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No.115 春キャベツと蛤のワイン蒸し

 柔らかくて甘い春キャベツ。今が盛りで、今日はどうして食べようか、と毎日メニューを考える。

この時期のキャベツは、柔らかい葉がたたまれて折り重なって球状に結実している。その様は八百屋の店先で半分にカットされてラップに包まれて売られている断面を見るとよく解る。空間も多いから実際の量は少ないのだろう、すぐ食べ切ってしまう。生でサラダにしても、スープや煮物にしても炒めても、美味しいから箸が進む。芯の部分は外して包丁で刻むけれど、葉は手で食べやすい大きさにちぎって使う。

蛤と春キャベツは、にんにく一欠片と少しの白ワインで蒸し、仕上げにバターを加えた。蛤の良い味がキャベツにも沁みて、バターの風味とコクが加わった蒸し汁はバゲットを浸して楽しむ。パスタにしても美味しい。冷えた白ワインが有れば更に嬉しい。

 唐津焼のように見えるこの平鉢は水月窯のもの。勢い良く跳ねた海老が鉄釉で描かれている。水月窯は昭和21年、岐阜県多治見市に荒川 豊蔵が作った窯で、豊蔵が2人の息子と共に運営していた。作品には『水月窯』とだけ入れ、作者名は入れないのが特徴らしい。この平鉢にも、名は水月窯とだけある。この平鉢は年代が定かではないが、その3人の誰かの手で作られた物と思われる。水月窯の公式HPによると、豊蔵は研究を重ねて桃山時代の作陶の製法を確立し『心安らぎ、心和む家庭用の器を』という主旨で主に和食器を作り続けたという。現在は、その親子3人と共に長年作陶に携わっていた水野 繁樹氏が窯を引き継いでいるそうだ。

器 絵唐津風 平鉢  径19,5cm 高5,5cm

作 水月窯

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No.114 五目ちらし寿司

 ひな祭りが近づくと、毎年実家の古い雛人形を飾る。大正時代に作られているから、既に百年以上前の物だ。雛人形が飾ってあると、やっぱり当日はちらし寿司と蛤のお吸い物を供えたくなる。ばら寿司や押し寿司をよく作るので、大皿に盛り合わせる事が多いけれど、今年は五目ちらしにして個別に盛った。酢飯にはお揚げと筍、人参、椎茸、蓮根そして白胡麻を混ぜ込んだ。飾り付けは卵の黄色と菜の花の緑、いくらと紅生姜の赤。大好きなこの皿に合わせて、色を選んで盛り付けた。

 呉須の網模様に、素朴で色とりどりの花が飛ぶこの皿は、古染付と称される古い中国の陶磁器の中でも特に『天啓赤絵(てんけいあかえ)』と括られるもので、この皿の裏の高台内にも天啓年製と呉須で書かれて在る。

資料によると、『古染付(こそめつけ)は明末・天啓年間(1621~27)あるいは崇禎年間(1621~44)頃に作られ、江西・景徳鎮の民窯で焼かれた染付磁器の事をいう。天啓赤絵は古染付と同じく天啓年間(1621~27)にはじまり、景徳鎮の民窯で焼かれた所までは同じだが、染付(呉須)ではなく赤絵のこという。萬暦まで続いた官窯様式から脱却した古染付に、朱・緑・黄で上絵付を施しているもの』とある。

年に一度のひな祭り、この皿を箱から出して大切に使わせていただいた。

器 天啓赤絵 網手平鉢  径23cm 高3,5cm

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No.113 ペカンナッツ ショコラブラン

 まるで森に降る雪が、地面に落ちた木の実に積もったように見える。この美しいお菓子は、ホワイトチョコレートが掛かったペカンナッツ。洋菓子と和菓子を作るお菓子屋さんで見つけ、このお皿に盛ってみたいと購入した。

 雪輪と呼ばれる輪郭のこの皿は、私が一目惚れしたもので、第13代 楽 吉左衛門(惺入 せいにゅう 1887-1944)の作品。鮮やかな翡翠色に金の色は美しく、楽焼きの柔らかい土の質感を遮ることなく釉薬を纏っているようで、皿だけ見ていても見飽きる事がない。

最近、楽 吉左衛門はお抹茶茶碗しか作られていないようだけれど、以前の代では茶懐石の器や手炙りなども多く作られていた。それらの器は赤楽の物が多く、色を付けたものは比較的少ない。楽焼は焼きが甘く、水分が染み込みやすい上に壊れやすいので、使うのは相当に気を使う。この皿もこれまで実際に何かを盛って使ったことは殆ど無く、時々出して、ひとりで眺めて楽しんでいた。そんな皿だ。

