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No.35. 茄子の揚げ浸し

 少し前になるが夏は茄子と胡瓜、トマトさえ有れば充分、と思っていた時期がある。茄子はインドが原産のナス科ナス属の植物で世界中で栽培されているらしい。茄子という野菜は、和食はもちろん、中華にもイタリアンにもレシピが豊富で飽きない野菜だ。オリーブオイルとガーリック、トマトに茄子を加えれば、そしてそこにバジルか唐辛子でも有れば美味しいパスタソースになる。中華でもイタリアンでも、茄子を使って美味しい料理が多いのは、オイルとの相性が良いからだろう。インド原産と聞いて、カレーはもちろんトルコやタイでもよく使われるのも納得がいく。料理や季節で使い分けるほど品種の多い野菜はそう多くはないのではないだろうか。

加熱しないでサラダ感覚で美味しい、大阪泉州特産の水茄子も、最近はこの季節なら関東でも手軽に手に入るようになった。和食では漬物や焼きナス、味噌汁、など油を使わず淡白にいただくメニューも多い。とは言え、やっぱり油で揚げた天ぷらや揚げ茄子の美味しさはピカイチ。暑い夏には、早い時間に作って、よく冷やしておいた揚げ茄子がとても美味しい。ここでおろし生姜は欠かせない存在だ。アジアの料理で生姜はよく使われるが、生でおろして薬味としていただくのは日本だけかもしれない。

この染付けの小鉢は初代 清風与平(1803〜1863)。加賀の武家の家に生まれ、11歳の頃京に出て仁阿弥道八の元で陶芸を学び20代半ばで五条に窯を開いたそうで、師の道八から受け継いだ染付は評価が高い。この小鉢もしっかりした呉須の色、しっかりした筆使いで力強さを感じる。私は5代与平の力の抜けた作風も大好きだが(No.25 の回で使用)、この初代の染付けには小さい器ながら迫力を感じる。

器 染付 小鉢 径13,5cm 高6,5cm

作 初代 清風与平 

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No.34 カルピス

 夏の暑く晴れた日に飲む冷たいカルピスは、どこか懐かしく、ほっとする美味しさだ。原液を水か炭酸で薄めるのも、好みの濃さに調節できる合理性が有る。予めそのまま飲める濃さに作られたペットボトル飲料が発売された時は、その企業戦略になるほど、と思ったけれど家で飲むならこちらが良い。私は濃く作って、飲むうちに氷が溶けて薄まっても最後まで味がしっかりしているのが好きだ。

京都のお店で、このコップの作者で現在もご活躍のガラス作家、江波冨士子さんのガラスコップに初めて出会った時、私はこれでカルピスを飲みたい、と思った。それも同じ鯛のモチーフのものだった。あいにく、そのコップは既に行き先が決まっていたので、そこに有った江波さんの他の作品を見せていただいた。草花のモチーフのものなど、どれも素敵だったのだが、私はどうにもその鯛が気に入っていた。

そうは言っても、とても手の掛かる技法で作られているので、すぐに次がある訳ではない。お店にお願いして作っていただくように注文した。それから半年?いや一年、一年半くらいが経った頃、出来ました、と連絡を頂いた。

その時にいただいたのが、もう一つの私が一目惚れしたコップだ。この写真で言うと、中位の大きさの鯛が全面に泳いでいるもので、その後暫くしてご縁があって写真のコップもいただく事が出来た。そして今、その2つのコップが私の手元に在る。

このコップ、ムリーニという細工の手法で作られている。江波さんのネットの連載『一粒のムリーニから』の受け売りだ。古くはローマ時代 (材料と詳しい手法はよく解っていない) に作られていたというムリーニが、19世紀のルネッサンスの影響を受け、ベネチアのガラス職人が再現しようと試みたのだそうだ。今もイタリアで受け継がれている手法や作風は、江波さんが生み出した独自のものとは異なっていて、彼女がガラスを学んだアメリカにも、イタリアにも同じものは無いらしい。

