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No.128 梅雨穴子の天麩羅

 少し小振りながら美味しそうな穴子を魚屋の店先で見つけた。住んでいる地域柄、普段売られているのは東京湾や千葉で獲れた穴子が多いのだけれど、珍しく長崎。小振りな事もあって価格もお手頃だった。穴子は、軽く焼いてから刻んで、醤油で甘塩く炊いて、ちらし寿司に混ぜ込んだり、茶碗蒸しの具にしたりする事も多いのだけれど、今日は天麩羅が食べたくなった。

穴子の旬は6月から8月の夏の間で、梅雨穴子とか夏穴子、と呼ばれるらしい。大抵の魚類は脂が乗る冬の季節や、産卵前を良しとされるけれど、穴子に関しては脂の少ないさっぱりした身が好まれるそうで、この時期が旬。確かに、脂の乗った鰻に対してさっぱりして淡白な穴子、という印象がある。

ししとうと、今の時期八百屋の店先に出回る破竹という灰汁の少ない細い筍を一緒に天麩羅にして盛り合わせた。使ったのは脚のある古染付の皿。皿の見込には湖だろうか、それとも海かもしれない水面に浮かぶ船、遠景には山も見える。まるで見込みに円形のパノラマで描かれたような風景が描かれている。空になった皿を眺めて、この描かれた風景の物語を思い描くのも楽しい。

器 古染付 脚付皿 径16,8cmx11cm 高3,5cm

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No.127 カプレーゼ

 昨年5月、No.72の回でも登場した、イングランドで1873年に創業した陶器メーカー、POOLE。マットな表面感が柔らかく、独特な雰囲気を持っているブランドだ。

同じ大きさの、このパターンの花柄の小皿は、以前から我が家には2枚在った。でも今回の、縁のドット柄がグリーンの物はつい最近、3枚目として我家に来たばかり。以前から在る色の違う2枚の小皿には、果物を盛ってみたり、お菓子を盛ってみたりしながらも、中々しっくりしなくてここには登場していなかったのだけれど、今回の小皿は縁のグリーンの色に、トマトの赤とバジルの緑が映えそうだ、と思い付き早速カプレーゼを盛った。

先付けのオードブルのような、小振りで可愛らしいひと皿になった。新緑の季節、外を歩くと新芽の艶やかな緑が目に飛び込んで来る。今日はベランダのバジルで、食卓にも鮮やかな緑を飾ってみた。

器 花柄小皿  径10,5cm 高2,5cm

作 POOLE

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No.126 牛すじの赤ワイン煮込

 ひと昔前まで、関東の精肉店で牛すじを見かける事はまず無かったけれど、嬉しい事に最近は取り扱うお店が増えた。牛すじは下処理が少し面倒だけれど、脂肪も少なく煮込むと良い旨味と蕩けるような食感で大好きな食材だ。少し時間をかけて赤ワイン煮込を作った。

香味野菜をみじん切りにしてよく炒め、赤ワインを加えて牛すじを煮込む。私は水煮のトマトとデミグラスソースも加えてコクを増す。食べる前に、茹でたポテトと人参、マッシュルーム、ブロッコリーを加えて一緒に温めて盛り合わせ、ボリュームたっぷりな一皿になった。

さて、どの器に盛ろうかと考えていて思い出した。深さが有って縁の幅が広く、まるで洋食器のスープ皿の形をしている。古染付ではあまり見た事がない形で珍しい。呉須も素地の色も濁っていて、古染付の中でそれほど良い上がりではないけれど、とても使いやすい。以前はよく使っていたのに、仕舞い場所を変えるとつい忘れがちになる。少し重めの赤ワインと一緒に楽しんだ。

器 古染付皿  径21cm 高4cm

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No.125 アイスミルク

 季節の変わり目は、天候も気温も変化が激しい。ここ数日は真夏のような暑さで、冷たい飲み物が欲しくなった。久しぶりに、この鯛がたくさん泳ぐコップを出して白いミルクを注いだ。薄いガラスの中に、口を大きく開けて泳ぐ可愛らしい鯛の模様が浮かび上がる。

これは一昨年の夏、2021年8月のNo.34で掲載したのと同じ、江波 冨士子さんの「ムリーニ」という手法のガラスコップで、我が家に2つ在るもうひとつの方だ。その回にも書いていたが、ローマ時代に作られていたガラスのムリーニという手法を、江波 冨士子さんが独自の技術で再現して作られている。

 同じ大きさの鯛が泳ぐこのコップの風景は、まるで水槽を覗いているかのよう。No.34の回で使った、大中小の大きさの違う鯛が泳ぐコップは、このコップをいただいた後にもうひとつ欲しくて、お願いして作っていただいたもの。どちらのコップも、使う度に懸命に泳ぐ鯛の姿に気持ちが和む。

