No.271 菜花と蛍烏賊の辛子味噌

旬を迎えた蛍烏賊。魚屋の店先に可愛らしい姿が並んでいるのを見ると、つい買ってしまう。雛祭りが過ぎ、今は春になって土の中の生き物達が出て来るとされる、二十四節気の啓蟄に当たる。春の訪れを感じる菜の花と一緒に辛子味噌を掛けた。盛り付けた器は、蛤の形を模った染付の向附。
蛤と聞くと貝合わせのような、文字通り二枚貝を思い浮かべるけれど、これは少し違っている。左右で縁が少しずれていて、それが合わさった貝を表しているのだろうか。古染付の写なので、手本となった器がこの形だったと考えられる。これは 永楽 回全(1834〜1876)が作った古染写。
永楽窯の代々の 永楽 善五郎 の中で、聞いたことのない名前だった。調べてみると 塗師 佐野 長寛 の子で、11代 保全 の養子となり、12代 和全 の義理の弟に当たる。当時、永楽窯の職人として作陶していた 曲全 と共に13代に数えられる事も有るが、定かではない。とは言え、保全、和全の頃に共に作品を残し、永楽窯を支えた人だそうだ。
回全は自作の箱書きに、自ら 善五郎 と書き、印は保全、または和全、その時の当代の印を使った。そのため回全の永楽印は無くても、その筆跡で回全作と判るという。
厚手の白磁に、しっかりした呉須で描かれた風景は湖だろうか。島が浮かび、月が出て、舟を漕ぐ人の姿がある。自由な筆の運びがのんびりとした風景をよく表している。高台は四箇所に切り込みのある割高台。大らかさを感じる器だ。

器 古染付写 蛤形向附 径14,5x10cm 高6cm
作 永楽窯 永楽 回全 (保全 印)