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No.152 甘酒

 少し前に、初めて奈良漬を漬けてみた。奈良漬が出来るのは当分先の話だけれど、その時の酒粕が少し残った。漬物でもしない限り、酒粕はあまり大量には消費しない。残った酒粕で他のメニューを幾つか試してみようと、まず簡単に作れる甘酒を作ってみた。熱々の甘酒に生姜を少し絞って、冷えた体に沁みる甘酒を味わった。

 この祥瑞の力強い湯呑は、前回の2代 川瀬 竹春の赤絵金蘭手の湯呑と対で組んでいたもの。厚い白磁の素地に、しっかりした、濃い色の呉須で描かれた松竹梅に見惚れてしまう。よく描き込まれた絵の力強さと、細かく繊細な幾何学模様が同居した、美しい祥瑞だ。対の、前回の赤絵は薄手で華奢な作り。対照的な二脚を組ませて、贅沢にどちらも楽める。

器 祥瑞 湯碗  径 7,5cm 高 9cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春 (順一)

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No.151 お煎茶

 温かいお茶でほっとする季節。時には華やかなお湯呑みで、ゆっくりいただく気持ちのゆとりを持っていたいものだと思う。頂き物の美味しい栗蒸し羊羹と共に濃い目のお煎茶を味わった。

 細かく几帳面な絵付けに、金を施したこのお茶碗は川瀬 竹春(1923-2007 順一)の作。過去にも登場している初代 川瀬 竹春の長男で、1949年(昭和24年)に父と共に大磯へ転居、その後に父と共に古余呂技窯を作った。2代 竹春を襲名するまでは順一の『順』の字を銘としていた。この湯呑茶碗はその『順』と記されていて、祥瑞のお茶碗と一対の箱に入っている。初代 竹春の作風を受け継ぎ、初代ともども私の好きな作家さん。数えてみたら初代、2代併せると過去6回(No.6,13,45,51,58,122)も登場している。

白磁に赤と黄と透明感のある緑。金も薄れずにきれいに残っていて美しい。細かいながらも大らかさが有ってとても風格を感じる。

器 赤絵金蘭手 湯碗  径7,5cm 高9cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春 (順一)

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No.150 銀杏の素揚げ

 私達が日常的に飲んでいる緑茶。この銀杏を盛ったお皿のように見えるのは、そのお煎茶の点前で使う茶托として作られた物。作者は第5代 清風 与平(1921-1990)。文人に好まれ、文人趣味と呼ばれたお煎茶の道具や器を多く作った人だ。私が大好きな作家さんのひとりで、以前も何度か登場している。染付けや色絵を得意とし、古染付を多く写している。

 お抹茶は中国、宗の時代の喫茶法が日本に伝わり、禅の精神と結びつき戦国の時代に寺社や武士に好まれた。粉にせず、茶葉を使った煎茶の飲用法は明時代に確立したらしい。15世紀に九州に伝わり、後の17世紀に隠元禅師(1592~1673)が中国の生活様式を日本に紹介するとともに、中国製の急須に釜炒り茶を煎じて飲む喫茶法を伝たとされる。権力と結びつき、高価な茶道具がもてはやされる当時の茶の湯のあり方に異議を唱え、中国の文人達の暮らしに思いを馳せる京都の文人墨客たち。煎茶は彼らに受け入れられて日本に根付いたそうだ。

清風 与平は、自身もお煎茶を好み、茶碗や急須、湯冷ましや香炉、花入などを作った。その多くに中国の物語の一場面が描かれている。煎茶碗を乗せる中央の窪みに塩を入れ、素揚げした銀杏を盛った。季節を感じていただく山の恵みにはちょうど良い。細かく描き込まれた絵の中にストーリーを探しながら、秋の恵みを味わった。