器 鯛 ガラスコップ  径8cm 高9,5cm

作 江波 冨士子

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No.124 洋風肉じゃが

 今が旬のエンドウ豆を沢山いただいた。友人のご実家が家庭菜園で収穫したものだ。今までにも胡瓜や馬鈴薯、玉葱など色々頂いた事があるが、どれも美味しく素人とは思えない出来栄えで驚く。今回はこのスナップエンドウの他に、絹さやをいただいた。どちらも私の好物。ちょうど新じゃがと新玉葱が有るので、スナップエンドウを使って洋風の肉じゃがを作る事にした。春野菜は甘くて香りが良いから、味付けは甘味を加えずにシンプルにしたかった。精肉ではなくてベーコンを使う事で、燻製された脂と香りがコクを増す。市販のブイヨンを少し使って、小さいローリエの葉を一緒に煮込み、塩味で仕上げた。

 器は古染付で、見込みの中央にだけ模様が描かれている、ほぼ真っ白の白磁の鉢。しかし、よく見ると内側に陰刻で幾何学的な模様が彫られている。鉢の口に近い上の部分は生地も薄いため、陰刻は自然に消えているけれど、胴の辺りには少し青みがかった釉薬が僅かな陰刻の模様を浮かび上がらせている。口の部分だけもう一回り開いている輪花の縁は、当時の良質ではない釉薬のせいで爆ぜてしまって虫食いだらけ。でも、それがこの白い鉢にいっそうの古染らしさと風情を加えている。

器 古染付鉢  径15,5cm 高9,5cm

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No.123 シーフードグラタン

 グラタンが食べたくなった。よく作るのはチキンだけれど、今日は近頃手に入りやすいサーモンと帆立貝柱でシーフードにした。幼い頃、食べず嫌いで偏食だった私が、唯一安心して外食で食べられたのは、チキンマカロニグラタンだった。今でもバターの効いた濃厚なベシャメルソースを使った料理は大好きで、グラタンの他にもクリームコロッケやラザニア、ギリシャ料理のムサカなど、ちょっと面倒だから滅多に作らないけれど、時々とても食べたくなる。

バターと小麦粉を弱火でしっかり炒めて、牛乳を加える。ソースは粘度があるので、沸くとまるでマグマのようにグツグツと大きな気泡がはじける。前にアルバイトで勤めたデリで、この時にしっかり火を通すのがコツ、と習ったので火傷に気をつけながら、焦げないように木べらで混ぜてしっかり火を入れる。グラタンは焼き上がりの香ばしい香りと表面のカリカリの食感で、満足感を感じる料理だ。

オープンに入れるので、グラタンは耐熱容器で作るが、熱い容器を載せるアンダープレートにちょっと華やかな皿を使った。年代は不明だが、多分それほど時代のある皿ではないと思われる。メーカーは英国のMINTONだが、ニューヨーク、5thアベニューに在った食器店のために作られた物らしく、バックプリントに記されている。調べたがその食器店は今は無いのか、判らなかった。

縁に回した金の彩色は、時を経てもほぼ新しい時と遜色なく残っていて豪華な印象、ブルーのエナメル質の小花は透明感が有って美しい。我が家の中では華やかで、少し毛色の違う器だけれど、時にはこんな明るさも気分が変わる。

器 金線小花ケーキ皿  径20cm 高2cm

作 MINTON England

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No.122 摘果メロンの酢の物

 メロンの美味しい果実を育てる為に間引かれた小さい実を、『摘果メロン』と呼ぶそうだ。径が5〜7cmほど、緑色で少し長い球状をしている。滅多に見かけないのでよく知らなかったのだが、いつもの八百屋の店先でスタッフのお姉さんに勧められた。『これ、美味しいですよ。私は大好きで、出てたら買っちゃう』と。食べた経験が無いので、どうやって食べるの?と聞いたら、彼女は浅漬けが一番好きだと言う。でも、糠漬けとか味噌漬け、酢の物でも美味しいそうですとの事。メロンは瓜の仲間だから、何となく想像はつく。早速試してみる事にして、ひと山買って帰った。端を少し切って口に入れると瓜科特有の香りが広がった。思った通り、シャキシャキした瑞々しい食感と、少しの青臭さ。でも胡瓜ほど強くない。まだ育つ前だから甘味もない。中は白い果肉の中心に白い種が有る。確かに形態はメロンと同じ。皮の表面に桃のように細かい毛が生えていた。少し塩で擦ると口に入れても気にならない程度の生毛だから、料理によって皮は剥いても残したままでも良さそうだ。

早速いくつかを糠床に入れ、今日食べる分は、先日買って少し残っていた独活やわかめと酢の物にして盛り合わせた。独活の春の香りと摘果メロンの初夏の香りが楽しめる、美味しい酢の物ができた。

翡翠色の摘果メロンが良く映るこの器は2代 川瀬 竹春のもの。鮮やかな青が美しく、粗くヘラで削った窪みには釉薬が溜まり、深い海を覗き込んだような碧色、縁に飛ぶ鮮やかな黄色の花が軽やかさを感じさせる。この器には瑞々しい野菜がよく似合う。

