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うつわ道楽

No.77 ちりめん山椒

 山椒は小粒でぴりりと辛い。と言うけれど、その辛さは独特だ。唐辛子とも山葵とも、生姜とも違う。口が痺れる中華で麻、と表現される、その字の通り麻痺の感覚。香りと共にこの痺れが病みつきになる。

山椒の実は、旬のこの時期に手軽に手に入るようになった。出回る今頃買って、下処理をして冷凍庫で保存すると一年間楽しめる。山椒の実は、大抵が軸に実が2つ付いている。この、細い茎が有ると口触りが良くないので、面倒だけれどひとつずつ取って、軽く茹で、水に晒して灰汁を取る。晒す時間が長いと辛味が減るらしい。山椒の実は通常小さいプラのパック詰めで販売されているが、数年前に箱で割安に売っているのを見つけ、思わず買ってしまった事があった。処理が大変だろうとは解っていた。が、つい欲張った。ところが、その量は思っていたよりとんでもなく沢山で、延々と軸を取り続けても終わらない。頑張りきれず、諦めて翌日に回し、結局二日間かかった。灰汁で指先は荒れるし、大変な思いをした。冷凍保存しても当然使い切れないと思って、知り合いにも貰っていただいた。欲張りは災いの元、と思い知った。それからは使い切れる程度を心掛けている。

そんな生の実山椒が、今年も出始めた。そろそろだろうと思って、ちりめんじゃこは既に買って準備していた。ちりめんじゃこは、広島の音戸ちりめん。広島県のアンテナショップに行くと、格安で良いちりめんじゃこが手に入る。軽く湯掻いて塩分を抜き、同時に乾いたじゃこを柔らかくする。味付けをして、山椒を加え、水分が無くなるまで少し煮る。ちりめん山椒は好きだから度々買うけれど、この時期は自分で好きなお店の味を真似て作っている。

2段重ねの蓋物の上段には、お気に入りの大阪の昆布の佃煮を入れた。この器は木泉(もくせん)の作。明治、大正期の京焼きの陶工で、少し調べたが情報が少なくそれ以上は良くわからない。平安 木泉とも言われるが、この平安は、京都を指すので苗字ではないようだ。作者の情報は判らないが、この蓋物は実に良く出来ている。白磁の本体もきっちり、すっきり、明確な四角だ。2段の重ねや蓋もぴったり合っている。開けるたび、重ねるたび、その精巧な出来故の使い心地が気持ち良い。呉須の絵柄は花と風景、他の2面には漢詩かと思われる文字。しっかりした呉須の色も私の好み。使って、眺めて楽しい入れ物だ。

器 染付二段四方蓋物 径8x8cm角 高8,5cm

作 平安 木泉

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