No.243 わらび餅
食べたくなってわらび餅を買って来た。きなこをまぶし、黒蜜を掛けていただく。素朴な甘みが口に広がり、プルプルしたわらび餅の柔らかい弾力に顔がほころぶ。
食べていて、ふと気になった。この “わらび” と “葛” と “片栗”。どれも料理やお菓子の材料として、とろみをつけたり固めたりする植物の “根” の粉である事は知っている。何となく用途の違いも理解しているつもりだけれど、一体何が違うのだろう?と。
わらび粉は和菓子のわらび餅しか知らないけれど、葛と片栗は自分でも使い分けている。そのふたつを料理で分けるなら、葛粉は和食、片栗粉は中華料理。しかし葛の根から作られる本葛粉は高価で、片栗粉で代用する事も多い。さらさらしていて、キュッキュッとした指触りが特徴の片栗粉は、馬鈴薯のでんぷんから出来ているのも知っている。本葛粉は箱を開けると、粉の中に角が鋭角に尖った塊が有ったりする。すぐに崩れるのだけれど、他の粉類では見たことのない特徴に思える。
調べてみたら、その3種の粉は原料が違うために性質の違いが有る。わらび粉はわらびの根から採るでんぷんなので、希少で高価。そのためお菓子として珍重されるのだろう。とは言え、現在市販されている “わらび餅” や “わらび粉” の多くは、わらび粉に芋などのでんぷんを混ぜた物が多いらしい。
わらび粉はプルプルした弾力と滑らかな食感で、食物繊維が豊富、整腸作用が有る。本葛粉は透明感があり、とろりとして滑らかだが、冷やすともっちりとした食感になる。身体を温める性質が有るそうだ。そして一番身近な片栗粉は、加熱すると滑らかなとろみがつく。葛粉とは逆に身体を冷やす性質が有るそうだ。話が大きく逸れたけれど、またちょっとだけ知恵が付いた。
わらび餅を盛った三嶋模様の皿は古曽部焼 (こそべやき) 。古曽部焼は、現在の大阪府高槻市で江戸時代後期から大正時代、五十嵐家によって焼かれていた陶器で、鄙びた味わいが特徴とされる。当初は庶民使いの器が多かったが後に茶人、文人に好まれ、一時期は遠州七窯にも数えられるほどとなった。大正時代に一時期途絶えるが、寒川 義崇 によって復興され、現在に続いている。寒川氏は、古曽部焼の伝統的な要素を残しつつ、現在の時代に活きる器を作り続けているそうだ。
この皿には裏に “古曽部焼” の刻印があるだけで時代や作者は不明だが、そう古いものではない。昭和の中頃だろうか。三嶋模様に白い釉薬が薄くかかり、全体に靄が掛かったような柔らかさが有る。しかし丸く作った皿の縁を切った断面が鋭く、素朴さの中に心地良い緊張感が感じられる。
器 古曽部焼 三嶋角皿 径11,2cm角 高1,8cm
作 不明