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No.198 鶏手羽元と大根の煮物

 大根の煮物が美味しい季節になった。甘辛い出汁で、卵と鶏の手羽元をしっかり味が沁みるくらい煮込んで盛り合わせた。

 祥瑞(しょんずい)のこの鉢は、永楽窯、永楽 妙全 の作。前々回 No.196 鰯の蒲焼丼 の赤絵の鉢と同じ作者だ。祥瑞とは、スペースを線で区切って、それぞれに違う絵や幾何学模様が描き込まれた染付磁器の事。この鉢のように器の口や、あるいは胴などに、鉄釉でぐるりと細い線が入る物が多い。

呉須で細かく描かれた祥瑞は、少し格の高い磁器なので、料理も上品に、薄い色に仕上げて盛る事が多いけれど、この鉢は大振りで少し厚手。骨付きの手羽元を盛っても負けない迫力がある。

 大根と手羽元は別々に下煮をする。骨付きの肉は火を通すと生の状態では無かった血の塊などが出てくる事が有るので、下煮した後に取り除いてから調理する。下煮の前に、骨周りに少し切り込みを入れておくと食べる時に肉離れが良くて食べやすい。

味の染みた大根はお腹の中から身体を温める。汗ばむ気温から肌寒さを感じるほどの、急な季節の変化に身体が慣れるように食事にも気を使う。食欲の秋、味覚の秋は楽しみたいけれど、体感出来る爽やかな秋の季節は年々短くなっているようで残念に思う。

器 祥瑞本捻 鉢  径20cm 高10cm

作 永楽窯 永楽 善五郎(妙全)

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No.197 無花果のタルト

 出かけたついでに、お気に入りのお店でタルトを買って来た。ここの無花果のタルトは初めてだ。タルト生地のさくさく感としっとりしたカスタードクリーム、季節の無花果がたっぷり乗っていて、とても美味しい。

 タルトは、ケーキ皿のサイズでは窮屈なので、Susie Cooper (スージー クーパー) のミート皿に盛った。“ウェディングリング” と名付けられたこの柄は、リングの名の通り “輪” が描かれている。皿の見込みからへりにかけて、僅かな段差の傾斜部分に印象的なイエローが入っている。縁に向かって透明感のある淡いグリーンが、そしてその外側に淡いイエローがグラデーションで。グリーンの輪は2本分の幅で、その中央は重なる事によって色濃く現れ、ラインが描かれているかのように見える。色の関係性として、色相環で近い位置にあるイエローとグリーンが、黄味がかった素地につけられているのでコントラストは柔らかく、温かみがあってとても使い。

 この “ウェディングリング” の柄は、比較的長い期間作られていたようだ。調べてみるとこの皿は、Susie Cooper のバックスタンプから、1924〜1931に作られた物と判る。同じデザインの色違いなど、その後の1932年から60年代まで使われたバックスタンプの物もあるので、人気のあったデザインなのだろう。

器 ウェディングリング ミート皿  径22,5cm 高1,8cm

作 Susie Cooper (1924~1931)

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No.196 鰯の蒲焼丼

 時々食べたくなるこの丼。青魚は好きでお刺身や塩焼き、煮魚など作って良く食べる。”蒲焼”と言えば鰻。もちろん鰻も大好きだけれど、栄養豊富であるが故に高コレステロール。その点、鰯だと身体にもお財布にも優しくて、良い事ばかりだ。

 魚屋の店頭で、鰯をざるに盛って売っているとつい買ってしまう。当日は塩焼きにしたとして、すぐに食べ切れない分は、その日のうちに梅煮や味噌煮などにしておく。

この蒲焼は、初日に食べ切れなかった塩焼きや、梅煮にしておいた鰯に手を加えたもの。中骨などの気になる骨を取って、梅煮ならその煮たつゆで、塩焼きの場合は、醤油や砂糖、味醂などを合わせたつゆで煮て、つゆを煮詰めればそれで完成。調理法として厳密には ”焼” ではないけれど、名付けるならやはり蒲焼丼がわかりやすい。