器 染付茶托 六枚組  径10,5cm 高2,5cm

作 第5代 清風 与平

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No.149 春菊のお浸し

 これからが旬の春菊。春に花が咲くので春菊と名付けられたそうだ。関西では菊菜とも呼ばれるらしい。栄養価が豊富で、消化の促進や抵抗力を付ける効果も有る。風邪や感染症の予防にも良いと言うから、コロナやインフルエンザ予防にも良いだろう。

子供の頃はこの香りが苦手だった。最初に美味しいと思ったのは春菊の天麩羅を食べた時。少し香りが和らいで、シャリッとした食感で口の中ですぐに無くなる。香りが強い野菜は油との相性が良いのだそうだ。それからは天麩羅でなくても春菊の香りを楽しめるようになった。鍋や胡麻和え、卵焼きに混ぜ込んでも美味しい。

春菊の鮮やかな緑は、この鉢に良く映える。秋の七草の中の桔梗と女郎花が描かれた、白井 半七の鉢。七草とは言っても七草粥の春の七草とは違って七つの花を指すそうだ。

「ハギ・キキョウ クズ・フジバカマ オミナエシ オバナ・ナデシコ 秋の七草」

五・七・五・七・七のリズムに乗せたこの節は聞いた事がある。七草の由来は万葉集にある山上 憶良が詠んだ二首の和歌だと言う。秋の野原で花を数えたら綺麗な花が七種有った、と詠われたのがこの花たちだそうだ。秋の透き通った空の下、野山に咲く可憐な花が素朴に描かれていて、半七らしい柔らかさがあって、とても好きな鉢だ。

器 秋草花紋 鉢  径14cm 高9cm

作 白井 半七

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No.148 饅頭

 この、鶏の絵の可愛らしい皿は第11代 楽 吉左衛門(慶入)の作。昔のオランダ焼きに、鶏がモチーフの似た意匠の皿が有る。慶入はそれを模してこの絵皿を作ったと思われる。

 オランダ焼きは江戸時代、交易船で運ばれて来た陶器で、デルフトなどオランダ各地の窯で焼かれた陶器を積んで来たため、総称してオランダ焼きと呼ばれるそうだ。東洋ほど技術が進んでおらず、磁器が確立する以前のヨーロッパでは、土に白い釉薬を纏わせて磁器のような白を表現し、その上に絵付けして東洋磁器を真似ていた。それはそれ、素朴で温かみのある陶器で私は好きだ。イタリアやギリシャなど、今もぽってりと厚めの白い釉薬を掛け、その上に色で模様を付けた素朴な器を作る窯が各地に残っている。当時のヨーロッパは東洋を模して作った。それが逆輸入で交易船に乗って日本へ渡り、茶人や数奇者に大事にされていたのだろう。どこで慶入の目に留まったのだろうか。

この皿は、鮮やかな色の鶏の絵柄がまず目に飛び込んで来る。この乳白色の肌の楽焼は以前から有るけれど、この素朴な絵柄を見たのは初めてだった。

楽の器は焼きが甘いので柔らかく、色も染みやすいのでこの皿には気を使う。汁のある物には使えない。以前にもこの皿にお菓子を載せたことがあるけれど、中々しっくり来なかった。しかし、このお饅頭をいただいた時にこの皿が思い浮かんだ。盛ってみたら、艶のある黒糖色のお饅頭の存在感が、この皿の質感と色に良く似合う。ひとりでに笑顔が溢れた。

器 阿蘭陀写 鶏菓子皿  径13cm 高2,5cm

作 第11代 楽 吉左衛門(慶入)

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No.147 鰤大根

 鰤(ぶり)の旬には少し早いけれど、魚屋の店先で天然鰤のあらを見つけたら鰤大根が食べたくなった。昼間は秋晴れで金木犀が香る気持ちの良い日でも、朝晩は手足が冷えて急に暖かい煮込み料理が恋しくなる。

鰤は一度塩をして熱湯にくぐらせてから水洗い。血あいなどを除く事で臭みを取る。大根は切った時の包丁の通りが柔らかく、煮ると芯まで蕩けそうに柔らかい。鰤の旨味が沁みて美味しくなった。

