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うつわ道楽

No.90 生菓子

 西の方へ出掛ける事があって、その帰りに京都で新幹線を途中下車。久しぶりの京都だ。以前は年に何回か行っていたのだが、思いもよらない感染症の流行で、国内の移動も規制されていた。久しぶり過ぎて、京都でどこへ行きたいのか思い浮かばない程だった。でも、目的はひとつあった。昨年、御実家のある京都へ越した友人に会う事。先方も忙しくしているだろう、顔を見て少し話して失礼するつもりが、話し始めたら止まらない。気が付いたら帰りの乗り継ぎの新幹線の時間が迫っていた。

この生菓子はその友人がお土産に、と用意してくれていた和菓子だ。今時の京都で行列になるというお菓子屋さんのもので、たまたま空いていたから、と。まだ残暑は残るけれど、お菓子は秋を感じさせる菊の花。この、白の『饅頭菊』は焼き物の絵付けにもよく登場する菊の花の表現だ。白の丸に中央の黄。一枚ずつの花弁の表現は無くても菊の花と解る。意匠のモチーフ化、デザイン化のすごさに感心する。日本だけでなく、西洋や東洋を問わず、動植物の意匠化は古い時代に確立されていて、近年はその膨大な過去のモチーフの遺産の上に成り立っている、と言っても良いのではないかとさえ思う。衣食住の生活に、実用だけでなく装飾を加えるゆとりを持った縄文の時代から、実物を捉える観察眼が磨かれて、優れた物が現代に残り、私達を楽しませてくれているのだろう。この白菊はふっくらとして、中の漉し餡も美味しく、眼でも舌でも楽しませてもらった。

この、銀彩の皿の作者は北大路 魯山人。備前の土に櫛彫で草が彫られ、その上に銀が載っている。五枚有る皿の形は、手で叩いて伸ばしているので不揃い。素朴な作りだけれど、彼の手に掛かるとこんなに洗練された仕上がりになるから不思議だ。さすが天才。五枚の皿は、火の当たりによって土が赤く発色せず、白っぽい上りの物も有るけれど、それぞれに味がある。枯れ葉の庭に咲く白菊のようだ。

器  銀彩 草文櫛彫 備前土小皿 五枚 径12cm 高1,5cm

作  北大路 魯山人

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