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No.122 摘果メロンの酢の物

 メロンの美味しい果実を育てる為に間引かれた小さい実を、『摘果メロン』と呼ぶそうだ。径が5〜7cmほど、緑色で少し長い球状をしている。滅多に見かけないのでよく知らなかったのだが、いつもの八百屋の店先でスタッフのお姉さんに勧められた。『これ、美味しいですよ。私は大好きで、出てたら買っちゃう』と。食べた経験が無いので、どうやって食べるの?と聞いたら、彼女は浅漬けが一番好きだと言う。でも、糠漬けとか味噌漬け、酢の物でも美味しいそうですとの事。メロンは瓜の仲間だから、何となく想像はつく。早速試してみる事にして、ひと山買って帰った。端を少し切って口に入れると瓜科特有の香りが広がった。思った通り、シャキシャキした瑞々しい食感と、少しの青臭さ。でも胡瓜ほど強くない。まだ育つ前だから甘味もない。中は白い果肉の中心に白い種が有る。確かに形態はメロンと同じ。皮の表面に桃のように細かい毛が生えていた。少し塩で擦ると口に入れても気にならない程度の生毛だから、料理によって皮は剥いても残したままでも良さそうだ。

早速いくつかを糠床に入れ、今日食べる分は、先日買って少し残っていた独活やわかめと酢の物にして盛り合わせた。独活の春の香りと摘果メロンの初夏の香りが楽しめる、美味しい酢の物ができた。

翡翠色の摘果メロンが良く映るこの器は2代 川瀬 竹春のもの。鮮やかな青が美しく、粗くヘラで削った窪みには釉薬が溜まり、深い海を覗き込んだような碧色、縁に飛ぶ鮮やかな黄色の花が軽やかさを感じさせる。この器には瑞々しい野菜がよく似合う。

器 へら目小鉢 径11,5cm 高6cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春

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No.121 苺

 意図した訳ではないのだが、前回と同じタイプの白磁の器になった。呉須で漢字の文字に縁を取ったもので、前回は北大路 魯山人。今回はその魯山人が見て、模したであろう本科の古染付の小皿。もちろん、魯山人がこの小皿を見たとは思わないが、この手法の古染付を見て、自身の創作に取り入れたと思われる。

近代に作られた前回の魯山人の白磁に比較すると、今回の小皿は粒子の細かさも、混入物の残留も、土の精製の粗さがよく判る。とは言えこの皿が作られたのは西暦1600年代の中国。その時代にこれだけの磁器が作られていたのはすごい事だ、と改めて感心する。

厚手の質感がどっしりしていて存在感が有る。皿の裏は、高台の外から皿の外縁に向かって放射状に深い筋が彫られている。先の尖った道具で彫ったのだろうけれど、そのギザギザは表から見ても皿の縁に細かい輪花のように見えている。すっかり仕舞い忘れていたこの皿を久しぶりに出して、改めて見惚れた。

この小皿には季節の苺を盛った。昔、まだまだ経験が浅かった若い頃、古染付の皿にふとした思い付きで苺を盛ってみたことがあった。当時は古染付に果物を盛るなんて考えた事がなかったのだけれど、器が苺の赤に映えて瑞々しく、その染付の皿が今までとは別の表情を見せてくれた事に驚いた。その時の感動が忘れられず、器使いの楽しみがまたいっそう深くなった。

器 古染付 壽 小皿  径12,5cm 高3cm

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No.120 若竹煮

 今年は収穫量が少ないそうで、例年より少し遅く九州の筍が届いた。小振りで土の付いた筍を軽く洗って糠と鷹の爪を入れた大鍋で茹でる。立ち昇る湯気も筍の良い香りで、春を感じる瞬間。その晩は茹で汁に漬けて、翌朝きれいに洗って余分な皮を取り、水に浸けて冷蔵庫で保存する。

夕飯は、筍ご飯と若竹煮。贅沢にたくさんの筍を堪能した。新芽が勢いよく出てきた、庭の山椒の葉を摘んで添える。筍が少し遅めな分、山椒の葉は少し育ってしまったけれど、洗った葉を掌でパンと叩くと良い香りが立ちこめる。

ところで今更だけれど、この『若竹煮』という料理の名前。何も考えずにわかめと筍だからね、と思っていたけれど、この若、は若いという字だ。読み方の音だけで単純にわかめと思っていた。本当に今更でお恥ずかしい話だけれど。ただ、調べたら由来は想像の範疇だった。春の〝若〟いわかめと筍の〝竹〟。日本語は奥深い。