器 へら目小鉢 径11,5cm 高6cm

作 古余呂技窯 2代 川瀬 竹春

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No.121 苺

 意図した訳ではないのだが、前回と同じタイプの白磁の器になった。呉須で漢字の文字に縁を取ったもので、前回は北大路 魯山人。今回はその魯山人が見て、模したであろう本科の古染付の小皿。もちろん、魯山人がこの小皿を見たとは思わないが、この手法の古染付を見て、自身の創作に取り入れたと思われる。

近代に作られた前回の魯山人の白磁に比較すると、今回の小皿は粒子の細かさも、混入物の残留も、土の精製の粗さがよく判る。とは言えこの皿が作られたのは西暦1600年代の中国。その時代にこれだけの磁器が作られていたのはすごい事だ、と改めて感心する。

厚手の質感がどっしりしていて存在感が有る。皿の裏は、高台の外から皿の外縁に向かって放射状に深い筋が彫られている。先の尖った道具で彫ったのだろうけれど、そのギザギザは表から見ても皿の縁に細かい輪花のように見えている。すっかり仕舞い忘れていたこの皿を久しぶりに出して、改めて見惚れた。

この小皿には季節の苺を盛った。昔、まだまだ経験が浅かった若い頃、古染付の皿にふとした思い付きで苺を盛ってみたことがあった。当時は古染付に果物を盛るなんて考えた事がなかったのだけれど、器が苺の赤に映えて瑞々しく、その染付の皿が今までとは別の表情を見せてくれた事に驚いた。その時の感動が忘れられず、器使いの楽しみがまたいっそう深くなった。

器 古染付 壽 小皿  径12,5cm 高3cm

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No.120 若竹煮

 今年は収穫量が少ないそうで、例年より少し遅く九州の筍が届いた。小振りで土の付いた筍を軽く洗って糠と鷹の爪を入れた大鍋で茹でる。立ち昇る湯気も筍の良い香りで、春を感じる瞬間。その晩は茹で汁に漬けて、翌朝きれいに洗って余分な皮を取り、水に浸けて冷蔵庫で保存する。

夕飯は、筍ご飯と若竹煮。贅沢にたくさんの筍を堪能した。新芽が勢いよく出てきた、庭の山椒の葉を摘んで添える。筍が少し遅めな分、山椒の葉は少し育ってしまったけれど、洗った葉を掌でパンと叩くと良い香りが立ちこめる。

ところで今更だけれど、この『若竹煮』という料理の名前。何も考えずにわかめと筍だからね、と思っていたけれど、この若、は若いという字だ。読み方の音だけで単純にわかめと思っていた。本当に今更でお恥ずかしい話だけれど。ただ、調べたら由来は想像の範疇だった。春の〝若〟いわかめと筍の〝竹〟。日本語は奥深い。

この若竹煮は北大路 魯山人の染付の鉢に盛った。薄く薄く作られた白磁に、呉須で縁を取った『大』『吉』『羊』の漢字を側面に大胆に書いている。反った口からなだらかな丸みが高台まで続く、見込みの広がりが大らかさを感じる。さっぱりした意匠ながら垢抜けていて、盛る料理を引き立ててくれる。

器 染付 大吉祥鉢  径19,5cm 高8cm

作 北大路 魯山人

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No.119 コーヒータイム

 英国でお茶、と言うと紅茶のティータイムを連想する。コーヒーを飲む場面を思い浮かべるのが少し難しいのは、私だけではないかもしれない。でも食事の後にはコーヒーを飲む機会も多いのだろうかと想像する。英国の食器にもコーヒーカップやマグカップは有るし、きっと中にはコーヒー党の人も居るだろう。このコーヒーセットも英国、イングランドのもの。既に何度も登場している Susie Cooper(スージー クーパー)のデザインなのだが彼女のブランドではなく、Wood & Sons Ltd. と言う陶器製造の会社によって生産されたもの。

同じ柄の『チーズディッシュ』と呼ばれる器を、英国のアンティークオークションサイトで見つけた。それによると『インディアンレッドとヘアーブラウンで描かれたチューリップがアール・デコ風にアレンジされているデザインで、1935年のRoyal Academy British Art in Industry Exhibition.に出展されたもの』だそうだ。絵柄はもちろん、コーヒーポットやミルクピッチャーの蓋や注ぎ口、持ち手のフォルムがいかにもスージー クーパーらしく、優雅で可愛らしい。

本家のスージークーパーに比べると、釉薬が厚めに掛かっていて、濃厚なクローテッドクリームのような柔らかいクリーム色をしている。我が家では休日の朝食に使う事が多いけれど、この温かみのある色のカップ&ソーサーなら、ゆったりとした午後のコーヒータイムも楽しめそうだ。

器 コーヒーセット  カップ 径7,5cm  高5,5cm ソーサー 径13,5cm 高1,5cm コーヒーポット 径(口、手込)18cm 高17,5cm ミルクピッチャー 径(口、手込)13cm  高6cm

作 DESIGNED By Susie Cooper FOR Wood &Sons Ltd.