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No.202 秋の吹寄せ

 出掛けたついでに、老舗料亭のスイートポテトを買って来た。たまたま頂いた老舗和菓子店のお干菓子と一緒に、楽の輪花の皿に盛り合わせたら、皿の中に秋の風景が出来上がった。焼が甘く、陶器としては脆く壊れやすい楽焼は、使うのにとても気を使う。水も滲みやすいから、盛る物に含まれる水分や脂分も染みになるので、使う前には予め水にいれる。

 このスイートポテトは、洋菓子とは違ってバターや乳成分が使われていないので、薩摩芋の旨みがそのまま。上に散らした黒胡麻も相性良く、風味が際立つ。繊細な季節のお干菓子は、自分では滅多に買う事はないけれど、自然を身近に取り込む”和”を楽しんだ。

菊の輪花の皿は、楽焼 第11代 楽 吉左衛門 (慶入1817〜1902)の作。土の造形だけで色の釉薬や絵の無い皿は、暖かく寛大で、強い。寛大だから盛る楽しさを感じさせてくれる反面、盛る側の力も試されるようで、学びも多い。

器 菊型皿 五枚組 径16cm 高4cm

作 楽焼 第11代 楽 吉左衛門

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No.201 糠漬け

 糠床を作って3年半が過ぎた。母が漬物嫌いだったので、実家にいた頃は軽く塩をした浅漬けしか食べた事がなかった。働き始め、外で食事をする機会が増え、そしてお酒も頂くようになって、柴漬けや沢庵などを知った。

 糠漬けに目覚めたのはここ10年くらいの事。でも漬物屋さんの糠漬けには何故か手が出ない。先入観かも知れないが、酸っぱそう、とか塩分が強いのでは、と思ってしまう。でも食べたいなと思った時に、MUJIで糠床を見つけたのをきっかけに、自分で漬けてみることにした。何事も、特に保存食、発酵食は自分でやってみたい方だ。

昔は ”糠みそ臭い女” と言う形容は、ある意味野暮ったさや、イケてない感を現したけれど、結構今時はカッコいいかしら、なんて思っている。早速、容器を用意してつけ始めた。が、やはり塩分はかなりしっかり強めで、せっかく漬けても量が食べられない。塩分は足りなければ足すことは出来るのだけれど、多いのは困る。この時ちょうど季節は5月。いつも頂く筍を茹でるのに、お米屋さんから米糠を買っていた。そんな少量を売ってくれる訳はなく、最低で500g。この際、余る米糠で自分で糠床を作ってみようと思い立った。

 塩と水、栄養分となる野菜くずや昆布、鷹の爪などを入れ、3週間ほど手入れをしながら置くと、糠床が出来上がる。最初は塩味に角があるけれど、漬けながら時間が糠を育ててくれる。まだまだ3年半だけれど、末長く育てて行けたら楽しい。

 この呉須赤絵の鉢は最近度々登場している、永楽 妙全の作。第14代 永楽 善五郎(得全)の妻で、前回No.200の回の和全の息子の嫁、という関係になる。浅めで小振りの鉢は、見込みが広く感じられて大らか。緑釉が鮮やかで白磁の肌によく映える。この鉢は、金泥を使っていないので、洗う時にもそれほど気を使わずに使えるのが良い所だ。たっぷり食べたい香の物を盛る時にも使いやすい。

器 呉須赤絵鉢  径15cm 高6cm

作 永楽窯 永楽 妙全

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No.200 秋の煮物

 長い夏から急に紅葉の季節に移り変わる。のんびり楽しんでいる時間は無いけれど、短い秋を味わいたい、と永楽の手鉢に煮物を盛った。鶏肉と里芋、蓮根、人参、椎茸といんげん豆。見様見真似で人参を紅葉に切って秋の風情に見立てた。

 この鉢は、永楽窯 第12代 永楽 善五郎 (和全 1823〜1896) の作。20歳で12代 善五郎を襲名し、1871年48歳で隠居、息子の得全に善五郎を譲り、その後は善一郎の名で作陶を続けたそうだ。

