No.93 鈴の最中
猫の首に鈴を付ける。これは日本の寓話かと思っていたが、実はイソップ物語なのだそうだ。天敵の猫が近づくのを察知するために、鼠たちが考え出した知恵だ。アイディアは秀逸だけれど、実際に猫に鈴を付けに行く鼠が居なかった。その事から良い思いつきでも実行出来ない事の例えとしても使われる。
我が家の猫の首にも鈴が付いている。販売されている猫の首輪には、元から鈴付きのものが多い。今どき、家の中に鼠は居ないし、もし居たら困るから飼い猫に鈴を付けるのは考えもの。とは言っても鈴を鳴らして歩く姿は愛らしく、毛繕いの動きで鳴る鈴の音には気持ちが和む。我が家の猫も最初は少し戸惑っていたけれど直ぐに慣れて、あながち嫌でもなさそうだ。
鈴は、金属の薄い殻のような外形の中に球が入っていて、振動で鳴るというとてもシンプルな楽器だ。古代、胡桃や団栗などの実で、中に隙間がある個体を振ると音が出る、という事に気付いた先祖が、それを祈祷や踊りで楽器として使い、やがて土鈴が出来、金属へと進化して行った。今でも、神社でお参りする時には大きな鈴を鳴らす。日本でも昔から神事と深い結び付きがある。
その可愛らしい鈴の形の最中は、博多で90年続く和菓子屋さんのもの。東京の百貨店の催事に出店していたので購入した。鈴が屋号にもなっている、その和菓子屋さんの名物最中だそうだ。さて、何に盛ったら似合うかしら。と考えたらこの赤楽が浮かんだ。楽 吉左衛門の十代で、江戸後期に活躍した旦入(1795-1855)の皿だ。楽焼は柔らかいので水分が入り易く、いつも使うのを躊躇うのだけれど、この最中なら安心して使える。思った通り、いや思った以上によく似合う。見込みの指跡の渦巻き状の窪みが柔らかい陰影を作る。楽焼は轆轤を使わない。どうやったらこんなに綺麗な渦巻きが出来るのだろう、と思いを巡らす。裏には小さな突起の脚が3つ。表情の有る皿だ。
器 赤楽小皿 五枚組 径12cm 高2cm
作 10代 楽 吉左衛門(旦入)