この若竹煮は北大路 魯山人の染付の鉢に盛った。薄く薄く作られた白磁に、呉須で縁を取った『大』『吉』『羊』の漢字を側面に大胆に書いている。反った口からなだらかな丸みが高台まで続く、見込みの広がりが大らかさを感じる。さっぱりした意匠ながら垢抜けていて、盛る料理を引き立ててくれる。

器 染付 大吉祥鉢  径19,5cm 高8cm

作 北大路 魯山人

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No.119 コーヒータイム

 英国でお茶、と言うと紅茶のティータイムを連想する。コーヒーを飲む場面を思い浮かべるのが少し難しいのは、私だけではないかもしれない。でも食事の後にはコーヒーを飲む機会も多いのだろうかと想像する。英国の食器にもコーヒーカップやマグカップは有るし、きっと中にはコーヒー党の人も居るだろう。このコーヒーセットも英国、イングランドのもの。既に何度も登場している Susie Cooper(スージー クーパー)のデザインなのだが彼女のブランドではなく、Wood & Sons Ltd. と言う陶器製造の会社によって生産されたもの。

同じ柄の『チーズディッシュ』と呼ばれる器を、英国のアンティークオークションサイトで見つけた。それによると『インディアンレッドとヘアーブラウンで描かれたチューリップがアール・デコ風にアレンジされているデザインで、1935年のRoyal Academy British Art in Industry Exhibition.に出展されたもの』だそうだ。絵柄はもちろん、コーヒーポットやミルクピッチャーの蓋や注ぎ口、持ち手のフォルムがいかにもスージー クーパーらしく、優雅で可愛らしい。

本家のスージークーパーに比べると、釉薬が厚めに掛かっていて、濃厚なクローテッドクリームのような柔らかいクリーム色をしている。我が家では休日の朝食に使う事が多いけれど、この温かみのある色のカップ&ソーサーなら、ゆったりとした午後のコーヒータイムも楽しめそうだ。

器 コーヒーセット  カップ 径7,5cm  高5,5cm ソーサー 径13,5cm 高1,5cm コーヒーポット 径(口、手込)18cm 高17,5cm ミルクピッチャー 径(口、手込)13cm  高6cm

作 DESIGNED By Susie Cooper FOR Wood &Sons Ltd.

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No.118 真鯛の汁椀

 何かとお祝いごとの多い季節。お祝い事に使われる真鯛は春の旬を迎え、魚屋の店先で多く見かける。近頃は養殖技術が進んで、天然ものと変わらない価格で売られている。確かに味も遜色無いし、私などは表示がないと味では見分けがつかない。私の誕生日も今頃なので、お祝いに真鯛を汁椀に仕上げた。

 鯛の美味しさに目覚めたのは大人になってからだった。白身で淡白。でもその中に上品な旨味が有り、出汁にも良い味が出る。やはり舌も大人になったのだろう。鯛を湯引きしてお出汁で軽く煮る。菜の花を合わせようと思ったら、もう旬が過ぎていたので菜花を使った。菜花は菜の花の少し育ったもの、と思っていたら青梗菜の花だと八百屋のお兄さんに教えられた。だから苦味が無いんだ、と。確かに癖が無くて食べやすい。

使った煮物椀は、闇蒔絵(やみまきえ)という手法の黒漆の椀。作者は山本 春正(しゅんしょう)という蒔絵師で、代々長く続く家柄だが、その中の何代の作品かは箱に明記も無く、歴代の印も同じなので判断がつかない。が、箱に『不見斎(ふけんさい)好み』と在る。不見斎(1746-1801)は裏千家の9代で江戸後期の人物だから、多分この時代の春正の作か、と推測する。この頃は第5代春正(1734-1803)の頃だから、おそらくこの5代の作ではなかろうか。

闇蒔絵、とは黒漆の上に同じ黒漆で蒔絵が載っていて、どちらも黒だからこう呼ばれるらしい。この椀は、蓋の表に菊が描かれていて、細く美しい線で一枚ごとの花弁が表されている。蓋の高台の径が大きく、浅めなのもこの菊紋の意匠を生かしているのだろう。この高台にも、細い線の花弁が描き込まれている。角度を変えて、際立つ菊の花を眺めてうっとりする。蓋を開けると、黒の漆が中の料理を美しく引き立てる。真っ黒な蓋にこんな繊細な絵をつけるなんて、なんとも気品のある器だと感心する。