緩い角形の鉢は懐が深く、抱えるように縁が立ち上がり、その縁も湾曲していてゆったりした印象。手が無くても充分素敵だろうと思う。けれど、この手がつく事で引き締まった印象になり、器の外側と内側のコントラストが一層際立っているように感じる。

鉄釉の、渋く枯れた色合いの外見に対して、色の掛かっていない見込みは所々ピンク色の“御本”(ごほん)が浮き上がり、優しい。その見込みの、ピンク色の底に満開の白菊が描かれている。白の釉薬が盛り上がって、立体的な菊の花が華やかで愛らしい。器を覗き込んだ時に、ふと頬が緩む光景だ。

 このブログも、お陰様で200回を迎えた。我ながらよく続いたものだと感慨深い。日々素敵な器に触れ、料理を盛って楽しむ事の出来る生活は、幸せに思う。これからも細く長く、続けて行きたい。

器 仁清写 菊手鉢 径19×17,5cm 高9cm(手込み14,5cm)

作 永楽窯 第12代 永楽 善五郎(和全)

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No.199 常備菜

 この、磁器の小皿の作者は 八田 円斎 (はった えんさい 1862〜1936)。 元々は古美術商だったのが、縁有って、東京 戸越銀座の窯を受け継ぎ、八田窯を開く。裏千家13代 円能斎の“円”の字を賜って円斎と号した。仁清写を得意とし、どちらかと言うと陶器の作品が多い作家さんなのだけれど、この古染写もとても繊細。磁器の器も上手く作る作家さんだ。個性の強い器ではないけれど、つい使いたくなる。

少し縁が高くなったこの小皿は、副菜や酒のつまみを盛るのにぴったり。大きさも形も使いやすく、とても薄い。軽い印象で、個性が強くない分、複数並べても『くどさ』が無く、並べて使ってみたくなった。作り置きに更に作り足して、五種類の常備菜をそれぞれに盛ってみた。お酒のつまみにぴったりな盆ができた。

 盛ったのはポテトサラダ、茄子と南瓜の煮浸し、きのこのマリネ、ほうれん草のナムル、ひじきの煮物。この時期のポテトサラダは、薩摩芋と馬鈴薯とを半々くらいにして作る。後はいつも通り、茹で卵や人参、胡瓜を併せる。甘味のある薩摩芋とマヨネーズの酸味が良い感じで合わさって、ひと味違う秋の楽しみのひとつ。お馴染みの料理ばかりだけれど、気分が変わって楽しめた。

器 古染付写 笛吹人 小皿  径10cm 高3cm

作 八田窯 八田 円斎

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No.198 鶏手羽元と大根の煮物

 大根の煮物が美味しい季節になった。甘辛い出汁で、卵と鶏の手羽元をしっかり味が沁みるくらい煮込んで盛り合わせた。

 祥瑞(しょんずい)のこの鉢は、永楽窯、永楽 妙全 の作。前々回 No.196 鰯の蒲焼丼 の赤絵の鉢と同じ作者だ。祥瑞とは、スペースを線で区切って、それぞれに違う絵や幾何学模様が描き込まれた染付磁器の事。この鉢のように器の口や、あるいは胴などに、鉄釉でぐるりと細い線が入る物が多い。

呉須で細かく描かれた祥瑞は、少し格の高い磁器なので、料理も上品に、薄い色に仕上げて盛る事が多いけれど、この鉢は大振りで少し厚手。骨付きの手羽元を盛っても負けない迫力がある。

 大根と手羽元は別々に下煮をする。骨付きの肉は火を通すと生の状態では無かった血の塊などが出てくる事が有るので、下煮した後に取り除いてから調理する。下煮の前に、骨周りに少し切り込みを入れておくと食べる時に肉離れが良くて食べやすい。

味の染みた大根はお腹の中から身体を温める。汗ばむ気温から肌寒さを感じるほどの、急な季節の変化に身体が慣れるように食事にも気を使う。食欲の秋、味覚の秋は楽しみたいけれど、体感出来る爽やかな秋の季節は年々短くなっているようで残念に思う。

器 祥瑞本捻 鉢  径20cm 高10cm

作 永楽窯 永楽 善五郎(妙全)

