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No.178 冷えたワイン

 

 マイセンと言えば、旧東ドイツ(現 ドイツ連邦共和国 ザクセン州 ドレスデン地方 マイセン郡)の磁器製品のブランド。東洋から伝わった磁器をヨーロッパで最も早く、1710年頃に再現したのはドイツの錬金術師で、マイセンの前身である王立ザクセン磁器工場が作られたのだそうだ。特徴は磁器の細かい細工のボディと優雅な手描きの絵付け。東洋の呉須だけで描かれたような、マイセン特有の青の線描“ブルーオニオン“は西洋風にアレンジされた更紗模様が美しい。美しい発色の釉薬で描かれた花の模様も、まるで絵画のようだ。マイセンの製品の多くに東洋の影響を受けたと思われる絵付けがされている。

 その磁器で有名なマイセンのワイングラスに、冷えた白ワインを注いだ。すごく久しぶりに箱から出してみたら、このグラスで飲みたくなった。そもそもマイセンでガラスも作っていたとは、これを見るまで知らなかったのだけれど、カットで表現された絵柄をよく見ると、磁器に施された絵と確かに同じ。この、アラビアンナイトのモチーフや、優美な女性、エキゾチックな世界に引き込まれる。確か、赤ワイン用のグラスにはハンティングの柄が刻まれていたように記憶している。もう、ずいぶん以前に手放してしまったものだ。脚の球状にカットされた膨らみが、グラスを持つ手によく馴染み、つい手に取ってしまうからワインが進む。レモンとケッパー、スライスオニオンを添えたスモーク ド サーモンと共に味わった。

器 ワイングラス  径6cm 高13cm

作 国立マイセン磁器製作所

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No.177 アスパラガスの春巻き

 北海道出身の友人から、アスパラガスが届いた。柔らかくて香りが高く、とても美味しい。アスパラは大好きな春野菜で季節には度々買っている。塩茹やバターソテーは日常的に良く作る。今回は少し手間をかけて春巻きを作った。食材は衣で包んで油で揚げる事で、中は蒸された状態になるため、香りが閉じ込められて美味さが一層際立つ。春巻きは、市販の皮で包んで揚げるだけ、と手軽なので包む食材を工夫して色々試している。

 アスパラは軽く塩茹でして粗熱を取る。春巻きの皮の上にスライスしたハムを置き、その上にアスパラを載せて包んで揚げる。この料理には、勤めていたオフィスの近くにあるチャイニーズレストランで出会った。もう随分前の事だ。確かその時はアスパラは切らずに長いままだったと記憶している。揚げる鍋の都合もあって、自分で作る時は半分の長さに切って並べて包むようにしている。ハムの旨味と塩味で、何もつけずにそのままで丁度良い味になる。揚げたてを頬張るとアスパラガスの良い香りが口に広がる。

 戸棚の奥に仕舞い込んでいた鍋島の皿を久しぶりに使いたくなった。鍋島焼は、佐賀県の大川内(おおかわち)に在る。1675年に同じ佐賀県の有田から30人程の腕の優れた陶工達を連れて来て開かれた、鍋島藩の御用窯。御用窯とは、一般に出回ることのない将軍や老中などに献上するための焼物のみを作る窯の事。それまでは有田の窯で焼かれていたが、他に無い高い技術が漏洩するのを防ぐためにあえて険しい地形の大川内に移され、人や物の出入りも厳しく取り締まっていたそうだ。この大川内が選ばれたのは、鍋島焼の特徴のひとつである、青磁の原石が採掘される土地だった事も理由のひとつらしい。

 鍋島焼は、染付け(呉須)、色絵、青磁の3種類に分類される。この皿は呉須で青海波と更紗調の紋様が描かれ、上部にはまるで空を示すかの様な青磁の透明感のある深緑。鍋島焼の特徴的な、抱えた皿の見込みに大胆な図柄。精緻な筆使いで、御用窯の品の高さを感じる。この皿は、裏に呉須で3ヶ所に絵柄が描かれている事、また高い高台には櫛に似いる事で “櫛歯文“ と呼ばれる縦のラインが入っているのが特徴。洋にも和にも映える器で、つい使いたくなって近頃は毎日のように使っている。

