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No.37 太刀魚のムニエル

 九州の親戚から、かぼすを送ってもらった。料理に添える事で風味と栄養価も上がる柑橘類は、無くても支障はないけれど有ると盛り付けも気分もアップする。嬉しいことに私が好きなのを覚えていて、毎年季節になると産地から送ってくれる。だから、この季節はかぼすが日々食卓に登場する。魚屋さんの店先で銀色に光る太刀魚を見つけ、かぼすを添えたムニエルが浮かんだ。皮が薄く傷が付きやすい太刀魚は、その皮目の輝きと傷が無いことが見分けるコツ。塩焼きもさっぱりして良いけれど、バターの風味がふっくらして淡白な白身を引き立てるムニエルが一番好きだ。

秋の気配が近づいて、きのこの季節。少しのにんにくとオリーブオイルでソテーしたきのこと共に、少し秋を感じる盛り付けにした。つもりだったのだけれど、この日、青みのアクセントに使ったのは夏の代表野菜ゴーヤ。たまたま、いただき物で手元に有ったゴーヤをチップスにしてみたら、ゴーヤ特有の強い苦味が緩和され、カリカリの食感が良く、そして輪切りにしたフォルムもおもしろい。いつもなら、軽いサラダリーフやブロッコリ、食感の良いスナップエンドウを付け合わせるところだ。鮮やかな緑が有ると盛り合わせが生き生きと引き立つのだけれど、今日は主役の一員、かぼすも引き立てたいし、揚げた事で少し色が落ち着いたゴーヤチップスを使ってみた。でも、よく見ると夏から秋へ季節の移り変わりをそのまま盛り合わせたひと皿になったようだ。

 使った皿は、明末清初の時代の古染め付け。肉や魚料理によく使っている。揃いではなく一枚しかないが、このサイズの単品の古染めの皿は他にも有るので、組み合わせて使っている。

この皿は桃の実の形を模していて、縁に回した鉄釉がその輪郭を引き立て、皿全体を引き締まった表情にしている。青みを帯びた白磁に大きく実った桃の実が描かれているが、その構図と余白は、鉄釉の皿の縁で括られた額の中の絵のようだ。

器 古染付 皿  径20cm 高4cm

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No.36 西瓜

夏を代表する果物と言えば西瓜。ここ数年、夏になると西瓜が楽しみのひとつになっている。特に今年はほぼ毎日食べているので、買い物が大変だ。昔はカットして小分けの単位での販売など無かったから、大きな西瓜を丸ごとひとつ買って、お風呂に水を張って冷やしたりしたものだった。今はラップが進化して、カットして販売しているので冷蔵庫事情的にも助かる。

お風呂上がりの冷たい西瓜は、果汁が身体に吸い込まれて渇きを癒し、身体の熱も冷ましてくれる。人と旬の食材の理に適った関係には深く納得させられる。水分が豊富でカリウムも有って、というのは以前から知っていた。が、改めて調べてみると利尿作用があり、美容にも、ダイエットにも良いのだとか。以前見たテレビ番組で取材していた西瓜農家さんは、赤や黄の果肉だけでなく、表面の皮だけ取って白い果肉も捨てることなく食すと知った。瓜の一種だけあって浅漬けにすると美味しいそうだ。

 日本ではあまり見かけないが、東南アジアでは西瓜はそのまま食べるのではなく、絞ってジュースにして飲むのが一般的だ。昔、仕事でよく行っていた香港では、現地スタッフはいつもウォーターメロンジュースを飲んでいた。個人的には、旅行で行ったバンコクのマンダリンオリエンタルホテルで飲んだウォーターメロンジュースが最も美味しかった。フルーツ天国のタイだけあって、このホテルの朝食ビュッフェには、フレッシュフルーツジュースが毎日20種類位サーバーに入って並んでいた。3泊して毎日3種類ずつ飲んだけれど、全部はとてもじゃないが制覇出来なかった。お料理も美味しいし、ジュースも欲張り、連日朝から食べ過ぎだった。このフレッシュジュースを飲むために、またいつか是非、訪れたいと思っている。

今年の夏は忙しく動き回ることが多かったが、7月、8月の暑さを乗り切ることが出来たのは西瓜のおかげか、と改めて実感する。西瓜もまだ暫くは出回っているので、暑い間はその甘い果汁と効能に助けてもらおう。