厚手で力強い、交趾(こうち)焼の鉢は第12代 永楽 善五郎、和全の作。大きく鉢を二分する入(にゅう)は、焼成の過程で出来たものだろうか、金で直してある。箱も無いし、焼き上がりで傷が有るために外されたのを、何方かが直して使ったのかもしれない。長くこの金継ぎされた入と共に使われ、大事にされて来たのだろう。古い金直しもこの鉢の一部として馴染んで、鉢に風格を与えているように見える。

器 紫交趾 鉢  径19,5cm 高9cm

作 12代 永楽 善五郎 (和全)

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No.146 落ち鮎

 ちょっとしたご縁で知り合った方から、鮎を送っていただいた。岐阜で採れた天然の鮎。今時、天然の鮎はとても貴重。10年くらい前までは時々鮮魚店の店頭で見つける事もあったけれど、今時は並ぶのは養殖物ばかり。養殖の鮎も遜色なく美味しいけれど、天然の鮎は香りが違う。

この時期特有の、腹が蜜柑色に染まった落ち鮎は、鮎の旬とされる6月、7月の若い鮎とは違う美しさと味わいが有る。川を遡りこれから成長する鮎と、藻を沢山食べて大きくなり、今度は産卵のために川を下る鮎。美味しさでは賛否両論あるようで、その大きなお腹には卵や白子を抱えている。内臓はどこに行ったのかしら、と思うほどお腹は卵でいっぱい。香りが強く脂の載った若鮎を楽しむか、身と同じ程の卵を持った落ち鮎を味わうか、好みが別れる事もあるらしい。

私は、この卵を抱えた鮎で作る鮎ご飯が好きだ。塩焼きの鮎を多めに焼いて、何匹かを研いだお米に載せて炊く。頭や骨を外してご飯に混ぜ込んでいただく。いただいた鮎を贅沢に使って、塩焼きと共に鮎三昧にした。

塩焼きの鮎を乗せた呉須染付の大皿は、ホツ(欠け)や入(にゅう)の傷が有るけれど、堂々とした風格のある所が気に入っている。中国漳州窯、呉須赤絵などと同じ窯で、明末清初の頃の皿だ。土の上に白の釉薬を掛け、呉須で花が描かれている。呉須の色は少し濁っているけれど、それはそれで灰色がかった地の色と馴染んで美しい。

器 染付大皿  径27,5cm 高5cm

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No.145 栗ご飯

 10月になり、空が高く秋らしい晴天が訪れた。窓を開けるとどこからか金木犀が香る。この季節には栗ご飯。四季折々の旬の料理は私たちの生活に深く溶け込み、季節の移り変わりを感じさせてくれる。

栗は、剥く作業も大変ながら火の通し加減が難しい。硬めに仕上げれば見た目が綺麗だけれど、食感は柔らかい方がご飯と馴染む。でも柔らかすぎると栗が崩れてしまって見栄えが良くない。適度に柔らかく形良く作るのが難しい。今回は大きくて立派な栗だったので少し硬めに仕上がった。

この真塗りの漆の椀は、箱に八田 円斎(はった えんさい)の名が入っている。陶芸家で、漆をする人ではないはずなのに、と不思議に思った。

八田 円斎は1863年石川県で生まれ1936年(昭和11年)73歳で亡くなった。東京に出て古美術商を商いながら戸越銀座の藤井 長作の窯を受け継ぎ、八田窯を立ち上げた。裏千家13代、円能斎の円の字を賜り、円斎としたそうだ。京焼風の上品な茶道具や器を作る方で、我が家にもいくつかお気に入りの器が在る。

