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No.132 ちらし寿司

 度々食べたくなる料理にちらし寿司がある。酢飯が好きな事もあるが、この季節にはさっぱりしていて食欲が落ちていても食べやすい。新鮮な海の幸は無くても、大葉や茗荷、白胡麻を混ぜ込んだ酢飯に、錦糸卵を乗せただけでもさっぱりして美味しい。今日は先日買って、甘辛く炊いておいた穴子も混ぜ込み、雲丹といくらを飾った。

盛り付けたのは、8代 白井 半七の鉢。白の釉薬の上に朱の色が映える。鉄釉で描かれた花と、見込みの寿の文字がとても柔らかく、優しい。見ていて飽きない私の大好きな器だ。

白井半七は、1680年代江戸の今戸村で今戸焼の土風炉を作ったのが始まりとされている。7代の時、関東大震災で被災し窯を兵庫県伊丹市へ移し、この8代で宝塚市へ移転した。以前、2022年1月、No.56の回で同じ白井 半七の小鉢を使った回にも書いているが、乾山の写しを多くしている。私もこの半七の器は大好きで、とても大事にしている。

器 赤地草花紋寿鉢 径17cm 高8cm

作 第8代 白井 半七

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No.131 冷やし茶碗蒸し

 熱々の茶碗蒸しはとても美味しいけれど、今頃の急な蒸し暑さだと、冷たいメニューが欲しくなる。卵豆腐をイメージして、冷たい茶碗蒸しを作った。プルプルの食感を生かして具材は入れず、トッピングは少し贅沢に生雲丹を飾り、少し濃いめの味付けの餡を掛けている。

この『のぞき』は荒川 豊蔵の作。釉薬を掛けた時の指の跡、流れた釉薬の垂れも有って、表情が豊かな器だ。鉄釉で素朴な線描きの絵柄が四面に、思い思いに描かれているのだが、その何気なさが様になるのはとても難しい。小さい器でこれだけの存在感を感じさせてくれるのは、さすがに作り手の貫禄を感じる。

のぞき、とは径が小さくて深い形の向付けで、料理を覗き見るようになる事から来た名称だそうだ。元は、お造りを付ける煎り酒やお酢を入れたものだったと言う説もある。少しの量のお料理を、名前の通り覗き見るように盛り付けると、お料理屋さんのようにオシャレで素敵だけれど、私は今回のように小振りな茶碗蒸しや、ぐい呑み、湯呑みにも使って楽しんでいる。

器 鉄釉 向付け  径7cm 高8cm

作 荒川 豊蔵

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No.130 鯵の南蛮漬け

 鯵で好きなメニューは、刺身になめろう、塩焼き、そしてアジフライ。どう料理しても美味しい。豆鯵なら唐揚げも良いし、残ったらそのまま南蛮漬けにしたりする。今回は甘酸っぱい味が欲しくなって、3枚におろした鯵で南蛮漬けを作った。

 梅雨の蒸し暑い時、酢を使った料理は日持ちもするしクエン酸は疲労回復にも効果が有る。私達に僅かに残っている野生的な本能は、身体が欲する酸味を求めているのかもしれない。本来、動物は酸っぱい匂いは敬遠する。自衛本能で、腐敗した食物を嗅ぎ分けるためだという。でも二足歩行を手に入れ、脳が飛躍的に大きく進化した人類は、身体に有効な酸味と、有害な酸味を区別する術を身につけたそうだ。すごい事だと思う。

鯵は卸した半身を食べやすい大きさに切って、唐揚げに。野菜も軽く素揚げして熱いうちに漬け汁に入れる。野菜は、パプリカと黄色いズッキーニ、ししとうを盛り合わせた。酢が入っているので、ししとうの鮮やかな緑は色褪せてしまうけれど、しんなりした甘酸っぱいししとうも美味しい。

この木の葉を象った皿は、須田 菁華のもの。初代か2代の作かは定かではない。磁器に呉須で絵付けした、古染を模した作品が多く、私も好んで使っている。裏には脚が3本、脚の高さがあって食卓では高低差が出て変化が付く。緩く抱えた見込みはおおらかさを感じる。

器 木の葉皿 径21×11,5cm 高5,5cm

作 須田 菁華 

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No.129 破竹のきんぴら

 『破竹の勢い』と言う言葉は昔から知っているけれど、この言葉の元となった『破竹』が何なのか、またどんな字を書くのか。まで深く考えた事が無かった。すごく勢いよく、と言った意味あいだろうと漠然と思っていた。先日、地元の八百屋に行ったら店先に見た事のない細い、紫がかった茶色の筍が並んでいて、商品名の札に『破竹』とある。あまり出回っていないのか、初めて見る筍だった。『はちく』と聞けば自然と『破竹の勢い』が連想され、八百屋のお兄さんに聞くと、そうそうその破竹、と言う。調べたら、竹は最初の一節を割るとあとは一気に割れる事から、勢いが激しくてとどめがたいこと。と有る。竹を割ったような性格、と言う言葉も有るが、真っ直ぐで迷いの無い様子がうかがえる。