 熱いご飯に白胡麻、焼き海苔を散らし、鰯を乗せて青葱を盛る、大好きな味。今日は、永楽 妙全(1852-1927)の赤絵の鉢に盛った。第14代 永楽 善五郎 (得全) の妻で、得全亡き後、次の15代 善五郎(正全)が襲名するまでの期間、永楽窯を支えた女性。代々の永楽の中でも大好きな作家で、これまでに何度も登場している。女性だから、と決めつけるつもりはないけれど、妙全の作品にはしなやかな柔らかさと華やかさを感じる。この鉢は白磁のすっきりした白の肌に、赤と緑が迷いの無い筆で描かれ、その上に載った金泥に華やかな魅力を感じる。

器 呉須写 赤絵鉢  径15,5cm 高8cm

作 永楽窯 永楽 妙全

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No.195 お月見プレート

まだまだ残暑厳しく、猛暑日の最遅記録更新中だけれど、もうすぐそこまで秋はやって来ているらしい。気がつくと夕暮れが早く、陽が傾くと涼しい風が吹いて来る。青空の残る空に欠け始めた月。冷えたワインで月を眺めながらいただこうと、料理を盛り合わせた。

 箱も銘も無く、窯も作者も判らない。すすきのような草が彫られた鼠志野の角皿。彫られた窪みに釉薬が溜まり、白く浮き出している。叩きで作られた平たい皿は、四方が少し持ち上がり、そのごつごつした縁の質感がとても力強い。大きな窯傷が2本、金継ぎで埋められていて、近頃の気候のせいか、稲光のようにも見えたりする。中々使う機会がないのだけれど、心惹かれる皿だ。

 盛り合わせたのは、いちじくと生ハム、蛸のカルパッチョ、マッシュルームのブルスケッタ。ブルスケッタは、いつもトマトで作ることが多いけれど、思い付きでマッシュルームを使ってみたら思った以上の美味しさ。これから我が家の定番メニューに加わりそうだ。このブルスケッタは、ブラウンマッシュルームを薄切りにして、塩とオリーブオイルをまぶしておく。バケットににんにく風味のオリーブオイルを少し塗って、マッシュルームを載せ、おろしたパルミジャーノチーズをかけてオープントースターで焼くだけ。マッシュルームは、もっと山盛りにしても良さそうだ。好きな料理に加えて、新しいメニューも加わり、美味しい時間を楽しんだ。

器 鼠志野 角皿  径25x28cm 高3cm

作 不明

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No.194 お酒

今年の中秋の名月は9月17日だそうだ。もうすぐなのに真夏の暑さが続いていて、秋はまだ遠い。とは言っても、確かに朝夕は少し秋の気配が漂って、虫の声が聞こえたりする。少し身体を労って、温燗のお酒にした。

澄んだ濃紺の空と、明るく輝く月の黄色を思い浮かべるような色使い。この猪口は 初代 川瀬 竹春(1984-1983)のもの。オランダの陶器の写しで、乳白色の土に呉須と黄、そして鉄釉の茶で色が付けられている。

 竹春は中国陶器の写しや赤絵、染付、祥瑞などが多く、好きな作家さんで、これまでに何度も登場しているけれど、オランダ写しは我が家にこれひとつ。形や模様が特徴的で西洋を感じさせる訳ではなく、中国や日本の陶器に有っても不思議ではない意匠なのに、西洋を感じさせるのは何故だろう。華奢な質感と色使いのせいかしら、と思ったりする。

