No.121 苺
意図した訳ではないのだが、前回と同じタイプの白磁の器になった。呉須で漢字の文字に縁を取ったもので、前回は北大路 魯山人。今回はその魯山人が見て、模したであろう本科の古染付の小皿。もちろん、魯山人がこの小皿を見たとは思わないが、この手法の古染付を見て、自身の創作に取り入れたと思われる。
近代に作られた前回の魯山人の白磁に比較すると、今回の小皿は粒子の細かさも、混入物の残留も、土の精製の粗さがよく判る。とは言えこの皿が作られたのは西暦1600年代の中国。その時代にこれだけの磁器が作られていたのはすごい事だ、と改めて感心する。
厚手の質感がどっしりしていて存在感が有る。皿の裏は、高台の外から皿の外縁に向かって放射状に深い筋が彫られている。先の尖った道具で彫ったのだろうけれど、そのギザギザは表から見ても皿の縁に細かい輪花のように見えている。すっかり仕舞い忘れていたこの皿を久しぶりに出して、改めて見惚れた。
この小皿には季節の苺を盛った。昔、まだまだ経験が浅かった若い頃、古染付の皿にふとした思い付きで苺を盛ってみたことがあった。当時は古染付に果物を盛るなんて考えた事がなかったのだけれど、器が苺の赤に映えて瑞々しく、その染付の皿が今までとは別の表情を見せてくれた事に驚いた。その時の感動が忘れられず、器使いの楽しみがまたいっそう深くなった。
器 古染付 壽 小皿 径12,5cm 高3cm