改めて西瓜を盛る器は、と考えると自分の中でこれが正解、と思える組み合わせが浮かばない。夏だし目にも涼しげに、と思ってラリックのガラスの皿に盛ってみた。透明、無色のシンプルな皿。いつもはカルパッチョなどに使っているけれど、これはこれで悪くはないかなあ。と、まだ思い悩んでいる。

器 ルネ ラリック皿  径 22cm

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No.35. 茄子の揚げ浸し

 少し前になるが夏は茄子と胡瓜、トマトさえ有れば充分、と思っていた時期がある。茄子はインドが原産のナス科ナス属の植物で世界中で栽培されているらしい。茄子という野菜は、和食はもちろん、中華にもイタリアンにもレシピが豊富で飽きない野菜だ。オリーブオイルとガーリック、トマトに茄子を加えれば、そしてそこにバジルか唐辛子でも有れば美味しいパスタソースになる。中華でもイタリアンでも、茄子を使って美味しい料理が多いのは、オイルとの相性が良いからだろう。インド原産と聞いて、カレーはもちろんトルコやタイでもよく使われるのも納得がいく。料理や季節で使い分けるほど品種の多い野菜はそう多くはないのではないだろうか。

加熱しないでサラダ感覚で美味しい、大阪泉州特産の水茄子も、最近はこの季節なら関東でも手軽に手に入るようになった。和食では漬物や焼きナス、味噌汁、など油を使わず淡白にいただくメニューも多い。とは言え、やっぱり油で揚げた天ぷらや揚げ茄子の美味しさはピカイチ。暑い夏には、早い時間に作って、よく冷やしておいた揚げ茄子がとても美味しい。ここでおろし生姜は欠かせない存在だ。アジアの料理で生姜はよく使われるが、生でおろして薬味としていただくのは日本だけかもしれない。

この染付けの小鉢は初代 清風与平(1803〜1863)。加賀の武家の家に生まれ、11歳の頃京に出て仁阿弥道八の元で陶芸を学び20代半ばで五条に窯を開いたそうで、師の道八から受け継いだ染付は評価が高い。この小鉢もしっかりした呉須の色、しっかりした筆使いで力強さを感じる。私は5代与平の力の抜けた作風も大好きだが(No.25 の回で使用)、この初代の染付けには小さい器ながら迫力を感じる。

器 染付 小鉢 径13,5cm 高6,5cm

作 初代 清風与平 

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No.34 カルピス

 夏の暑く晴れた日に飲む冷たいカルピスは、どこか懐かしく、ほっとする美味しさだ。原液を水か炭酸で薄めるのも、好みの濃さに調節できる合理性が有る。予めそのまま飲める濃さに作られたペットボトル飲料が発売された時は、その企業戦略になるほど、と思ったけれど家で飲むならこちらが良い。私は濃く作って、飲むうちに氷が溶けて薄まっても最後まで味がしっかりしているのが好きだ。

京都のお店で、このコップの作者で現在もご活躍のガラス作家、江波冨士子さんのガラスコップに初めて出会った時、私はこれでカルピスを飲みたい、と思った。それも同じ鯛のモチーフのものだった。あいにく、そのコップは既に行き先が決まっていたので、そこに有った江波さんの他の作品を見せていただいた。草花のモチーフのものなど、どれも素敵だったのだが、私はどうにもその鯛が気に入っていた。

そうは言っても、とても手の掛かる技法で作られているので、すぐに次がある訳ではない。お店にお願いして作っていただくように注文した。それから半年?いや一年、一年半くらいが経った頃、出来ました、と連絡を頂いた。

その時にいただいたのが、もう一つの私が一目惚れしたコップだ。この写真で言うと、中位の大きさの鯛が全面に泳いでいるもので、その後暫くしてご縁があって写真のコップもいただく事が出来た。そして今、その2つのコップが私の手元に在る。

このコップ、ムリーニという細工の手法で作られている。江波さんのネットの連載『一粒のムリーニから』の受け売りだ。古くはローマ時代 (材料と詳しい手法はよく解っていない) に作られていたというムリーニが、19世紀のルネッサンスの影響を受け、ベネチアのガラス職人が再現しようと試みたのだそうだ。今もイタリアで受け継がれている手法や作風は、江波さんが生み出した独自のものとは異なっていて、彼女がガラスを学んだアメリカにも、イタリアにも同じものは無いらしい。