細かいモチーフ模様のガラス片を並べて、熱を加えて一枚の面に作り変える。ひと言で言うとそういう手法だそうだが、言うのは簡単ながら、とんでもない手間と高度な技術の成せる技かと推測する。

器 鯛 ガラスコップ 径8cm 高9,3cm

作 江波 冨士子

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No.33 人参のラペ

 子供の頃は好き嫌いが多く、人参もそのひとつだった。給食では高い頻度で登場するので、苦労した思い出がある。火を通さない人参は青臭さも有って特に敬遠していたが、今は生でも煮てもとても美味しくいただくようになった。

ラペはフランス語で、文字通り千切りとか細切りを意味する単語だそうだ。細い千切りにした人参に軽く塩をまぶし、少し置いて滲み出した水分をしっかり搾ると、人参のくさみが取れ、ほんのり塩の下味も付く。私はこれにワインビネガーとオリーブオイル、蜂蜜と塩胡椒を和えたドレッシングでマリネする。これだけでもシンプルで充分美味しいけれど、干し葡萄とオレンジを加えると、それぞれの甘味と酸味、香りが加わって深みのあるワンランク上の味になる。トッピングは軽くローストした胡桃を砕いたもの。ナッツの食感と香ばしさで、さらに味に変化が加わる。

作りたてより一晩置いた方が、干し葡萄の甘味、オレンジの酸味が全体に回って一体感が出て旨味が増す。少し多めに作って、常備菜として数日楽しむ事が多い。カフェ風に、大きい皿に盛合わせる一品としても映えるメニューだ。

器はスージー クーパー(Susie Cooper)。 No.9 の回で使った皿と同じシリーズの絵柄のサラダボウル。カラフルな色使いの器で、人参のオレンジ色と重なるけれど、夏の暑い陽射しに負けないビタミンカラーに元気を貰える気がする。

器 スージー クーパー サラダボウル 径22cm 高5,5cm

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No.32 鰯の梅煮

 もう数十年前だろうか、まだまだ料理のレパートリーが少なかった頃、料理上手で知られた向田邦子さんの本を見て作ったのが最初だったと記憶している。背の青い魚は大好きだ。今の時期、魚屋さんの店先にザルに盛った鰯がよく出ていて、お手頃に手に入る。もちろん塩焼きも美味しいけれど、新鮮なうちに料理して作り置き出来る煮魚は便利なメニューだ。この蒸し暑い時期、梅干しで日持ち効果とクエン酸で疲労回復、ぴったりな料理ではないだろうか。

 盛ったのは、波と魚、海藻が色絵で描かれた荒川豊蔵の平鉢。梅干しの赤が、赤絵の色とも映えて美味しそうだ。だが、この涼やかで伸び伸びとした図柄は、器に水を張っただけで眺めても、金魚鉢のように楽しめるかもしれないし、この季節なら氷を浮かべて素麺も良いと思う。季節に合わせてメニューと器をコーディネートする、日本の食文化の楽しみ方は奥が深い。

器 赤絵魚の図鉢 径22cm 高6cm

作 荒川 豊蔵

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No.31 蓮根餅

 笹の葉に包まれた蓮根餅。蓮根の澱粉と和三盆で作られた生菓子で、舌に乗せるとすっと消えていくまろやかな甘さ、葛や寒天とは違った独特の舌触りで、夏によく冷やしていただくととても美味しい。深い緑の笹の葉に包まれた姿もとても涼しげで、見た目でも汗が引く。薄茶でいただくのも勿論美味しいけれど、真夏の暑い日なら冷たいお煎茶が欲しくなる。

 この涼しげなお菓子をどんな器に盛ろうか。色々考えて選んだのは備前焼の兜鉢。軽く霧を吹くと、良い感じに笹の葉の緑も冴える。土の肌と色、緋襷のアクセントが備前焼の魅力だが重い器が多い。しかしこの鉢は備前焼にしてはかなり薄い作りで、見た目も軽やかだ。

