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うつわ道楽

No.105 純米酒

 今年ももう終わる。新年を迎える準備で何かと忙しいけれど、一段落した所で今日は早めに切り上げる事にした。夕食の前に、漬物とお酒でちょっと寛ぐ。お目当てはべったら漬け。時々行くお鮨屋さんのべったら漬けが気に入って、お願いして持ち帰り用に分けてもらったもの。この、大根を麹で漬けた甘味と食感、どうせならお茶ではなくて酒が合う。日本酒も麹の働きで作られるのだから、相性は良いに決まっている。べったら漬けが甘いので野沢菜の漬物も添えて、唐津焼の小皿に盛った。この小皿、縁が大きく壊れたのだろう2箇所の直しがある。朱漆に金を掛けた直しが、時を経て金が薄れ下地の朱が透けている。今日の主役の酒器の赤絵と卓に並ぶと良い景色で気に入った。

感染症はまだ収まっていないし、飢えや貧困の中で生活する人々、今年始まった大きな争いに巻き込まれてしまった国を思い、来年は平穏が訪れる事を願う。少し気が早いけれど次の干支、兎の茶碗に酒を入れた。

この北大路 魯山人の器、本来は煎茶碗なのだけれど、いつも酒器に使っている。外側の全体を覆う、赤の釉薬のむらが柔らかく濃淡を作り、口から垂れた釉薬の、その流れがまた景色を作る。赤一色の肌だけれど、とても表情豊かだ。

見込みは白磁に呉須で描かれた兎だけ。碗は縁にぐるりと細く呉須を回して、赤を掛けた外側と見込みの白磁で別の世界が作られている。兎が見上げているのは月だろうか。底の部分は丸味を帯び、茶碗の見込みの小さな空間に、月が浮かぶ宇宙のような広さを感じる。

器 赤絵兎煎茶碗  径 6,5cm 高4,5cm

作 北大路 魯山人

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No.104 オードブルプレート

 街は賑やかな装飾で盛り上がる季節。少し華やいだ気分を味わおうと、好物を盛り合わせてオードブルプレートを作った。器はRene Lalique(ルネ ラリック 1860-1945)の大皿。こんなに大きい皿が食卓に載ると特別感が有る。

盛り合わせたのは4種類。生ハム、チキンロール、サーモンのサワークリーム添えとトルティージャ。トルティージャはスペイン風オムレツの事で、本当はもっと大きく作ると形がきれいにまとまるのだけれど、大きく作っても我が家では持て余す。だから少しの量で作ったため厚みと形は整っていないけれど、家で味わうにはこれで充分。チキンロールは私の定番料理。もも肉に塩胡椒して凧糸で巻き、フライパンでゆっくり焼くだけ。とてもシンプルなのだが作っておくと何かと便利に使える。サーモンは今年のおせちにも登場した。それぞれが単品だと変わり映えしないけれど、色鮮やかな緑の野菜やオリーブと共に盛り合わせると気分も変わる。これにワインとバゲットで週末気分を楽しもう。

Rene Laliqueの大皿は、Vases(花瓶)と言う名の1921年モデルで、1921-1923の3年間だけ作られたのだそうだ。同じモチーフで形やサイズのバリエーションはいくつか有ったらしい。少し判りにくいが透明に抜けている部分が壺型の花瓶で、活けた花が周りの模様に描かれている。皿だけ見ても存在感のある意匠と細工だけれど、食事が進んで料理が減って、皿の全貌が見えて来た時の楽しみも味わえる。

器 Rene Lalique Vases大皿 径31,5cm 高3cm

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No.103 マッシュドパンプキン

 もうすぐ冬至。日に日に日照時間が短く、気温は下がり、気分が沈みがちだ。寒さは年明けからが本番だけれど、この日を境に少しずつ明るい時間が長くなると思うとほっとする。今年は冬至南瓜を少しおしゃれに飾ってみた。

皮を薄く削いで茹でた南瓜は、水分を飛ばしてフォークなどで荒くマッシュし、バターと胡椒、塩で味をととのえる。私はレーズンを入れたのが好きだ。粗熱が取れたところで和えておくと、レーズンも柔らかくなり味が馴染む。南瓜の甘味にレーズンの甘味と風味がアクセントになる。更に、食べる直前にローストしたスライスアーモンドをトッピングする。この香ばしさとカリッとした食感がたまらない。