細かいモチーフ模様のガラス片を並べて、熱を加えて一枚の面に作り変える。ひと言で言うとそういう手法だそうだが、言うのは簡単ながら、とんでもない手間と高度な技術の成せる技かと推測する。

器 鯛 ガラスコップ 径8cm 高9,3cm

作 江波 冨士子

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No.33 人参のラペ

 子供の頃は好き嫌いが多く、人参もそのひとつだった。給食では高い頻度で登場するので、苦労した思い出がある。火を通さない人参は青臭さも有って特に敬遠していたが、今は生でも煮てもとても美味しくいただくようになった。

ラペはフランス語で、文字通り千切りとか細切りを意味する単語だそうだ。細い千切りにした人参に軽く塩をまぶし、少し置いて滲み出した水分をしっかり搾ると、人参のくさみが取れ、ほんのり塩の下味も付く。私はこれにワインビネガーとオリーブオイル、蜂蜜と塩胡椒を和えたドレッシングでマリネする。これだけでもシンプルで充分美味しいけれど、干し葡萄とオレンジを加えると、それぞれの甘味と酸味、香りが加わって深みのあるワンランク上の味になる。トッピングは軽くローストした胡桃を砕いたもの。ナッツの食感と香ばしさで、さらに味に変化が加わる。

作りたてより一晩置いた方が、干し葡萄の甘味、オレンジの酸味が全体に回って一体感が出て旨味が増す。少し多めに作って、常備菜として数日楽しむ事が多い。カフェ風に、大きい皿に盛合わせる一品としても映えるメニューだ。

器はスージー クーパー(Susie Cooper)。 No.9 の回で使った皿と同じシリーズの絵柄のサラダボウル。カラフルな色使いの器で、人参のオレンジ色と重なるけれど、夏の暑い陽射しに負けないビタミンカラーに元気を貰える気がする。

器 スージー クーパー サラダボウル 径22cm 高5,5cm

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No.32 鰯の梅煮

 もう数十年前だろうか、まだまだ料理のレパートリーが少なかった頃、料理上手で知られた向田邦子さんの本を見て作ったのが最初だったと記憶している。背の青い魚は大好きだ。今の時期、魚屋さんの店先にザルに盛った鰯がよく出ていて、お手頃に手に入る。もちろん塩焼きも美味しいけれど、新鮮なうちに料理して作り置き出来る煮魚は便利なメニューだ。この蒸し暑い時期、梅干しで日持ち効果とクエン酸で疲労回復、ぴったりな料理ではないだろうか。

 盛ったのは、波と魚、海藻が色絵で描かれた荒川豊蔵の平鉢。梅干しの赤が、赤絵の色とも映えて美味しそうだ。だが、この涼やかで伸び伸びとした図柄は、器に水を張っただけで眺めても、金魚鉢のように楽しめるかもしれないし、この季節なら氷を浮かべて素麺も良いと思う。季節に合わせてメニューと器をコーディネートする、日本の食文化の楽しみ方は奥が深い。

器 赤絵魚の図鉢 径22cm 高6cm

作 荒川 豊蔵

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No.31 蓮根餅

 笹の葉に包まれた蓮根餅。蓮根の澱粉と和三盆で作られた生菓子で、舌に乗せるとすっと消えていくまろやかな甘さ、葛や寒天とは違った独特の舌触りで、夏によく冷やしていただくととても美味しい。深い緑の笹の葉に包まれた姿もとても涼しげで、見た目でも汗が引く。薄茶でいただくのも勿論美味しいけれど、真夏の暑い日なら冷たいお煎茶が欲しくなる。

 この涼しげなお菓子をどんな器に盛ろうか。色々考えて選んだのは備前焼の兜鉢。軽く霧を吹くと、良い感じに笹の葉の緑も冴える。土の肌と色、緋襷のアクセントが備前焼の魅力だが重い器が多い。しかしこの鉢は備前焼にしてはかなり薄い作りで、見た目も軽やかだ。

広くゆったりとした見込みのこの兜鉢は、金重陶陽(1896〜1967)のもの。明治29年に岡山県に生まれ、備前焼の陶工として初の人間国宝に選ばれた。江戸中期以降、伊万里焼や九谷焼に押されて人気を失っていた備前焼を再興された中興の祖と称される名工だ。

