No.69 うどのきんぴら
うど(独活)を一本買うと、一度では全部食べ切る事が出来ないので、何度かに分けて使うことになる。その度に剥いた皮を取っておいて、一本分が溜まったところできんぴらを作る。うどの香りを楽しめる春にしか味わえない料理だ。皮は身の部分より繊維が硬いので、細く切って水に晒して灰汁を取る。加熱してもシャキシャキした食感はそのままだ。この色なので見た目に春らしさは無いけれど、有ると食卓が楽しくなる。
この初代 清風 与平の鉢は深さがあって、白磁の透明感のある肌が、見た目の地味なうどのきんぴらを明るく引き立ててくれる。しっかりとした呉須の色。少し流れて滲んでいるが、返ってこの絵の印象を柔らかくしている。
この絵は何を描いているのか、定かではない。が、絵の中に『記礼』の文字が見える。調べてみると『記礼』『礼記』とは、中国の戦国時代から前漢時代の頃の礼学関係の文献をまとめた、とされる経典で五経のひとつらしい。『記』は『経』に対する補足、注釈の意味が有る、と。詳しい内容は難しくて解らないが、その礼記に登場するどこかの場面を描いたものと推測出来る。
清風 与平はいわゆる文人だ。文人とは、ウィキペディアによると、中国の伝統社会に生じたひとつの人間類型であり、「学問をよく修め文章をよくする人」とある。清風 与平は煎茶道具を多く作っていて、精通した儒教の書物の物語を題材にした絵付けも多い。不勉強の私には想像することしか出来ないが、煎茶は中国から日本に伝わったという事を考えると、その背景にある文化の奥深さを感じる。
器 染付け 鉢 径13cm 高8cm
作 初代 清風 与平