器はSusie Cooper(スージー クーパー)。我が家にある皿やカップ&ソーサーとお揃いの柄で、ドレスデンスプレーと呼ばれるシリーズのもの。両側に装飾的な持ち手が付いている。洋食器を揃いで食卓に出す事はまず無いけれど、この器は付け合わせやソースを入れたり、ひとりの時はサラダなどの副菜を盛るのにも活躍する。

元々、Susie Cooperの器はよく使われてる事が多く、ナイフの傷が付いていたりして程度の良くない物もよく見かける。この小鉢も見込みに薄く貫入状の染みがある。漂白剤を使っても消える類の染みではないけれど、これはこれ。人も歳を取ればシワも出来るしシミも有る。器だって長い年月使われていればいつの時代か、或いは初めからか多少の難が有ったとしても、それは長く大事に使われて来た証だ。私もこれからも大事に使わせてもらおうと思う。

器 ドレスデンスプレー手付ボウル 径12,5(17,5)cm 高5,5cm

作 Susie Cooper

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No.102 鰊の甘露煮

 春と秋に旬のある鰊(にしん)。一般的には春で知られている。産卵前で卵や白子を持って、脂の乗った時期だ。日本近海には、鰊の獲れる海流が大きく3つ有るのだそうだ。大規模回遊のサハリン系群と小規模沿岸回遊の石狩湾系群のふたつが春、1月から6月にかけて。もうひとつが北海道太平洋沿岸を回遊するもので、こちらは9月から11月下旬に旬を迎える。しかし秋の漁獲量は少なく、北海道以外に出回る機会が少ないため、旬は春とされる事が多いらしい。

この、秋に獲れる鰊は春に比べると脂は少なめだが、卵や白子が無い分、身そのものの旨味は強いと言う。そう言えば昔、釧路の市場で、ししゃもは雌の子持ちが珍重されるが、身を味わうには雄の方が美味しい、と教えられたのを思い出した。

先月、11月に地元の魚屋でよく鰊が出ていた。気候のせいか、魚屋に並ぶ魚が少しづつ変わって来ているのを感じる。ある日、塩焼きにしてその身の柔らかさ、淡白な旨味を美味しくいただいた。そして何でも自分でやってみたくなるのが癖で、鰊の甘露煮は作れるのだろうか、と思い付き魚屋で鰊を3枚におろしてもらって来た。酒で洗って暫く天日干し、干物にして甘露煮を作った。保存食品にするつもりはないので、身欠鰊ほどまでは乾かさず半生だったので、戻す手間なくそのまま甘露煮にした。好みで軽めに味付けし、結構満足の行く出来栄えだ。その鰊の甘露煮に針生姜を乗せて、酒のつまみの一品にした。

皿は青呉須。古染付けと同じく中国の磁器だ。時代も古染め付けと同じ頃だが、呉須(コバルト)は釉薬の下に彩色するが、この皿は輪郭を黒で入れ、釉薬を掛けた上に胆礬(たんばん 又は たんぱん)で彩色をしている。胆礬、原料は鉱物の硫酸銅で美しい青を発色する。呉須とは違った透明感が有って華やかな緑青。鳥と植物が描かれていて、地の白の空間が映える皿だ。

器 青呉須皿 径14cm 高3,5cm

作 不明

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No.101 アップルパイ

 林檎をいただいた。福島県の林檎農家のものだ。契約すると、林檎の木を一本所有することが出来て、その木になる実はその契約者が収穫できるのだと言う。その一家が、週末に林檎狩りに行って来たから、とお裾分けにあずかった。通常の流通ルートとは違うので、素朴で不揃い、少しキズも有ったりするがそれが自然な良さだ。一本の木で200個を超える林檎がなっていたと聞いて驚いた。

その林檎で、久しく作っていなかったアップルパイを焼いた。まず林檎を剥いてフィリングを作る。部屋中に甘酸っぱい良い香りが立ち込めた。その香りを胸いっぱいに吸い込んで、幸福感を噛み締める。世界には家も食料も無く、寒さに震えて他国で難民生活をしていたり、戦争に巻き込まれて辛い思いをしている人々が居ることを思うと胸が痛くなる。早く、こんな日常が取り戻せるように、と願いながら自らの恵まれた環境に感謝する。

パイは、冷凍のパイシートを使えば手軽に作る事ができる。焼き立て熱々のアップルパイを頬張り、今日もまた自然の恵みに感謝する。

皿は、No.96で林檎のケーキを盛った、Shelley(シェリー)のB&Bプレートの柄違い。この皿は優しい色使いで、見込みの中央にはアール・デコ調の可憐な花が描いてある。気に入っていて使いやすく、週末にサラダを盛ったりして楽しんでいる。