で、この漆の椀。当時は自作でなくても八田 円斎の名で出す事が有ったのだそうだ。事情は詳しく解らない。箱にはこの漆椀が誰の作かの明記は無い。今で言うと、セレクトショップが他社の商品を自社ブランドを付けて販売する、ようなものだろうか。しかしながらこの漆椀、木地や塗りの薄さと共に、時代を経て少し透ける真塗りはとても美しく、当時『西の宗哲、東の喜三郎』と言われた同時代の塗り師、渡辺 喜三郎の作かと思われる。

器 黒小丸椀  径 13cm 高 6cm (8,5cm 蓋込み)

作 八田 円斎

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No.144 栗と鶏の煮物

 例年になく特別に暑かった夏は、まだ暑さを保ったまま。とは言えもうすぐ10月で今日は中秋の名月。生鮮食品の店頭には秋の味覚が並んでいる。とにかく皮を剥くのが大変な栗だけれど、やはり秋には食べたい、と頑張って皮を剥いた。月のように丸くて黄色い栗を、丸くて黄色い南京の鉢に盛った。

 今年の中秋の名月は、昨年、一昨年に続き3年連続で実際の満月と重なるそうで、次は2030年、7年後になるそうだ。宇宙の運びは私には難しくてよく解らないが、その神秘的な星の並びのストーリーには心惹かれる。地球では太古の昔から、どう頑張っても手の届かない月を見上げ続けて来た。その月に人類が一歩を刻んだのが50年ほど前だろうか。今や移住計画まであるほど、謎が解き明かされて来たけれど、見上げる月は昔も今も変わらず、宇宙の物語の壮大さに夢を感じる。

 黄南京とは、中国磁器でこの黄色い釉薬を掛けたものの事を言う。当時、中国を南京と呼んでいた頃の日本人が付けた呼び名だろう。多くは清朝の時代に作られたものが多いそうで、それより以前の時代となると、滅多にお目にかかる事は出来ない。

この鉢は本家(ほんか)の中国、時代は清朝の物と思われる。日本の陶芸家にもこの美しい配色に倣って、作品を上手く作られる方々がいらっしゃる。そのおひとり、古余呂技窯の川瀬 竹春は私の大好きな作家さんで、この黄南京に倣った色使いの素敵な作品を多く残している。以前No.58(2022/2/4)の回では、我が家にある八角皿を使った。

この鉢は大きく緩やかな輪花の曲線を描く。少し肉厚で粗さの透ける土肌に、発色の良い黄色と緑の釉薬が美しい。食卓に載るだけで、気持ちも明るく、暖かくなるような、そんな器で今夜の月を楽しむのも良いだろう。

器 黄南京 輪花鉢  径21cm 高8cm

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No.143 南瓜のケークサレ

 久しぶりにケークサレを焼いた。南瓜(かぼちゃ)を入れたら美味しいかしら。と試してみたら、生地に混ぜ込んだ粉チーズやベーコンの塩味と南瓜の甘さが良いバランスで、秋らしいケークサレになった。カリフラワーとウィンナーのグリルやサラダと盛り合わせてブランチ用のひと皿にした。

 この器はPOOLE。1873年創業のEnglandの陶器メーカーのもので、時代は重ならないかも知れないが、以前No.72  (2022/5/13 )とNo.127 (2023/6/2)の回で登場している小皿と同じメーカーだ。

ベースの色が薄いサーモンピンクをしているこの皿は、盛る料理によって色が馴染み過ぎ、美味しそうに見えなかったりする事があるのだけれど、この位ボリュームたっぷりに料理を盛り合わせると美しく引き立つようだ。器は、使う度ごとに違う表情が現れて楽しませてくれる。

この見込みの絵柄の鹿は、同じ頃 England を代表する人気の陶器のブランドだった Susie Cooper のアイコンとよく似ている。初めて見た時、裏を返すまでは Susie Cooper かと勘違いした記憶がある。この皿の作られた年代や経緯は不明だけれど、我が家では同じサイズの Susie Cooper の皿と棚の中で重なり合い、その時の気分とメニューで使い分け、楽しませてもらっている。

器 鹿柄プレート 径23,5cm 高2cm

作 POOLE (England)