カテゴリー
Uncategorized

うつわ道楽

No.67 苺のタルト

 今月が誕生月の私。ひさしぶりにこのタルトが恋しくなって買いに行ってきた。昔から、このお店の一番のお目当てはブルーベリーだった。以前はいつも有ったのだけれど近頃は季節の一時期にしか作らなくなってしまっていて、残念ながら買えなかった。それで今回は今が旬の苺のタルトにした。鮮やかな赤い苺は見ているだけでも元気が出る。サクサクの生地に軽めのカスタードクリームが載って、甘酸っぱい苺を引き立てる。

普通のケーキ皿では窮屈そうなので、マイセン(MEISSEN)のミート皿に盛った。アンティークと言うほど時代を経てはいないけれど、ドイツがまだ壁によって東と西に隔てられていた頃のものだ。色とりどりの可憐な手描きの花、縁の優雅な曲線を金で縁取取ったこの皿は、軽やかで普遍的な美しさを感じる。マイセンでは『散らし小花』と呼ばれるこの柄、我が家でカップアンドソーサーも所持している。近年作られたそのカップアンドソーサーとこのミート皿を比べると、同じ柄でも時代の違いで雰囲気が異なる。職人固有の筆使いの差も有るだろうが、絵付けの色使いや発色、モチーフの花のディテールが柔らかい。

以前、No.24の回でもケーキ皿を使ったが、マイセン窯の歴史は300年以上前、17世紀に始まる。マイセンの日本語版公式HPによると、当時まだヨーロッパには磁器を焼く技術が無く、中国や日本の伊万里焼が珍重され、人気が高かった。ヨーロッパ諸国の王侯貴族や実業家は、白くて薄く、艶やかな硬質磁器の製法を見つけようと知恵を絞っていたそうだ。

中でも、元々東洋磁器の蒐集家でもあったドイツのザクセン選帝侯アウグスト強王が最も熱心で、錬金術師のヨハン フリードリヒ ベトガーを監禁して、その製法を研究させた。ベトガーは1709年に遂に白磁の製法を解明し、翌年の1710年、ヨーロッパ初の硬質磁器 マイセン窯が誕生した。その後、アウグスト強王は、交易品として価値のある硬質磁器の製法が他国に漏れないようにと、功労者であるベトガーを幽閉してしまった。監禁されて成果を出して、解明した挙句にまた幽閉とは、なんと辛い話だろう。

アウグスト強王の情熱と、功労者で犠牲者でもあったベトガー。マイセン窯には食器だけでなく食卓や室内を飾る精巧で美しい彫刻も多く、長い歴史を経てその意匠と技術が今に伝えられている。何気なく使っている陶器や磁器にも、その開発や発展に携わった人達の情熱と努力、そして犠牲も有ったのか、とそれを成し遂げてきた先人達の苦労を思う。

器 散らし小花 ミート皿  径23cm 高3cm

作 MEISSEN

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です