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No.197 無花果のタルト

 出かけたついでに、お気に入りのお店でタルトを買って来た。ここの無花果のタルトは初めてだ。タルト生地のさくさく感としっとりしたカスタードクリーム、季節の無花果がたっぷり乗っていて、とても美味しい。

 タルトは、ケーキ皿のサイズでは窮屈なので、Susie Cooper (スージー クーパー) のミート皿に盛った。“ウェディングリング” と名付けられたこの柄は、リングの名の通り “輪” が描かれている。皿の見込みからへりにかけて、僅かな段差の傾斜部分に印象的なイエローが入っている。縁に向かって透明感のある淡いグリーンが、そしてその外側に淡いイエローがグラデーションで。グリーンの輪は2本分の幅で、その中央は重なる事によって色濃く現れ、ラインが描かれているかのように見える。色の関係性として、色相環で近い位置にあるイエローとグリーンが、黄味がかった素地につけられているのでコントラストは柔らかく、温かみがあってとても使い。

 この “ウェディングリング” の柄は、比較的長い期間作られていたようだ。調べてみるとこの皿は、Susie Cooper のバックスタンプから、1924〜1931に作られた物と判る。同じデザインの色違いなど、その後の1932年から60年代まで使われたバックスタンプの物もあるので、人気のあったデザインなのだろう。

器 ウェディングリング ミート皿  径22,5cm 高1,8cm

作 Susie Cooper (1924~1931)

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No.196 鰯の蒲焼丼

 時々食べたくなるこの丼。青魚は好きでお刺身や塩焼き、煮魚など作って良く食べる。”蒲焼”と言えば鰻。もちろん鰻も大好きだけれど、栄養豊富であるが故に高コレステロール。その点、鰯だと身体にもお財布にも優しくて、良い事ばかりだ。

 魚屋の店頭で、鰯をざるに盛って売っているとつい買ってしまう。当日は塩焼きにしたとして、すぐに食べ切れない分は、その日のうちに梅煮や味噌煮などにしておく。

この蒲焼は、初日に食べ切れなかった塩焼きや、梅煮にしておいた鰯に手を加えたもの。中骨などの気になる骨を取って、梅煮ならその煮たつゆで、塩焼きの場合は、醤油や砂糖、味醂などを合わせたつゆで煮て、つゆを煮詰めればそれで完成。調理法として厳密には ”焼” ではないけれど、名付けるならやはり蒲焼丼がわかりやすい。

 熱いご飯に白胡麻、焼き海苔を散らし、鰯を乗せて青葱を盛る、大好きな味。今日は、永楽 妙全(1852-1927)の赤絵の鉢に盛った。第14代 永楽 善五郎 (得全) の妻で、得全亡き後、次の15代 善五郎(正全)が襲名するまでの期間、永楽窯を支えた女性。代々の永楽の中でも大好きな作家で、これまでに何度も登場している。女性だから、と決めつけるつもりはないけれど、妙全の作品にはしなやかな柔らかさと華やかさを感じる。この鉢は白磁のすっきりした白の肌に、赤と緑が迷いの無い筆で描かれ、その上に載った金泥に華やかな魅力を感じる。

器 呉須写 赤絵鉢  径15,5cm 高8cm

作 永楽窯 永楽 妙全

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No.195 お月見プレート

まだまだ残暑厳しく、猛暑日の最遅記録更新中だけれど、もうすぐそこまで秋はやって来ているらしい。気がつくと夕暮れが早く、陽が傾くと涼しい風が吹いて来る。青空の残る空に欠け始めた月。冷えたワインで月を眺めながらいただこうと、料理を盛り合わせた。

 箱も銘も無く、窯も作者も判らない。すすきのような草が彫られた鼠志野の角皿。彫られた窪みに釉薬が溜まり、白く浮き出している。叩きで作られた平たい皿は、四方が少し持ち上がり、そのごつごつした縁の質感がとても力強い。大きな窯傷が2本、金継ぎで埋められていて、近頃の気候のせいか、稲光のようにも見えたりする。中々使う機会がないのだけれど、心惹かれる皿だ。