器 Shelley(シェリー) B&Bプレート 径25×21 高2,5cm

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No.100 白子の天麩羅

 暫く仕舞ってあった十字文の皿。とても気に入っているけれど、どこに仕舞ったのか見つからず、ずっと探していた。先日やっと見つかって嬉しくなって久しぶりに使ってみた。

この径の皿は和食器には少ない。少し深さのある見込みも、料理を盛るのにとても都合が良い。意匠だけでなく料理を盛るという実用にも適していて、作る側には料理を盛ってみたいという気持ちにさせる皿だ。北大路 魯山人の器は、食べる人にも料理人にもとても魅力的だ。

季節の鱈の白子を天麩羅にした。舞茸とししとうも盛り合わせ、塩とすだちを添えた。サクッとした衣にふわふわ、とろとろの白子は、ぽん酢や鍋でいただく時の食感とも違っていて美味しい。

 昨年の元旦から始めたこの『うつわ道楽』も今回100回を迎える事ができた。毎回、その器が生きる料理を目指してはいるのだが、後から見返すともっとああすれば良かった、とかこうが良かったか、と考える。でも料理はその時食べて無くなるもの。また次にその器を上手く使う事ができれば良いのだ、とも思う。道楽なのだから。これからも気の向くまま料理を盛って楽しみたい。

器 鵜班釉 十字文 平向付 五客  径19,5cm 高3,5cm

作 北大路 魯山人

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No.99 蕎麦

 収穫の秋。米も蕎麦も新物が出回る時期だ。よく比較される蕎麦派、饂飩派で言うと私は饂飩派だろうか。自宅で作ることを考えると、饂飩の方が頻度が高い。蕎麦も饂飩も家庭で食すには乾麺しか無かった時代とは違い、今や保存期間の長い冷凍や生麺の饂飩はクオリティがとても高く、食べる機会も増える。

でも、決して蕎麦は嫌いではないし、むしろ時々とても食べたくなる。自宅の近くに美味しい蕎麦屋があり、打ちたての蕎麦を食べに行く。家で、買ってきた乾麺や生麺で作る蕎麦とは格段に香りも味も美味しい。とは言え、時たまインスタントラーメンの味が恋しくなるように、乾麺の蕎麦を食べたくなった。いつもなら冷たい蕎麦は笊に盛るけれど、きめの細かいこの蕎麦は、皿に盛った。

染附の、とは言っても古染の柔らかい肌の染附ではなく、肌がシャープな富本 憲吉の白磁の染附だ。少し深さのある皿の形も蕎麦を盛るのにちょうど良い。天麩羅やとろろにする事が多いが、今日は蕎麦つゆと薬味だけの盛り蕎麦にした。見込みの絵は月の田舎家の風景だろうか。古染を使う事が多いからか、現代のきっちりした白磁が新鮮に映る。

器 染附皿  径20,5cm 高3,5cm

作 富本 憲吉

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No.98 栗の渋皮煮

 毎年、季節になると一度は栗ご飯を炊く。お料理屋さん風にシンプルに栗だけのものや、栗とお揚げを入れたもの、鶏や人参、椎茸も入れて五目にしたり、とその時の気分で具材や味を変える。栗は炊き込みご飯にしなくても、煮物の具材のひとつにしても美味しいし、気が向くと渋皮煮を作る。作った渋皮煮は容器を煮沸消毒してきちんと保存すれば、おせち料理の盛付けにも使える。

今年は、八百屋の店先で何度も栗を見掛けていながら中々手を出さずにいた。なぜだろう、皮剥きを考えて面倒臭さが勝ったのだろうか。もちろんそれも有るけれど、何故か買おうと思う意欲が掻き立てられなかった。

しかし、この栗を見つけた時は何も考えずに手が延びた。大粒で艶が良く、その姿を見た瞬間に手間は関係なくなり、どうやって食べようか、と考えていた。素材の魅力なのだろう。その夜は栗ご飯、翌日は栗のリゾットでいただき、買った時の半量程、大きくて形の良い栗を渋皮煮にした。煮る手間は掛かるけれど、鬼皮だけ剥けば良いので楽にさえ感じる。シロップに浸けたまま一晩置いて、さて今年の出来はどうだろう。