ペカンナッツはピーカンナッツとも呼ばれるらしい。原産は北米で、胡桃と似ているが少し細長い形をしている。胡桃はヨーロッパからアジアが原産で、形は丸く少しの苦味が有る。カナダやアメリカではこのペカンナッツが胡桃のように使われているのだそうだ。苦味が無い分、ホワイトチョコレートとのハーモニーも良く、マイルドでとても美味しい。また見付けたら、雪輪の皿に盛ってひとりで贅沢に楽しもう。

器 雪輪小皿 五枚組  径11cm 高2,5cm

作 第13代 楽 吉左衛門(惺入)

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No.112 きんきの煮付け

 魚屋の店頭で小振りで活きの良いきんきを見つけた。煮付けにしたら美味しそうだ、と迷わず買った。地元の魚屋は大きい店が二軒並んでいて、どちらも取り扱う種類も量も多く、新鮮な魚が揃っている。そんな環境でもきんきを見つける機会はそう多くない。

帰って早速煮付けにした。柔らかくて淡白なきんきは、少し強めの味付けが美味しい。肝も後から加えて共に盛り付ける。淡白な魚ではあるけれど、この季節には脂が乗っていて煮汁にも僅かながら脂が浮いた。熱々のご飯とよく合う。濃い色の煮汁に朱いきんき、ほぐすと真っ白の身が美しい。この煮付けは清風与平の祥瑞の皿に盛った。魚は小振りながらこの主張の強い皿に負けない存在感が有る。

濃いが鮮やかな色の呉須で、見込みいっぱいに細かく描き込まれた皿だ。この作者、第5代 清風 与平は以前にも書いたが余白恐怖症かと思うほど隙間なく絵で埋める。このパワーはすごい。図柄は皿いっぱいに描かれた大きな花。それを構成する花弁には、ゆるく捻りが有ってそれぞれの花弁に花や鳥、祥瑞特有の幾何学模様が書き込まれている。とても力強い。縁が立ち上がっているので少し汁のある料理に向いている。見込みは迫力の有る絵で埋め尽くされているが、裏はすっきり、刷毛目の跡が残る呉須一色で塗られている。裏面の中央に高台は無く、釉薬の掛からない白磁の素地が覗いている。

器 祥瑞捻花反鉢 径23x21cm 高4cm

作 第5代 清風 与平

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No.111 酒

 半月ほど前、裏庭の梅に小さな蕾がたくさん付いているのを見つけた。冷たい風に縮こまるように固く小さな蕾だった。立春は過ぎたけれど、蕾はなかなか膨らまない。と思っていたら今朝、たった一輪開いているのを見つけた。今日は関東では珍しく冷たい雪の朝。そんな寒い日に咲くとは、と驚いた。開いたばかりの深い紅の花に真白い雪が積もって、なんとも風情の有る景色で見惚れてしまった。紅白で並んでいる梅の木は、毎年紅梅が早く、紅白が揃って満開を迎える事がない。

頑張って咲いた紅梅を見てこの盃を思い出した。薄く透ける白磁の花弁が儚げで美しい。こんな雪の寒い日は、この盃の花を見ながら熱燗を呑みたくなる。

この盃の作者は 第16代永楽 善五郎(即全 1917-1998)。即全は、14代の得全と、得全亡き後永楽窯を支えた妻の妙全の息子で、No.109 (2023/1/27)で使った土瓶の作者、15代正全の甥に当たる。即全が生きた時代は大正から昭和、と思うとこの盃も近しく感じる。

器 梅花盃  径8cm 高3,5cm

作 第16代 永楽 善五郎(即全)

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No.110 湯豆腐

 明日は立春。前日の今日が節分で旧暦の大晦日にあたる。豆まきは『鬼は外、福は内』の掛け声でこれまでの一年間の邪気を祓う儀式だと言う。

世間では節分の恵方巻が人気。様々なお店がオリジナルの恵方巻を店頭に並べていて、見て歩くのも楽しい。しかし最近知ったのだが、古来から立春の縁起物として豆腐を食べる風習があるそうだ。白い豆腐には邪気を祓うほどの霊力が宿るとされ、節分に食べると一年の罪や穢れを祓い、立春に食べると清めた身体に福を呼ぶのだとか。