器 不見斎好 闇蒔絵 菜盛椀 径13,5cm 高8,5cm(本体5,5cm)

作 山本 春正

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No.117 いなり寿司とかっぱ巻

 例年より早く桜が咲いている。関東ではもう満開を迎えようかという時期なのにお天気には恵まれず、青空の下でお花見は出来そうにない。仕方がないから家でお花見気分をと、いなり寿司とかっぱ巻を作ってお弁当に盛り合わせた。

いなり寿司は、お揚げを甘辛く煮て酢飯を詰めただけなのに、ふと食べたくなる味。シンプルでありながら完成された料理だ、と食べる度に感心する。かっぱ巻もそう。酢飯と胡瓜を海苔で巻いただけ。こちらには少し山葵を効かせて白胡麻も加えて巻くのが私の好みだが、具が何か味付けされた胡瓜でもなく、細く切っただけの胡瓜でこの完璧な料理に仕上がっている所がすごい。

一体誰が考えたのだろう、と調べてみたら早稲田にある寿司屋で『八幡鮨』というお店が元祖らしい。河童は胡瓜が好物だから、名前が『かっぱ巻』なのは想像がつく。生の胡瓜を海苔巻の具にしたのは戦後の食糧難の頃だと言う。寿司ねたにも苦労した時代に生み出された料理だった。そんなかっぱ巻は、高級な寿司屋にも必ずある。どんなに良い寿司ねたが揃っていても、かっぱ巻を食べたい人が多いのだろう。

盛り付けたのは半月形の漆の弁当。蓋の字は松坂 帰庵(まつざか きあん 1891[明治24]〜1959[昭和34])という岡山の真言宗 法界院の僧侶で、書や絵画、陶芸、短歌に優れた方だという。本体の弁当の作者は不明で、ご本人ではないと思うが、手彫りの質感を生かした大胆な凹凸に黒の漆の字が載って力強い。

器 漆 半月弁当  径22,5x22cm 高5cm

作 松坂 帰庵

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No.116 シュープレーム

 少し気取ってフランス料理のシュープレームを作った。伝説の家政婦、志麻さんの簡易レシピを参考にした。いつもはクリームシチューにするのを、ほぼ同じ材料で作る事ができるレシピだった。少し違うのは、普通は小麦粉を使うけれど、このレシピでは片栗粉を使うところ。フランス料理で片栗粉ってあまり聞かない組み合わせだけれど、もしかしたら本来はコーンスターチを使うのだろうかと考える。日本の家庭用に片栗粉で代用して、作りやすくアレンジしているのかも知れない。

簡単に出来るのに、期待以上の美味しいフランス料理が出来た。鶏は骨付きの部位を使う事で出汁が出て、難しいブイヨン無しでも旨味が有る。クリームソースで煮込まないから、野菜や鶏はそのものの味が生きていて、こくの有るソースが絡んでとても美味だった。

器はSusie Cooper(スージー クーパー)のシチュー皿。縁のグリーンが外から内に向かってグラデーションになって濃淡がつき、木洩れ陽を浴びて陽に透ける湖面の様に輝いて美しい。これはノーズゲイと呼ばれる柄で、以前使った(No.49 2021/11/19)スープカップ&ソーサーと同じシリーズ。どちらも食卓には度々登場するけれど、見飽きる事はなくとても使いやすい。作られていた当時も、現在も変わらず愛される理由が解る気がする。

器 Susie Cooper ノーズゲイスープ皿 径25cm 高4cm

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No.115 春キャベツと蛤のワイン蒸し

 柔らかくて甘い春キャベツ。今が盛りで、今日はどうして食べようか、と毎日メニューを考える。

この時期のキャベツは、柔らかい葉がたたまれて折り重なって球状に結実している。その様は八百屋の店先で半分にカットされてラップに包まれて売られている断面を見るとよく解る。空間も多いから実際の量は少ないのだろう、すぐ食べ切ってしまう。生でサラダにしても、スープや煮物にしても炒めても、美味しいから箸が進む。芯の部分は外して包丁で刻むけれど、葉は手で食べやすい大きさにちぎって使う。

蛤と春キャベツは、にんにく一欠片と少しの白ワインで蒸し、仕上げにバターを加えた。蛤の良い味がキャベツにも沁みて、バターの風味とコクが加わった蒸し汁はバゲットを浸して楽しむ。パスタにしても美味しい。冷えた白ワインが有れば更に嬉しい。