器 鍋島焼 青海波更紗文皿  径20cm 高6cm

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No.176 蕗ご飯

 春先に蕗のとうを天麩羅で楽しんだ、その蕗が裏庭で育ってちょうど食べ頃になった。売られている蕗ほど太くないけれど、育ったものから収穫して、季節の香りを楽しませてもらう。定番のお出汁で煮たのはもちろん美味しいけれど、初めてふきご飯作ってみた。下茹でした蕗をお出汁と酒で色を残す程度に軽く火を入れて下味をつけ、炊き立てのご飯に混ぜ込んだ。淡く透き通るような緑の蕗は、熱いご飯と共に口に入れるとふきの香りが立って、しゃきしゃきした食感がアクセントになり、春野菜の風味を味わった。

 蕗は、収穫したら洗ってたっぷりの塩で板摺りし、茹でて水に晒す。表皮をスジと共に取り除く、手間が掛かるけれどこの作業が結構好きだ。ふきの切り口から周囲のぐるりを、指でバナナの皮を剥くように剥ぐ。その剥いだ外皮をまとめて持って下方へ引くと気持ちよく皮が剥げる。何も考えずに皮を剥く事だけに集中する時間。これも毎年の季節の仕事のひとつと思うと楽しめる。

 蕗の色を楽しみたくて黒の漆の椀に盛った。普段使いの椀で、漆が痛んで浮いて来ている所もあるけれど、時と共に真黒だった漆が少し透けて赤みを帯びている、この柔らかい色が美しい。厚底で安定感のあるこの形も気に入っている。いつ、どこで作られたものかは判らないけれど、木の温もりが手に馴染む。

器 黒漆 椀  径12,5cm 高7cm

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No.175 柏餅

 端午の節句に食す風習の柏餅。調べてみたらその始まりは江戸時代だそうだ。『柏餅は徳川九代将軍家重から十代将軍家治の頃、江戸で生まれた。柏の葉は新芽が育つまでは古い葉が落ちないことから、「子孫繁栄(家系が途切れない)」という縁起をかついだものとされる。江戸で生まれた端午の節句に柏餅を供えるという文化は、参勤交代で日本全国に行き渡ったと考えられているが、1930年代ごろまで柏の葉を用いた柏餅は関東圏が中心であった。』そうだ。柏の葉はどこででも入手できる訳ではなかったようで、その後韓国や中国から柏の葉が輸入されるようになったこともあり、柏餅が全国的に主流となったらしい。

 近所の和菓子屋で買って来た柏餅。肉厚の葉に包まれた餅には、ほんのり柏の葉の香りが移る。桜餅もそうだけれど、葉で包む事で香りを加えて完成させるとは、なんとも詫びた日本らしい演出だと思う。大きな椿皿のような根来の盆に柏餅を盛った。いつの時代のものかは判らないけれど、時間を経てとろりとした落ち着きのある漆の質感が美しい。漉餡の白と粒あんの草餅を盛り合わせて楽しんだ。

器 根来 高台付 盆  径27cm 高7cm

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No.174 コーヒータイム

 いつも行列の洋菓子店でフィナンシェを買って来た。以前、行列など無かった頃には時々買っていたけれど、近頃は並ぶのが面倒で滅多に買う事がなかった。この時は少しだけ列が短かかったので並ぶ気持ちになった。しっとりして口溶けが良く、バターの風味が広がる。深煎りの豆を濃く入れたコーヒーが良いバランスで、お互いを引き立てる。

 淡いピンクとブルーに軽やかな草花の絵柄。このアール・デコのカップ&ソーサーとケーキ皿のセットは Shelly (England)。以前 No.101 (2022/12/2) の回でアップルパイを盛った 同じShelly のB&Bプレートと呼ばれる菓子皿とは同じ絵柄だ。アール・デコのデザインから1920年代頃の物と思われる。その回でも書いのだが、我が家ではB&Bプレートの菓子皿を柄違いで集めている。その中でも、この柄は私の一番のお気に入りだ。

No.101を掲載した当時、今回のカップ&ソーサーとケーキ皿の3点セットはまだ我が家に来ていなかった。その後、新たにこの3点セットが加わったのはとても嬉しい事だ。長い時間と距離を経て、どれほどの人々の手を渡って来たのだろう。それぞれが違う道を辿って来た、この菓子皿とコーヒーセットが我が家で再び出逢えたのかと考えると、つい心が熱くなる。

器 カップ 径9cm 高7,5cm ソーサー 径4cm 高2cm ケーキ皿 径18cm 高1,5cm

作 Shelly (England)