広くゆったりとした見込みのこの兜鉢は、金重陶陽(1896〜1967)のもの。明治29年に岡山県に生まれ、備前焼の陶工として初の人間国宝に選ばれた。江戸中期以降、伊万里焼や九谷焼に押されて人気を失っていた備前焼を再興された中興の祖と称される名工だ。

器 備前焼兜鉢 径28,5cm 高6cm

作 金重陶陽

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No.30 ガスパチョ

長く仕事をしていたが、しばらく前に退社。その後アルバイトで4年ほどスペイン料理のデリに勤めた経験がある。スペイン料理で代表的なパエリアやアヒージョなどを売っていた。旬の素材を使ったパエリアや、季節に合わせてメニューも入れ替わる。そこで覚えたのが、スペイン料理の夏の定番、ガスパチョだ。元はアンダルシア地方の発祥で、ガスパチョ(gazpacho)の語源はアラビア語で『びしょびしょしたパン』だと言う。確かにレシピには少量のパンが入る。これが少しのとろみの効果を加えるのだろうか。ガスパチョの初めはスープに浸かりっぱなしのパンをそのまま混ぜてしまった、とか言う、日本の納豆のようなエピソードが有ったりして。と考えると楽しい。

 それまでに、そしてその後もガスパチョは度々レストランなどでいただく機会が有ったが、私はこのデリのガスパチョが一番気に入っている。残念ながら、その店はもう閉店してしまったので、それからは夏になると覚えたレシピで自分で作る。販売する訳ではなく、自分でいただくだけなので許して貰えると思う。トマトの他にセロリ、胡瓜、ピーマンなど数種の野菜にワインビネガーやオリーブオイル、香辛料を使って、加熱はしないのでビタミンCもたっぷり。飲むサラダで夏には最適のご馳走だ。トッピングは、細かく刻んだ野菜と最後にオリーブオイルをひと回し。

 グラスは、ルネ ラリックのグラスでその名も『NIPPON』。1930年に作られたデザインだそうだ。どの辺りが日本なのかしら、と考えてしまうけれど。

器 ルネ ラリック NIPPONグラス 径7,5cm 高9cm

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No.29 杏のシロップ煮

 梅雨も半ばになると杏が出回る季節。5年くらい前からだろうか杏を見つけるとシロップ煮を作るようになった。ちょうど梅雨の蒸し暑さから梅雨明けし、真夏に向かって身体がバランスを崩す頃、これを食べると元気になる。かなり酸味のある杏だが、よく冷えたシロップ煮をいただくと気分もスッキリ、身体もシャッキリする。杏の柔らかい果肉を崩さないように扱うのは気を使う作業だが、形の崩れたものはそのままジャムにする。残ったシロップは炭酸水で割って飲むと杏の香りがして、これもまた美味しく、夏の楽しみだ。

 さて。杏は何に盛ろうか。ガラスのフルーツ皿や小鉢でも良いけれど、今日は古染めの皿を使った。呉須絵の古染めにフルーツは意外に良く映る。縁が少し立ち上がったこの形は古染めではあまり見ない形だ。この大きさだと、いわゆる なます皿 のように縁が緩やかに持ち上がる形がとても多いのだが、この皿は見込みは水平で、縁は抱えるのではなくむしろ反るように立ち上がっている。

器 古染付皿 径14cm 高2,5cm

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No. 28 金平糖

 織姫と牽牛。年に一度、七月七日の夜に会うことが出来ると言われる七夕の伝説。子供の頃は笹に願い事を記した短冊を下げて、叶うように願ったものだった。

元々は中国で前漢の頃、采女が七月七日に七針に糸を通す『乞巧奠』(きこうでん)と言う風習が記された文献が有り、これが七夕の起源とされる。その後の南北朝時代の『荊楚歳時記』には、七月七日は織姫と牽牛が会合する夜である、と有りその夜には女性達が7本の針の穴に美しい彩りの糸を通し、針仕事の上達を願った、と記されているそうだ。日本には、奈良時代にこの風習が伝わり、日本古来の『棚機津女』(たなばたつめ)の伝説と合わさって宮中や貴族の間で行事として行われたらしい。その後、江戸時代になって手習い事の願掛けとして庶民にも広がったとされる。

