No.10
我が家では器だけでなく、家具も照明も雛人形も年代物が現役。実家のご先祖様の大正時代の雛人形が今は私のもの。本来の厄を流す目的の儀式として、昔は雛人形は家族といえども共有はナシ。だったそうだが、私は物心ついた頃からこの雛人形が大好きで新しいものが欲しいと思った記憶は一度もない。木目込みで一体が5cmほどの大きさ、五段飾りでも高さは40cm、ととてもコンパクト。お人形がそれぞれお内裏様とお雛様、三人官女、五人囃子、と木箱に収められて箱の裏に大正何年と覚書が入っている。昔の人は几帳面だ。箱はかなり傷んで蓋の用途を成さず、いちいち紐で結んである。おまけに雛道具とは思えないような少し怖い人形も一緒くたに収められていて、小さい頃は律儀に全部を並べるのが大変だった記憶がある。
その中で、お気に入りは木をくり抜いて作られた茶筒、急須、お湯呑みのセットと、ちゃんと陶器で焼かれた器のセット。載せるお盆の径は楊枝の長さにも届かない程小さい。その、当時の私の楽しいおままごと道具も今のこの指では、食器を重ねて飾るだけでもひと苦労だ。とは言え、毎年二月も半ばに差しかかると、ひとつひとつ、また壊れかけた箱から出して飾るのが義務のようであり儀式になっている。そしておひな祭りの3日を過ぎたら、「お疲れ様。また来年」と労って仕舞うのものも毎年のお決まりの儀式。
ひな祭りには、ちらし寿司。 もちろん私が食べたいのだが、飾った雛人形にも小盛りにして差し上げる。こちらは、お雛様のサイズに合わせて川瀬竹春の紅白の梅の対のお猪口に。自分用には今年は呉須赤絵の皿を使った。筍、椎茸、酢蓮根や胡麻、大葉、穴子を混ぜ込んだ五目寿司に、焼き海苔と絹さや、錦糸卵をたっぷりと。お刺身も盛り合わせてばら寿司にする年もあるが、今年は別盛りにした。
器 呉須赤絵皿 径25cm
呉須赤絵は17世紀中国、漳州窯(しょうしゅうよう)のもの。1990年代に入って初めて、福建省漳州で明代窯址が発掘されて明らかになった。中国において呉須赤絵は粗略な大量生産品という位置付けで、近接する汕頭港 (すわとう)からアジア各地に輸出され、欧米では Swatow Wares の名で知られているそうだ。(参考: 静嘉堂蔵 呉須赤絵名品図録より抜粋 )