豆腐料理、と考えて久しぶりに熱々の揚げ出し豆腐が良いか、と思ったが邪気を祓うほどの、と言われると真っ白いままの湯豆腐が一番だろう。身体を温めて消化も良く、この季節には特に美味しい。薬味には葱とおろし生姜で更に効果的。理に適った料理だと思う。今年は恵方巻は作らずに、見繕って気に入った物を少しだけ買って来たので、豆まきをしたら湯豆腐と太巻きで節分の夕餉としよう。

湯豆腐は土鍋で煮るけれど、取り皿には古染付の向付を使った。熱い豆腐を入れるには少し厚手の器を使うのが良いのだけれど、今日は少し改まった気分でいただこう。少し深さのあるこの大きさは小鉢としても使いやすく、和え物や副菜を盛るのに重宝している。見込みの絵は大きな手の付いた盛り花。呉須一色の絵付けだけれど華やかで優しい。旧暦の正月となる明日の立春、福を呼び込むためのお豆腐料理は何にしようか。

器 古染付 向付  径13,5cm 高4,5cm

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No.109 焙じ茶

 一月も残り少なくなった。空気は冷たく乾いている。お正月の鏡餅でかき餅を作った。餅は乾燥させておいたものを細かく砕いて油で揚げる。初めて作った時は一粒が大きくて中まで火が通らず、芯が残ってしまった経験が有る。それに、揚げると倍ほどの大きさに膨らむから小さいかしらと思うくらいがちょうど良い。一度に油に入れる量も欲張らない。膨らんで揚げ油に浸からなくなってしまうので、少なめにして回数を分けて揚げるのが肝心と学んだ。

このかき餅の味付けにはあじ塩がいちばん。普段、料理にあじ塩を使う事はないけれど、かき餅にはただの塩だと物足りない。シンプルにあじ塩だけ、が基本でそれに青海苔を散らしたり、醤油を少し回しかけたりして味を加えるとそれぞれに美味しく、飽きずに食べられる。味付けは油から揚げたら熱いうちに和えてしまわないと馴染まない。醤油を振りかけるとジュッと音がして良い香りが立ち上る。

そんなかき餅には焙じ茶が欲しくなる。土瓶は永楽の赤絵を使った。元々、土瓶は急須と違って直火に掛けて使うので、持ち手は熱が伝わらないように植物の蔓を使うのだそうだ。その場合の土瓶は土ものの陶器で、磁器の、それも色絵の土瓶は直火に掛けるべきではない。焙じ茶や玄米茶を熱い湯でたっぷり淹れるのに適している。白磁の艶やかな本体に色鮮やかな絵付け、持ち手にごわごわした葡萄の蔓が付くことで素朴さと愛嬌を感じる。

この土瓶の作者は第15代 永楽 善五郎(正全 1880-1932)。早逝した14代の得全亡き後、19年に渡って永楽を支えた得全の妻、妙全(1852-1927)の甥(山本 治三郎)にあたり、事実上、当時妙全に代わって作品を作っていたと言う。妙全が74歳で亡くなった後、得全と妙全の息子、16代 善五郎に代を譲るまでの5年間を15代善五郎として活躍した。妙全の時代同様、私にとって正全の作風が好ましいのも当たり前と思う。(妙全の器は2021/6/4 No.23、2022/3/25 No.65でも使用)

器 赤絵土瓶  径15cm 高 17cm

作 第15代 永楽 善五郎(正全)

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No.108 焼き油揚げ

 今日からは二十四節気で言う大寒。文字通り冬でいちばん寒い頃を指す言葉で、1月の初め頃から今までが小寒で今日から半月ほどが大寒、そして次の立春へと移って行く。いちばん寒いと言うと『激寒』とか『極寒』が思い浮かぶけれど、寒さを大小で表すのは二十四節気を作った中国に倣ったのだろうか。二十四節気は古代中国で作られた暦。太陽暦は既に有ったが、四季の移り変わりに準じて季節を知る目安に、と長い年月かかって確立されたという。種まきの時期や狩猟採集のための暦が必要だったのだろう。

寒い時期は生姜を食すると良い。これも中国で確立した漢方の考え方で、生姜は身体を温める食材の代表格だから。日本でも生姜は一般的で良く使う食材だが、中国やインド、タイランド、などアジア全域で使われている。様々なスパイスや、その国の特色ある調味料、例えばタイのナンプラーなどによって生姜の風味も違った味わいになる。日本なら醤油。生姜醤油は大豆製品ととても相性が良い。冷奴や湯豆腐、飛龍頭。私は炙った油揚げと生姜醤油の組み合わせが気に入っている。