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No.173 蛍烏賊

 小指の先ほどの大きさで、プリっと丸い身体に小さいイガイガの吸盤らしきものが付いた糸のように短い脚。その愛らしい見かけに、つい頬が緩む。旨味が強く、春の訪れを感じさせる蛍烏賊は、富山県を代表する海の幸のひとつ。富山に住む友人が、その地元の食材を誇らしげに話していたのを思い出す。

眼と軟骨を取り除き、軽く茹でたほたるいかを、生わかめと盛り合わせた。酢味噌を合わせるのが普通だし、美味しいのだけれど、白味噌を切らしていた事を思い出した。いつも自前の味噌しか使わないので、特に用途のある時しか味噌を買う事がない。家の味噌でも酢味噌は作れるけれど、この可愛らしい蛍烏賊には、色の濃い酢味噌はかけたくないないなあ、と考えていて味噌マヨネーズを思いついた。野菜のディップソースにする事はあるが、蛍烏賊に合わせるのは初めて。でも思った通り、マヨネーズのまろやかさで美味しくいただいた。

 人の肌感覚は敏感で、気温が上がってくると急に冷たい飲み物やサラダを欲するようになる。眼から入る情報も同じなのだろう。ガラスが使いたくなって、涼しげな切子の皿に盛った。

カットされた先端が尖っていて、皿の縁のギザギザは手に痛いほど。切子ガラスは人の手で削り出すこの深くて鋭いカットが命。手に取ってみれば、そのカットの良さがすぐに解る。切子細工の器を、義山(ギヤマン)と呼ぶ。箱を誂えて大事にされて来たこの皿の箱にも義山、と書かれている。

調べてみたら『江戸時代、オランダから伝えられたガラス細工の加工にダイヤモンド(オランダ語でディアマンテ )が使われたことから、後にガラス製品全般を”義山”と呼ぶようになった』とある。ギヤマン、日本語として聞いたら意味は理解出来ない異国の響きに、漠然とした憧れと浪漫を感じる。当時、薩摩や江戸で作られていた切子細工、腕の良い職人はどれほど居たのだろう。

器 義山 切子 丸中皿  径10,5cm 高3,5cm

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No.172 筍煮

 お花見と筍は春の楽しみ。今年は気温が低く、桜の開花がここ数年より遅く4月にずれ込んだのと同様、例年届く合馬の筍もいつもより遅く、やっと届いた。遅め、とはいえ大きく育った筍を、着いた日はまず糠と鷹の爪を入れて茹で、そのまま一晩置いて翌日さっそく頂いた。柔らかくて香りが良い。

庭では、細いただの棒のようだった小さい山椒の木から、一週間ほど前に文字通り木の芽が出始めた。日々驚く速さで葉が育ち、筍をいただく時に丁度よく柔らかい葉が育った。筍と山椒の葉、昔から味覚や見た目の相性は、旬を迎えるタイミングが揃う事から結び付いたのだろうけれど、今や”つきもの”。その年によって生育が遅かったり早かったりするけれど、結果的にほぼ足並みが揃う。自然の摂理ってこういう事、と思う。

 器は初代 三浦 竹泉(ちくせん 1853~1915)の鉢。初代 竹泉は13歳で3代 高橋 道八に弟子入り、1883年(明治16年)に独立して、京都五条坂に窯を構えた。ヨーロッパの色彩を磁器に取り入れるなど、京焼の改良に貢献した。染付、祥瑞、吹墨、色絵、金蘭手など作品は繊細で多彩。書画を好み、煎茶道具を多く作っていて煎茶の世界では良く知られている。5代 竹泉は2021年に亡くなっていて、6代襲名はまだされていない。

 この鉢は、薄手の白磁で使い勝手の良い大きさだ。外側は華やかな色、見込は白磁の白。何を盛っても良く映えて、とても使いやすい。明るい緑と黄色は菜の花を思い起こさせ、やはり春に使いたい器だ。盛り付けが難しい筍を欲張って山に盛り、掌で軽く叩いて香りを立てた木の芽を乗せた。見た目も香りも春を感じる一品になった。

器 緑瓷黄釉文 盂(う 鉢) 径17,5cm 高9cm

作 篩月庵 初代 三浦 竹泉

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No.171 飛龍頭

 飛龍頭と書いて “ひりょうず“ または “ひろうす“ と読む。これは主に関西圏の呼び方で、関東では “がんもどき“ 或いは省略して “がんも“ の名で、おでんや煮物の具として一般的に料理に使われる。豆腐料理だから、油揚げと共に豆腐屋さんで買い求めることが出来る。なぜ、関西と関東で全く呼び名が違うのか、少し調べてみた。