 星に見立てた金平糖を盛ったのは、刷毛目のぐい呑みで、高橋道八のもの。江戸後期から続く京焼の窯元で、道八の前に代々それぞれの号が付く。このぐい呑みの印は 「道八」 となっていて2代 仁阿弥 道八か、3代 華中亭 道八かは定かでない。口が広く涼やかな刷毛目は、これからの季節にちょうど良さそうだ。

器 刷毛目ぐい呑み 径7,5cm 高2,5cm

作 高橋 道八

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No.27 蕪の葉の胡麻和え

 野辺地の蕪の葉の胡麻和え。以前、No.21 ルネ ラリックの皿の回で野辺地の蕪とトマトのサラダを盛った。これはその時の文中にも書いた、我が家の定番となっている料理だ。この蕪は、白くて瑞々しい蕪本体に負けず劣らず、葉と茎も立派で美味しく小松菜やほうれん草などと同じように、葉物野菜の料理に使える。胡麻和えはもちろん、お浸しや味噌汁、煮浸しにも。蕪と軽く湯がいた茎と葉で浅漬けにしても美味しい。蕪を買って葉物野菜も付いてくるのでレパートリーも広がるしお得感も有る。

 胡麻和えは基本的に白胡麻を使っている。春菊のように香りの強い野菜の時は黒胡麻で和えるのが好きだが、黒胡麻には独特の風味が有るので淡白な野菜には向かないと感じる。今日は白の煉胡麻に砂糖、薄口醤油を出汁で良い加減の硬さに緩めて和えている。擂り胡麻を使う時もある。私は少し甘さの有る胡麻和えが好きでよく作るが、以前、京都の知人のお宅でご馳走になった胡麻和えが美味しかったので聞いたら、そのお宅ではお砂糖は使わないと言う。胡麻和えひとつにも其々の家庭の味が有り、其々の美味しさが有り、と改めて思う。

 少し深さのある小鉢は何度か登場している、2代 川瀬 竹春 (古余呂技窯) のもの。覗き(のぞき)と言うほど深く細くもない。向付ではあるけれど、少し小振りに感じるのでやはり小鉢、だろうか。5客揃いで入手したが箱が無いのでご本人が何と呼んだのかわからない。一目で竹春と判るフォルムと色。厚手でぽってりした白磁の地に竹春の明るい青と黄が映える。

器 六角小鉢 5客組  径 10,5cm 高 6,5cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春

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No.26 蛸の酢の物

 半夏生(はんげしょう)。元々は花の名前で、別名片白草。暦の上では夏至から数えて11日目、7月2日を指しそこから5日間を雑節で半夏生と呼ぶのだそうだ。この時期に花を咲かせることから、この名前が付いた。関東で生まれ育った私は、この半夏生を知ったのは割と最近で、この日には蛸を食べるという風習もそれまで知らなかった。元々は西日本の農家にとって大事な節目の日で、この日までに田植えを終わらせる目安とし、ここからの5日間を一段落して畑仕事を休みとする地方も有るらしい。蛸を食べるのは主に近畿地方の風習で、脚が8本も有る蛸のように、作物がしっかり根を張るようにという願いがこもっているのだそうだ。蛸を食べる、というだけで食べ方や料理は特に決まっていないらしい。

 蛸と胡瓜、わかめの酢の物は魯山人の伊賀焼の向付に盛った。ろくろ目が残った力強い器だ。魯山人の器は、素人料理でも格段に映える、不思議な力が有る。土肌や見込みの窪みに溜まった釉薬の深い緑が器に表情を付けている。5客揃いだが、其々大きさも釉薬の上りも違う。その時の気分と料理で使い分けている。

器 伊賀釉向付 5客組 径11,5cm 高さ3,5cm

作 北大路 魯山人