No.117 いなり寿司とかっぱ巻
例年より早く桜が咲いている。関東ではもう満開を迎えようかという時期なのにお天気には恵まれず、青空の下でお花見は出来そうにない。仕方がないから家でお花見気分をと、いなり寿司とかっぱ巻を作ってお弁当に盛り合わせた。
いなり寿司は、お揚げを甘辛く煮て酢飯を詰めただけなのに、ふと食べたくなる味。シンプルでありながら完成された料理だ、と食べる度に感心する。かっぱ巻もそう。酢飯と胡瓜を海苔で巻いただけ。こちらには少し山葵を効かせて白胡麻も加えて巻くのが私の好みだが、具が何か味付けされた胡瓜でもなく、細く切っただけの胡瓜でこの完璧な料理に仕上がっている所がすごい。
一体誰が考えたのだろう、と調べてみたら早稲田にある寿司屋で『八幡鮨』というお店が元祖らしい。河童は胡瓜が好物だから、名前が『かっぱ巻』なのは想像がつく。生の胡瓜を海苔巻の具にしたのは戦後の食糧難の頃だと言う。寿司ねたにも苦労した時代に生み出された料理だった。そんなかっぱ巻は、高級な寿司屋にも必ずある。どんなに良い寿司ねたが揃っていても、かっぱ巻を食べたい人が多いのだろう。
盛り付けたのは半月形の漆の弁当。蓋の字は松坂 帰庵(まつざか きあん 1891[明治24]〜1959[昭和34])という岡山の真言宗 法界院の僧侶で、書や絵画、陶芸、短歌に優れた方だという。本体の弁当の作者は不明で、ご本人ではないと思うが、手彫りの質感を生かした大胆な凹凸に黒の漆の字が載って力強い。
器 漆 半月弁当 径22,5x22cm 高5cm
作 松坂 帰庵