた。前は大粒の南高梅をよく漬けたのだが、一度に一粒は少し多く、最近は小梅を漬けている。
本体の内側、口周りは他の部分より少し薄い作りになっていて釉薬を掛けず、土の肌が出ていてざらざらする。蓋側の合わさる部分にも、内側に薄い、同じ肌の持ち出しが出ていて、蓋をした時にぴったりと合わさるように工夫され、この外観が作られている。細かい、凝った作りだ。このかわいらしい丸みのある形は、作り手の技術と拘りに依るものか、と納得する。
器 染付 松竹梅蓋物 径8cm 高9cm
作 不老軒 亀寿