器 オランダ写 猪口  径5,8cm 高5cm

作 古余呂技窯 初代 川瀬 竹春

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No.193 パプリカのマリネ

 色が鮮やかなパプリカ。昔は粉状の瓶詰めスパイスと、筒井 康隆の小説でしかその名を知らなかった。野菜の種類はここ数十年でどれだけ増えたのだろう。

 パプリカの原産地はハンガリーらしい。原種はコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰った様々な唐辛子の種を品種改良してハンガリーで作り出された野菜で、スペインではピメントと呼ばれる、と。ピメントってグリーンオリーブの実の、種を除いた穴に詰められている、あれだ。色も味もパプリカそのものなのに、今までなぜ気が付かなかったのだろう。

調べてみたらパプリカはピーマンと同じナス科唐辛子属の野菜で、ピーマンとは品種違い。肉厚でジューシー、甘味のあるパプリカは、ピーマンと比べるとビタミンCは約2倍、カロテンは約7倍あるそうだ。スープや炒め物、加熱しても色が変わらず鮮やかで、とても使いやすい。因みにスペイン料理でよく使うスパイスのパプリカは、実の皮のみを乾燥させて粉末状にしたものだそうだ。

 昔、アルバイトで勤めていたスペイン料理の店で、夏野菜のマリネと言うメニューがあった。茄子と2色のパプリカをオリーブオイルを塗ってオーブンで加熱。皮を剥いて食べやすい大きさに切り分け、マリネ液に漬け込む。残暑のこの時期、酸味のあるさっぱりした料理でちょうど良い、と思いだした。茄子は無かったのでブロッコリーで彩りを加えた。

 パプリカの赤と黄を見て、大好きな小皿に盛り付けた。太極紋が中央に、その周りに八卦。古代中国から伝わる ”当たるも八卦、当たらぬもの八卦” が描かれている。土も釉薬も粗く、上手(じょうて)ではないけれど、少し前の時代の中国の色絵で、小さいながら存在感のある皿だ。高い高台と、八角形のバランス、厚く掛かった釉薬と、その絵の素朴さがとてもバランスが良い。つい使いたくなる一枚だ。

器 色絵 対極紋 八角小皿 径11cm 高3,5cm

作 中国

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No.192 桃のコンポート

 少し前に桃をいただいた。その桃は熟しても身が硬く、カリカリしていて林檎のような食感。常温で少し熟れるのを待ってみたけれど、個体差が有るようで全く柔らかくならない桃が2つあった。どうしたものかと考えて、思いついたのがコンポート。硬いのが幸いして、実を崩さずに種を外せて、コンポートには最適な桃と気がついた。

 水に砂糖、白ワインを加えて弱火で煮て、冷たく冷やして、味見をしたらとても美味。バニラアイスクリームと盛り合わせ、ミントの葉を飾ったら素敵なデザートが出来た。撮影に手間取ってアイスクリームが溶け始めたけれど、とても美味しくいただいた。

コンポートを盛った皿は、カットガラスの平皿。外側の底面に沿って大きく平らなカットがされていて、縁にぐるりと金が貼ってあるだけのシンプルなデザイン。購入したお店の仕入れ先はヨーロッパなので、ヨーロッパのどこかで作られたものと思われる。5枚揃っているけれど箱も無く、メーカー名や時代は不明。とても薄くてクリアなガラスのこの皿は、意外にも盛るものを選ぶ。ずっと難しいと感じていたけれど、今回でデザートを盛り合わせると映えるという事を学んだ。

器 カットガラス平皿  径14cm 高3cm

作 不明

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No.191 冬瓜の海老餡かけ

 冬の瓜という名の夏野菜。冬瓜には際立った固有の味が無いので、お出汁や他の具材の味を含んで美味しくなる。私は煮物や中華風のスープによく使う。熱いままでもちろん美味しいけれど、暑い季節には早めに作って冷蔵庫で冷やしておくと、食欲の無い時でも冷たい喉越しで美味しくいただける。