 唐津焼のように見えるこの平鉢は水月窯のもの。勢い良く跳ねた海老が鉄釉で描かれている。水月窯は昭和21年、岐阜県多治見市に荒川 豊蔵が作った窯で、豊蔵が2人の息子と共に運営していた。作品には『水月窯』とだけ入れ、作者名は入れないのが特徴らしい。この平鉢にも、名は水月窯とだけある。この平鉢は年代が定かではないが、その3人の誰かの手で作られた物と思われる。水月窯の公式HPによると、豊蔵は研究を重ねて桃山時代の作陶の製法を確立し『心安らぎ、心和む家庭用の器を』という主旨で主に和食器を作り続けたという。現在は、その親子3人と共に長年作陶に携わっていた水野 繁樹氏が窯を引き継いでいるそうだ。

器 絵唐津風 平鉢  径19,5cm 高5,5cm

作 水月窯

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No.114 五目ちらし寿司

 ひな祭りが近づくと、毎年実家の古い雛人形を飾る。大正時代に作られているから、既に百年以上前の物だ。雛人形が飾ってあると、やっぱり当日はちらし寿司と蛤のお吸い物を供えたくなる。ばら寿司や押し寿司をよく作るので、大皿に盛り合わせる事が多いけれど、今年は五目ちらしにして個別に盛った。酢飯にはお揚げと筍、人参、椎茸、蓮根そして白胡麻を混ぜ込んだ。飾り付けは卵の黄色と菜の花の緑、いくらと紅生姜の赤。大好きなこの皿に合わせて、色を選んで盛り付けた。

 呉須の網模様に、素朴で色とりどりの花が飛ぶこの皿は、古染付と称される古い中国の陶磁器の中でも特に『天啓赤絵(てんけいあかえ)』と括られるもので、この皿の裏の高台内にも天啓年製と呉須で書かれて在る。

資料によると、『古染付(こそめつけ)は明末・天啓年間(1621~27)あるいは崇禎年間(1621~44)頃に作られ、江西・景徳鎮の民窯で焼かれた染付磁器の事をいう。天啓赤絵は古染付と同じく天啓年間(1621~27)にはじまり、景徳鎮の民窯で焼かれた所までは同じだが、染付(呉須)ではなく赤絵のこという。萬暦まで続いた官窯様式から脱却した古染付に、朱・緑・黄で上絵付を施しているもの』とある。

年に一度のひな祭り、この皿を箱から出して大切に使わせていただいた。

器 天啓赤絵 網手平鉢  径23cm 高3,5cm

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No.113 ペカンナッツ ショコラブラン

 まるで森に降る雪が、地面に落ちた木の実に積もったように見える。この美しいお菓子は、ホワイトチョコレートが掛かったペカンナッツ。洋菓子と和菓子を作るお菓子屋さんで見つけ、このお皿に盛ってみたいと購入した。

 雪輪と呼ばれる輪郭のこの皿は、私が一目惚れしたもので、第13代 楽 吉左衛門(惺入 せいにゅう 1887-1944)の作品。鮮やかな翡翠色に金の色は美しく、楽焼きの柔らかい土の質感を遮ることなく釉薬を纏っているようで、皿だけ見ていても見飽きる事がない。

最近、楽 吉左衛門はお抹茶茶碗しか作られていないようだけれど、以前の代では茶懐石の器や手炙りなども多く作られていた。それらの器は赤楽の物が多く、色を付けたものは比較的少ない。楽焼は焼きが甘く、水分が染み込みやすい上に壊れやすいので、使うのは相当に気を使う。この皿もこれまで実際に何かを盛って使ったことは殆ど無く、時々出して、ひとりで眺めて楽しんでいた。そんな皿だ。

ペカンナッツはピーカンナッツとも呼ばれるらしい。原産は北米で、胡桃と似ているが少し細長い形をしている。胡桃はヨーロッパからアジアが原産で、形は丸く少しの苦味が有る。カナダやアメリカではこのペカンナッツが胡桃のように使われているのだそうだ。苦味が無い分、ホワイトチョコレートとのハーモニーも良く、マイルドでとても美味しい。また見付けたら、雪輪の皿に盛ってひとりで贅沢に楽しもう。

器 雪輪小皿 五枚組  径11cm 高2,5cm

作 第13代 楽 吉左衛門(惺入)