細かい輪花の皿は南京赤絵。花と蝶が色鮮やかに描かれていて、輪花の縁取りにも赤が使われ、とても繊細な印象を与える。私がとても大事にしているお気に入りのひとつだ。ところが、以前の地震で大きく揺れた時、棚の中で隣の器と当たって輪花の縁が所々欠けてしまった。5枚有る皿がそれぞれ少しずつ被害に合った。残念だけれど、大きく壊れなかったのが不幸中の幸いと感謝したい。

器 南京赤絵 輪花皿  径14,5cm 高3,5cm

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No.107 きな粉餅

近頃はいつでも手軽にお餅が食べられる。大手メーカーのパックで日持ちのするお餅がスーパーで手に入るからだ。私が子供の頃は、年末年始となるとどこの商店もお休みだった。24時間年中無休のコンビニやスーパーなんて無かったし、生鮮商品はもちろん食パンも買い溜めをしてその期間のために備えたものだ。言うまでもなく飲食店も営業はしていない。だから当時は食料の確保が重要だった。その頃の親の世代は大変だったと思うが、私は年に一度のその不自由もお正月の儀式の一環として子供ながらに理解していた。『おせちも良いけどカレーもね』と言うCMの時代だ。今は元旦から営業している店舗もあり、返ってその不自由さが懐かしい。

その頃のお餅は今とは意味が違っていた。私の家は餅つきをする事はなかったので、お餅はいつも買っているお米屋さんに頼んでいた。予めお餅の注文表が来て年末に届けられる。関東育ちだからのし餅だ。今でもお正月のお餅は同じお米屋さんのつき立てを買っている。届きたてはまだ柔らかく、一晩置いて適度に硬くなってから切り分ける。当時は家族も多く、お正月のお餅の量も多かったから、切り分けるのもひと仕事。当時それは兄の仕事だった。その頃のお餅はお正月の特別感のあるご馳走だった。

当時、我が家で食べていたのは、焼いた餅を砂糖水のシロップに潜らせて、きな粉と白砂糖を併せたものを掛けたものだった。広辞苑に拠ると、これは正しいきな粉餅のレシピのようで、一般的にきな粉の餅を総称する安倍川餅は、きな粉をまぶした餅の上に白砂糖を掛けたもの、だそうだ。砂糖を別に掛けるか、きな粉と混ぜるか、の違いらしい。そうすると黒蜜好きな私が作るこの餅は、さしずめ安倍川餅の黒蜜バージョン、と言ったところか。

皿は古染付。古染には多く有る『芙蓉手』と呼ばれる模様で、このように少し縁が立ち上がった皿か鉢が多い。我が家は古染付が好きで、この芙蓉手の皿や鉢も大小様々有る。その中でもこの皿は古くから持っている物で、取り皿として使い勝手の良い大きさだ。

器 古染付芙蓉手皿 径15cm 高3,5cm

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No.106 おせち

 新しい年の始まりを飾るおせち料理。今年も好きな料理をいくつか用意した。三が日も過ぎ、まだ残っている料理を今年の干支の皿に盛り合わせてみた。

今年のローストビーフは和風に仕上げた。焼いてから出汁ベースのたれに漬け込んでいるので、日持ちもしてお正月には重宝する。卵は伊達巻きの生地だけれど、焼いて巻かずに型に入れて蒸している。楽に作れてしっとり柔らかく仕上がる。年末に忙しい思いはするけれど、あれこれ作って迎えた新年の食卓は楽しい。

この器は写し物の名人と呼ばれたと伝わる、横井 米衾(よこい べいきん 1885〜1941)の皿で、古染を写したものと思われる。その元となった古染は不明だが、兎の絵柄は人気が有るので有ったら希少だと思う。米衾は、本業は古美術商だったのだそうだ。商品を扱ううちに、自ら作陶するようになり、大正13年に東雲焼の窯を譲り受け、朝鮮系の焼物から日本の土ものまで幅広く写しを作ったそうだ。

この皿、見込みは中央の兎以外は吹き墨で埋められ、縁の白磁の肌が残る部分が白く抜けて、額縁のような効果で料理が映える。最後に現れる兎は少しシュールで不思議な趣が有る。

器 染付 兎吹き墨皿  径 14cm 高 2,5cm

作 横井 米衾