餡掛けにする時は、鶏のそぼろにする事が多いけれど、今日は海老を使った。海老の赤い色が目に鮮やかで器と料理を引き立てる。使った白磁の染付は富本 憲吉のもの。箱には飯茶碗とあるけれど、小鉢ほどの大きさでご飯には少し小さい。透明感のある地肌に淡い呉須で梅の花が描かれている。とても涼しげな器で夏に使いたくなる。

器 染付 飯茶碗 五客組 径10cm 高8cm(蓋込み 本体5,5cm)

作 富本 憲吉 (瀬戸、品野辺りの窯にて)

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No.190 梅酒ソーダ

 暑い日の夕方、氷を入れてソーダ水で割った梅酒ソーダを飲んでホッとする。何年も前に凝って梅酒を作っていた時期があった。焼酎の梅酒の他に、ブランデーの梅酒にもはまっていて、2種類作っていたのだけれど、長い間仕舞ったままだった。それを梅酒のテレビCMを見ていて、ふと思い出したのだ。多分、もう10年は経っているだろう。味がまろやかになっていてとても美味しい。

このグラスは、随分以前から我が家に有る。とても薄く、開いた口周りに金が載って、模様が浮き出している。メーカーの名はどこにも入っていないけれど、ヨーロッパで作られたものには違いない。いつ頃の時代のものかも不明だけれど、口元の金は綺麗に残っていて、大事に使われて来たのだろうと思う。

 食器は、使ったら必ず洗う。どんな器も、ただ盛られた料理を食べたり飲んだりして楽しむだけではなく、また次に使う時まで、洗って、納めて、の繰り返しだ。私は、後片付けは決して好きではないけれど、器を洗う作業は、盛るのと同じくらい大事にしている。手に取って、裏返して、重みや厚さを感じながらくまなく撫で、触る。洗う作業を通して、文字通り器と触れ合う事で器への理解が深まって来た、と思う。

このグラスは、薄いから洗う時は力加減に気を付ける。そして気が付いたのは、底面が真平。濡れたシンクに置くと、その僅かな傾斜でグラスが滑ってしまうほど滑らかだ。毎回、洗うたびにとても気を使う。グラスがツッと滑ると、雪道で自分が転びそうになったような気分でどきっとする。面倒と言えば面倒だけれど、人間のように “あなたはそう言う性格だったわね” と思いながら接すると、器との付き合いも楽しくなる。

器 金模様のグラス  径7cm 高11,2cm

作 不明

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No.189 鮎の唐揚げ

 今年も、岐阜の釣り人さんから鮎をいただいた。魚屋に並ぶ大きさの鮎は塩焼きで。稚鮎よりは大きく、わかさぎ程の大きさに育った鮎は唐揚げにしてみた。丸ごと骨も食べられるくらいにゆっくり揚げた。熱々を口に入れると、独特の青い芳しい香りが鼻に抜ける。添えたかぼすは、九州の親戚から送られたもの。各地の自然の恵みをありがたくいただいた。

 揚げてあるのに、生きて水の中を群れて泳いでいるかのような鮎の姿が美しい。平たい皿は備前焼のたたき皿。たたき、とは文字通り粘土を平面に叩いて伸ばして成型する手法の事。何の上で伸ばすのか、でその表面感が皿に反映される。この皿には木の模様が浮かび上がっている。何の木だろうか、太く浮き出す節の渦巻と年輪。土と木と窯の火を操って、人の手によって作り出された皿だ。

鋭く切り取られた力強い皿の縁。全体に木の模様が浮かび上がり、桟切(さんぎり)と呼ばれる灰色と火襷が何とも美しく、絵のように見飽きない。この皿は、岡山県備前焼の名門窯、金重のものと思われる。が、人間国宝にもなった 金重 陶陽 の作かどうかは不明。火や灰の加減で、意図した通りに焼き上がるとは限らないこの備前焼も、ある意味、土と火の自然の恵みかもしれない。

器 備前焼 たたき角皿 径21x21cm 高2cm

作 備前焼 金重窯