 盛り合わせたのは、いちじくと生ハム、蛸のカルパッチョ、マッシュルームのブルスケッタ。ブルスケッタは、いつもトマトで作ることが多いけれど、思い付きでマッシュルームを使ってみたら思った以上の美味しさ。これから我が家の定番メニューに加わりそうだ。このブルスケッタは、ブラウンマッシュルームを薄切りにして、塩とオリーブオイルをまぶしておく。バケットににんにく風味のオリーブオイルを少し塗って、マッシュルームを載せ、おろしたパルミジャーノチーズをかけてオープントースターで焼くだけ。マッシュルームは、もっと山盛りにしても良さそうだ。好きな料理に加えて、新しいメニューも加わり、美味しい時間を楽しんだ。

器 鼠志野 角皿  径25x28cm 高3cm

作 不明

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No.194 お酒

今年の中秋の名月は9月17日だそうだ。もうすぐなのに真夏の暑さが続いていて、秋はまだ遠い。とは言っても、確かに朝夕は少し秋の気配が漂って、虫の声が聞こえたりする。少し身体を労って、温燗のお酒にした。

澄んだ濃紺の空と、明るく輝く月の黄色を思い浮かべるような色使い。この猪口は 初代 川瀬 竹春(1984-1983)のもの。オランダの陶器の写しで、乳白色の土に呉須と黄、そして鉄釉の茶で色が付けられている。

 竹春は中国陶器の写しや赤絵、染付、祥瑞などが多く、好きな作家さんで、これまでに何度も登場しているけれど、オランダ写しは我が家にこれひとつ。形や模様が特徴的で西洋を感じさせる訳ではなく、中国や日本の陶器に有っても不思議ではない意匠なのに、西洋を感じさせるのは何故だろう。華奢な質感と色使いのせいかしら、と思ったりする。

器 オランダ写 猪口  径5,8cm 高5cm

作 古余呂技窯 初代 川瀬 竹春

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No.193 パプリカのマリネ

 色が鮮やかなパプリカ。昔は粉状の瓶詰めスパイスと、筒井 康隆の小説でしかその名を知らなかった。野菜の種類はここ数十年でどれだけ増えたのだろう。

 パプリカの原産地はハンガリーらしい。原種はコロンブスがアメリカ大陸から持ち帰った様々な唐辛子の種を品種改良してハンガリーで作り出された野菜で、スペインではピメントと呼ばれる、と。ピメントってグリーンオリーブの実の、種を除いた穴に詰められている、あれだ。色も味もパプリカそのものなのに、今までなぜ気が付かなかったのだろう。

調べてみたらパプリカはピーマンと同じナス科唐辛子属の野菜で、ピーマンとは品種違い。肉厚でジューシー、甘味のあるパプリカは、ピーマンと比べるとビタミンCは約2倍、カロテンは約7倍あるそうだ。スープや炒め物、加熱しても色が変わらず鮮やかで、とても使いやすい。因みにスペイン料理でよく使うスパイスのパプリカは、実の皮のみを乾燥させて粉末状にしたものだそうだ。

 昔、アルバイトで勤めていたスペイン料理の店で、夏野菜のマリネと言うメニューがあった。茄子と2色のパプリカをオリーブオイルを塗ってオーブンで加熱。皮を剥いて食べやすい大きさに切り分け、マリネ液に漬け込む。残暑のこの時期、酸味のあるさっぱりした料理でちょうど良い、と思いだした。茄子は無かったのでブロッコリーで彩りを加えた。

 パプリカの赤と黄を見て、大好きな小皿に盛り付けた。太極紋が中央に、その周りに八卦。古代中国から伝わる ”当たるも八卦、当たらぬもの八卦” が描かれている。土も釉薬も粗く、上手(じょうて)ではないけれど、少し前の時代の中国の色絵で、小さいながら存在感のある皿だ。高い高台と、八角形のバランス、厚く掛かった釉薬と、その絵の素朴さがとてもバランスが良い。つい使いたくなる一枚だ。

器 色絵 対極紋 八角小皿 径11cm 高3,5cm

作 中国