No.73 アスパラガス
柏の葉を模った皿。葉脈がくっきりと盛り上がり浮き出している。裏には脚が3本。葉の縁が抱え込むように立ち上がり、葉脈に沿って緩く弧を描く。皿だけ見るとまるで彫刻のようだ。これは、交趾(こうち)と呼ばれる技法の陶器で永楽 妙全(14代 善五郎である得全の妻で本名は悠。以前No.23,65の回でも使用)のものだ。
交趾の名前の由来は江戸時代中頃、交趾船という現在のベトナムのコーチシナ(交趾支那)から東南アジアを結ぶ貿易船によって長崎にもたらされたのでこう呼ばれるようになったらしい。そのため、長い間ベトナムから来た陶器と思われていたのが、近年になって中国福建省南部で作られていた事が判ったそうだ。
当時、貿易船によってもたらされる最先端の中国文化は京都の公家や僧侶、文化人に大きな影響を与えた。交趾焼は茶人に好まれお茶席で使われるようになり、その頃生産が増えて来ていた京焼きがその技法を模して、その後京焼のひとつの手法として定着したものらしい。広くは、中国の三彩などで建築物を飾る陶器の人物像なども交趾と呼ぶらしいが、日本では器や花器の表面に、生地で盛り上がる細い線の模様を作り、そこに黄、緑、青、紫、白を使って彩色したものを指すことが多い。この皿は、彩色はせずに一色で仕上げている。
この柏の意匠の皿は、永楽 善五郎の他の代でもよく作られていて、大きさが少し違ったり、色が違う。本で調べたら、11代 永楽 善五郎、保全のもので萌黄色の五枚組のものを見つけたが、それはこの皿に比べてひと回り大きい。
我が家のこの皿は揃いではないが、一枚だけ見ても迫力がある。今が旬の太くて色鮮やかなアスパラを盛ってみたら思った通り、この深い紫色に映える。軽く茹でたアスパラは、そのままでも美味しいけれど、今日は茹で卵とケッパーを細かく刻んでタルタルソースを作った。鮮やかな色と鼻に抜けるアスパラの香りを楽しんだ。
器 紫交趾釉柏葉皿 長25,5cm 幅14cm 高5cm
作 永楽 妙全