調理の仕方を尋ねると、柔らかくて灰汁が少なく、いわゆる孟宗竹の筍のように下茹でなどの処理は不必要、そのまま料理に使えると言う。〝やってみたがり〟の私は早速買って帰った。その日は穂先に近い部分を天麩羅にし、(前回No.128の回で掲載)残りの下の部位できんぴらを作った。聞いた通り、灰汁も繊維も無くて柔らかい。少し唐辛子を効かせてピリ辛の美味しいきんぴらになった。

 この青磁の小鉢は現代陶芸作家、古川 利男さんの作品。昭和24年生まれ、京都 清水焼の陶芸家で、利宋窯という窯で作陶、氷裂青磁を得意とする。我が家にひとつだけ在る古川氏のこの小鉢は、食卓に載るたびにその氷裂の幾何学模様と色の美しさで食卓にメリハリを与えてくれる。

器 氷裂青磁 小鉢  径10cm 高7cm

作 利宗窯 古川 利男

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No.128 梅雨穴子の天麩羅

 少し小振りながら美味しそうな穴子を魚屋の店先で見つけた。住んでいる地域柄、普段売られているのは東京湾や千葉で獲れた穴子が多いのだけれど、珍しく長崎。小振りな事もあって価格もお手頃だった。穴子は、軽く焼いてから刻んで、醤油で甘塩く炊いて、ちらし寿司に混ぜ込んだり、茶碗蒸しの具にしたりする事も多いのだけれど、今日は天麩羅が食べたくなった。

穴子の旬は6月から8月の夏の間で、梅雨穴子とか夏穴子、と呼ばれるらしい。大抵の魚類は脂が乗る冬の季節や、産卵前を良しとされるけれど、穴子に関しては脂の少ないさっぱりした身が好まれるそうで、この時期が旬。確かに、脂の乗った鰻に対してさっぱりして淡白な穴子、という印象がある。

ししとうと、今の時期八百屋の店先に出回る破竹という灰汁の少ない細い筍を一緒に天麩羅にして盛り合わせた。使ったのは脚のある古染付の皿。皿の見込には湖だろうか、それとも海かもしれない水面に浮かぶ船、遠景には山も見える。まるで見込みに円形のパノラマで描かれたような風景が描かれている。空になった皿を眺めて、この描かれた風景の物語を思い描くのも楽しい。

器 古染付 脚付皿 径16,8cmx11cm 高3,5cm

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No.127 カプレーゼ

 昨年5月、No.72の回でも登場した、イングランドで1873年に創業した陶器メーカー、POOLE。マットな表面感が柔らかく、独特な雰囲気を持っているブランドだ。

同じ大きさの、このパターンの花柄の小皿は、以前から我が家には2枚在った。でも今回の、縁のドット柄がグリーンの物はつい最近、3枚目として我家に来たばかり。以前から在る色の違う2枚の小皿には、果物を盛ってみたり、お菓子を盛ってみたりしながらも、中々しっくりしなくてここには登場していなかったのだけれど、今回の小皿は縁のグリーンの色に、トマトの赤とバジルの緑が映えそうだ、と思い付き早速カプレーゼを盛った。

先付けのオードブルのような、小振りで可愛らしいひと皿になった。新緑の季節、外を歩くと新芽の艶やかな緑が目に飛び込んで来る。今日はベランダのバジルで、食卓にも鮮やかな緑を飾ってみた。

器 花柄小皿  径10,5cm 高2,5cm

作 POOLE

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No.126 牛すじの赤ワイン煮込

 ひと昔前まで、関東の精肉店で牛すじを見かける事はまず無かったけれど、嬉しい事に最近は取り扱うお店が増えた。牛すじは下処理が少し面倒だけれど、脂肪も少なく煮込むと良い旨味と蕩けるような食感で大好きな食材だ。少し時間をかけて赤ワイン煮込を作った。

香味野菜をみじん切りにしてよく炒め、赤ワインを加えて牛すじを煮込む。私は水煮のトマトとデミグラスソースも加えてコクを増す。食べる前に、茹でたポテトと人参、マッシュルーム、ブロッコリーを加えて一緒に温めて盛り合わせ、ボリュームたっぷりな一皿になった。