この染附の蓋物 (食蘢 じきろう 蘢は本来は竹冠)は、東光山 旭亭(亀屋 旭亭)(1825〜不明)のもの。力強い筆使いと鮮やかな呉須の色で、その絵に引き込まれる。唐物写を多くし、祥瑞を得意とする方だ。京都 五条坂で生まれ、25歳で独立、東光山を号として染附を始めた。この器にも祥瑞風の縁取りが施されている。蓋には唐人と思われる男性が2人、先に羽根のようなものがついた箒状の長い棒を持っている。何かの物語の一場面だろうか。

お抹茶の主菓子を入れる器、とされる食蘢にしては小振りだが、この時代の文人達が好んだお煎茶の道具かも知れない。この大きさの蓋物なら、香の物やお惣菜を盛って食卓にも使えそうだ。

器 染附写 蓋物  径13cm 高8,5cm(蓋込)

作 東光山 旭亭

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No.97 ボルシチ

 ロシア料理と認識されていたボルシチは、実はウクライナの郷土料理だそうだ。ソビエト連邦の時代、日本にもロシア料理のレストランが出来て、ロシア料理の代表的なメニューとして知られるようになったのだと思う。

当時ウクライナは独立した国ではなく、ソ連のウクライナ地方。私が子供の頃読んでいた、山岸 涼子さんの『アラベスク』というバレエ漫画にこの地名が登場するので知った。当時、バレエの最高峰はソ連で、ボリショイバレエ団が有名だった。この『アラベスク』の主人公はバレエを志す少女で、ウクライナのキエフ(現在のキーウ)出身。レニングラードのバレエ学校に進み、ボリショイバレエ団とも競い合う。当時のレニングラードは、今のサンクトペテルブルクだ。世界地図は様変わりしている。

最近は、地元の八百屋でも生のビーツが手に入る。長野や北海道で生産されている国産だ。ボルシチの、トマトとは違う紫がかった深い赤の色はビーツの色だ。蕪ような形だが、さとう大根の仲間だそうで、少し甘味がある。仕上げにサワークリームを加える。コクが増し少しの酸味が加わり、味が完成する。ボルシチは、本来長く煮込む料理ではないらしい。レシピを探すと牛肉も薄切りを使い、野菜の切り方も小さめだ。でも、肉も野菜もよく煮込んだ方が好みなので、私流のボルシチはすね肉を使って煮込んだシチュー風に作る。肉も玉葱も、人参も馬鈴薯もキャベツも、具が全てビーツの色に染まる。

ボルシチを盛ったのは、Susie Cooper(スージー クーパー)のスープ皿だ。アール デコ調の手描きの愛らしい花柄で、見込みがたっぷりした皿だ。スージー クーパーは、ミート皿などはよく使われていて、経年のナイフのキズが有る物も多い。が、このスープ皿は使われる頻度が少なかったのだろう。キズも無く、良い状態で残っていた。少し厚めに掛かった釉薬に貫入が入っていて、最近の工場生産とは違う温もりを感じる。

器 Susie Cooper スープ皿  径25,5cm 高4cm

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No.96 林檎のケーキ

 林檎が店頭で目に付くようになった。最近は少なくなった紅玉を見つけて、久しぶりに林檎のケーキが食べたくなった。林檎をカラメルソースで煮て、生地に混ぜ込んで焼くだけの簡単レシピだ。以前、このレシピで林檎をバナナに変えて作ったバナナケーキも掲載したが、バナナなのか林檎なのか、残念ながら写真での見た目は変わらない。このタイプのケーキは焼いてすぐより、翌日の方がしっとりして美味しくなる。食べながら、次回はシナモンを少し加えてみようかと考えた。

この皿はShelley(シェリー)。イングランド、スタッフォードシャーの陶器メーカーのものだ。1853年に窯を開いて以来、シェリー窯になるまで、経営者が変わって、数回窯の名前が変わったらしい。このシェイプの皿はB&Bプレートと呼ばれる。色柄の違いでバリエーションが沢山ある。実は我が家にも4枚。多分このシェイプの皿は長く作られていて、時代によって絵付けの傾向が変わっているのだろう。草花をモチーフにした柔らかい色使いのものや、この皿のようにアール・デコのシャープなものなど、デザインは様々だ。この皿は、アール・デコ全盛期の1920-30年頃のものだろう。お菓子を盛ったり、果物やサラダに、と食卓によく登場する。

器 Shelley (シェリー) B&Bプレート 径25x21cm 高2,5cm