器 備前焼兜鉢 径28,5cm 高6cm

作 金重陶陽

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No.30 ガスパチョ

長く仕事をしていたが、しばらく前に退社。その後アルバイトで4年ほどスペイン料理のデリに勤めた経験がある。スペイン料理で代表的なパエリアやアヒージョなどを売っていた。旬の素材を使ったパエリアや、季節に合わせてメニューも入れ替わる。そこで覚えたのが、スペイン料理の夏の定番、ガスパチョだ。元はアンダルシア地方の発祥で、ガスパチョ(gazpacho)の語源はアラビア語で『びしょびしょしたパン』だと言う。確かにレシピには少量のパンが入る。これが少しのとろみの効果を加えるのだろうか。ガスパチョの初めはスープに浸かりっぱなしのパンをそのまま混ぜてしまった、とか言う、日本の納豆のようなエピソードが有ったりして。と考えると楽しい。

 それまでに、そしてその後もガスパチョは度々レストランなどでいただく機会が有ったが、私はこのデリのガスパチョが一番気に入っている。残念ながら、その店はもう閉店してしまったので、それからは夏になると覚えたレシピで自分で作る。販売する訳ではなく、自分でいただくだけなので許して貰えると思う。トマトの他にセロリ、胡瓜、ピーマンなど数種の野菜にワインビネガーやオリーブオイル、香辛料を使って、加熱はしないのでビタミンCもたっぷり。飲むサラダで夏には最適のご馳走だ。トッピングは、細かく刻んだ野菜と最後にオリーブオイルをひと回し。

 グラスは、ルネ ラリックのグラスでその名も『NIPPON』。1930年に作られたデザインだそうだ。どの辺りが日本なのかしら、と考えてしまうけれど。

器 ルネ ラリック NIPPONグラス 径7,5cm 高9cm

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No.29 杏のシロップ煮

 梅雨も半ばになると杏が出回る季節。5年くらい前からだろうか杏を見つけるとシロップ煮を作るようになった。ちょうど梅雨の蒸し暑さから梅雨明けし、真夏に向かって身体がバランスを崩す頃、これを食べると元気になる。かなり酸味のある杏だが、よく冷えたシロップ煮をいただくと気分もスッキリ、身体もシャッキリする。杏の柔らかい果肉を崩さないように扱うのは気を使う作業だが、形の崩れたものはそのままジャムにする。残ったシロップは炭酸水で割って飲むと杏の香りがして、これもまた美味しく、夏の楽しみだ。

 さて。杏は何に盛ろうか。ガラスのフルーツ皿や小鉢でも良いけれど、今日は古染めの皿を使った。呉須絵の古染めにフルーツは意外に良く映る。縁が少し立ち上がったこの形は古染めではあまり見ない形だ。この大きさだと、いわゆる なます皿 のように縁が緩やかに持ち上がる形がとても多いのだが、この皿は見込みは水平で、縁は抱えるのではなくむしろ反るように立ち上がっている。

器 古染付皿 径14cm 高2,5cm

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No. 28 金平糖

 織姫と牽牛。年に一度、七月七日の夜に会うことが出来ると言われる七夕の伝説。子供の頃は笹に願い事を記した短冊を下げて、叶うように願ったものだった。

元々は中国で前漢の頃、采女が七月七日に七針に糸を通す『乞巧奠』(きこうでん)と言う風習が記された文献が有り、これが七夕の起源とされる。その後の南北朝時代の『荊楚歳時記』には、七月七日は織姫と牽牛が会合する夜である、と有りその夜には女性達が7本の針の穴に美しい彩りの糸を通し、針仕事の上達を願った、と記されているそうだ。日本には、奈良時代にこの風習が伝わり、日本古来の『棚機津女』(たなばたつめ)の伝説と合わさって宮中や貴族の間で行事として行われたらしい。その後、江戸時代になって手習い事の願掛けとして庶民にも広がったとされる。

 星に見立てた金平糖を盛ったのは、刷毛目のぐい呑みで、高橋道八のもの。江戸後期から続く京焼の窯元で、道八の前に代々それぞれの号が付く。このぐい呑みの印は 「道八」 となっていて2代 仁阿弥 道八か、3代 華中亭 道八かは定かでない。口が広く涼やかな刷毛目は、これからの季節にちょうど良さそうだ。

器 刷毛目ぐい呑み 径7,5cm 高2,5cm

作 高橋 道八