『ひりょうず(飛龍頭)はポルトガル語の ”Filhós(フィリョース)” に日本語の音を当て、漢字で表記したもの。“Filhós” はポルトガルの伝統菓子で、戦国時代に日本に伝わったとされる』とある。材料は小麦粉で、大豆由来の飛龍頭とは全く違う食べ物だったはずが、おそらく見た目と油で揚げた共通点からこう呼ばれるようになった、と考えられているらしい。

一方 ”がんもどき“ は、『江戸時代に考案された精進料理で、もともと材料は豆腐ではなくコンニャクで、味が雁(ガン)の肉に似ているからそう呼ばれるようになったと言われています。しかし、いつからコンニャクが豆腐に変わったのか、なぜ ”がんもどき“ と ”ひろうす” が同じものになったのかなど、はっきりした由来は現在も謎のままのようです』

“がんもどき” とはそのままの意味だったのか、と驚いた。そもそも昔は、鶴も食べていたと聞くから雁も今で言うジビエで、猟師が仕留めたもので、一般に流通していた訳では無さそうだし、きっと貴重な動物性たんぱく質として高級な食材だったのだろうと推測する。しかしその頃の材料は蒟蒻、となると当時の “がんもどき” の味は知る由もない。

と、由来の話が長くなったが、揚げたての飛龍頭を食べたくなって、前日に煮たひじきと銀杏を入れて作ってみた。木綿豆腐の水をよく切って裏漉しし、すりおろした山芋、卵とひじきを加えて混ぜて丸めて揚げる。おろし生姜と醤油で揚げたてをいただいた。果たして鴈の肉はどんな味だったのだろう。

 盛った器は、我が家ではかなり初期から在る古染付の皿。少し縁高で、取り皿としても果物やお菓子を盛るにも使いやすい。見込みの絵は、花が咲いて実がなって、鹿が居て長閑な自然の森を思わせる。もしここに鴈が飛んでいたら面白いのに、なんて考える。

器 古染付皿  径13,5cm 高3cm

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No.170 筍と菜花の胡麻だれ

 旬とは言え、まだ八百屋の店先に並んでいる筍は小振り。柔らかくて灰汁も弱く、優しい風味で春そのものを食べているようだ。サラダ風にそのものの味を楽しみたくて、塩茹でした菜の花と盛り合わせて胡麻だれでいただいた。白のねり胡麻を出汁で伸ばして、少しの塩と砂糖、米酢で味付けた。和えずに掛けただけなら野菜の色も楽しめる。

 盛った高取焼の皿に瑞々しい野菜が映え、白胡麻のたれは釉薬の色とも馴染んで、こんな使い方も良いかしら、と嬉しくなる。この器は、高取 重定(しげさだ 本名 源十郎)の作。天保6年頃の事らしい。それ以外の詳しい情報はわからないけれど、この皿は私が思っていた高取焼の印象を大きく変えた。

粒子の細かい土を使う高取焼は、土の滑らかな地肌に釉薬が馴染み、備前や信楽、唐津などに比べて土物(つちもの)の割に上品で力強さに欠ける、と思っていた。お茶の世界では小堀 遠州が好んだことからお茶入れや花器、水指など使われるけれど、料理の器はあまり多くないし、つるんとした印象で器としての高取焼には興味が無かった。だがそれは、この舟型の高取焼に出逢うまでの話。滑らかな土だからこそ、薄作りの繊細なディテールとシャープなシルエット。丸くて小さい3つの脚に支えられて浮かぶ舟の姿に惚れ惚れした。この小さな舟に、次は何を盛ろうか考えるとわくわくする。

器 高取 足付舟形皿

作 高取 重定

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No.169 大根の浅漬け

 友人から、庭で収穫した大根をもらった。大きめの人参位の大きさで、大根としては小振りだけれど、大きく茂った瑞々しい葉がついていた。包丁の通りが柔らかく、そのままで美味しそうだったので、軽く湯掻いた茎や葉と一緒に浅漬けを作った。

使った小皿は、度々登場する第5代 清風 与平の染付け。鮮やかな呉須のしっかりした筆使いで描かれた山水画は、小皿の小さな見込みに収まらないくらい雄大に見える。皿の裏には、縁に沿ってぐるりと漢詩が書かれている。残念ながら私には読めないけれど、この情景のもととなった内容なのだろうか。切り立った山や岩肌、舟を浮かべて漁をする人影。小皿の中に物語を感じる。

器 染付小皿  径11cm 高1,5cm

作 第5代 清風 与平