さて、どの器に盛ろうかと考えていて思い出した。深さが有って縁の幅が広く、まるで洋食器のスープ皿の形をしている。古染付ではあまり見た事がない形で珍しい。呉須も素地の色も濁っていて、古染付の中でそれほど良い上がりではないけれど、とても使いやすい。以前はよく使っていたのに、仕舞い場所を変えるとつい忘れがちになる。少し重めの赤ワインと一緒に楽しんだ。

器 古染付皿  径21cm 高4cm

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No.125 アイスミルク

 季節の変わり目は、天候も気温も変化が激しい。ここ数日は真夏のような暑さで、冷たい飲み物が欲しくなった。久しぶりに、この鯛がたくさん泳ぐコップを出して白いミルクを注いだ。薄いガラスの中に、口を大きく開けて泳ぐ可愛らしい鯛の模様が浮かび上がる。

これは一昨年の夏、2021年8月のNo.34で掲載したのと同じ、江波 冨士子さんの「ムリーニ」という手法のガラスコップで、我が家に2つ在るもうひとつの方だ。その回にも書いていたが、ローマ時代に作られていたガラスのムリーニという手法を、江波 冨士子さんが独自の技術で再現して作られている。

 同じ大きさの鯛が泳ぐこのコップの風景は、まるで水槽を覗いているかのよう。No.34の回で使った、大中小の大きさの違う鯛が泳ぐコップは、このコップをいただいた後にもうひとつ欲しくて、お願いして作っていただいたもの。どちらのコップも、使う度に懸命に泳ぐ鯛の姿に気持ちが和む。

器 鯛 ガラスコップ  径8cm 高9,5cm

作 江波 冨士子

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No.124 洋風肉じゃが

 今が旬のエンドウ豆を沢山いただいた。友人のご実家が家庭菜園で収穫したものだ。今までにも胡瓜や馬鈴薯、玉葱など色々頂いた事があるが、どれも美味しく素人とは思えない出来栄えで驚く。今回はこのスナップエンドウの他に、絹さやをいただいた。どちらも私の好物。ちょうど新じゃがと新玉葱が有るので、スナップエンドウを使って洋風の肉じゃがを作る事にした。春野菜は甘くて香りが良いから、味付けは甘味を加えずにシンプルにしたかった。精肉ではなくてベーコンを使う事で、燻製された脂と香りがコクを増す。市販のブイヨンを少し使って、小さいローリエの葉を一緒に煮込み、塩味で仕上げた。

 器は古染付で、見込みの中央にだけ模様が描かれている、ほぼ真っ白の白磁の鉢。しかし、よく見ると内側に陰刻で幾何学的な模様が彫られている。鉢の口に近い上の部分は生地も薄いため、陰刻は自然に消えているけれど、胴の辺りには少し青みがかった釉薬が僅かな陰刻の模様を浮かび上がらせている。口の部分だけもう一回り開いている輪花の縁は、当時の良質ではない釉薬のせいで爆ぜてしまって虫食いだらけ。でも、それがこの白い鉢にいっそうの古染らしさと風情を加えている。

器 古染付鉢  径15,5cm 高9,5cm

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No.123 シーフードグラタン

 グラタンが食べたくなった。よく作るのはチキンだけれど、今日は近頃手に入りやすいサーモンと帆立貝柱でシーフードにした。幼い頃、食べず嫌いで偏食だった私が、唯一安心して外食で食べられたのは、チキンマカロニグラタンだった。今でもバターの効いた濃厚なベシャメルソースを使った料理は大好きで、グラタンの他にもクリームコロッケやラザニア、ギリシャ料理のムサカなど、ちょっと面倒だから滅多に作らないけれど、時々とても食べたくなる。

バターと小麦粉を弱火でしっかり炒めて、牛乳を加える。ソースは粘度があるので、沸くとまるでマグマのようにグツグツと大きな気泡がはじける。前にアルバイトで勤めたデリで、この時にしっかり火を通すのがコツ、と習ったので火傷に気をつけながら、焦げないように木べらで混ぜてしっかり火を入れる。グラタンは焼き上がりの香ばしい香りと表面のカリカリの食感で、満足感を感じる料理だ。

オープンに入れるので、グラタンは耐熱容器で作るが、熱い容器を載せるアンダープレートにちょっと華やかな皿を使った。年代は不明だが、多分それほど時代のある皿ではないと思われる。メーカーは英国のMINTONだが、ニューヨーク、5thアベニューに在った食器店のために作られた物らしく、バックプリントに記されている。調べたがその食器店は今は無いのか、判らなかった。

縁に回した金の彩色は、時を経てもほぼ新しい時と遜色なく残っていて豪華な印象、ブルーのエナメル質の小花は透明感が有って美しい。我が家の中では華やかで、少し毛色の違う器だけれど、時にはこんな明るさも気分が変わる。

器 金線小花ケーキ皿  径20cm 高2cm

作 MINTON England