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No.216 三色ナムル

 夕方の八百屋の店先で、もやしが安くなっていた。元々高価な物ではないのだけれど、残ってしまうのも可哀想、と2袋盛り合わせたザルを手に取った。根を取るのが面倒くさいけれど、ナムルにすれば無駄にせずに食べ切れる。

 もやしには独特な青臭い匂いがある。そして、この根があるとお互いに絡み付いて、食べた時の食感もイマイチ。麺の具にしたり、炒めたりする時はそのまま使ってしまう事が多いけれど、もやしだけの料理の時は根の部分を一本ずつ取るようにしている。匂いも無くなり、シャキシャキの食感で見た目も美しくなる。以前、もやし好きだと料理番組で話していた料理家の 栗原 はるみ さんが、もやしの根を取って料理すると話していたのを聞いて、試したのが始めだった。

 韓国料理のナムルは、野菜を茹でてたれと絡めるだけ。とても簡単な料理だ。レシピによってたれの作り方は違うけれど、にんにくと胡麻油は外せない。にんにくは強くしたくなければ、生にんにくの切り口を和えるボウルの側面に擦り付ける程度。ガッツリ効かせたければすりおろしを使う。あとは塩と擦り胡麻、好みで少量の砂糖や醤油を加える。塩茹でした野菜の水気を絞って、冷めないうちにたれを絡ませたら完成。今回はほうれん草と人参も作って、3種のナムルにした。和食で言うお浸しの韓国版。にんにくを少なくすれば、和風のメニューにも合う。翌日、このナムルはコチュジャンで味付けた肉そぼろや温泉卵と一緒に熱いご飯に乗せて、ビビンバ丼にしていただいた。

 ナムルを盛ったのは古染付のお皿。中央に”壽”の文字。周りに唐草の模様が素朴なタッチで描かれている。彩良く盛り合わせて、それぞれの野菜の味を楽しんだ。

器 古染付 壽 唐草文皿  径16cm 高3cm

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No.215 生鱈子の煮付

 久しぶりに生鱈子を煮た。たらこは大好き。でも好きなだけ食べて良い年代はとうに過ぎてしまったので、たまに、量をわきまえて、と自制している。やっぱり美味しい。塩漬けのたらこや、辛子明太子も好きだけれど、煮た生鱈子はまた違った食感と風味があって、白米よりはお酒のお供。柚の香を添えて味わった。

 扇の形をした古染付の皿は5枚の組だが、それぞれ書かれている文章が違う。少し地厚な土の作りに、ぽってりと白い釉薬がかかって、扇形のフォルムが柔らかい。呉須で書かれた文章の内容は私には難しくて判らないけれど、料理を盛ると、文字は描かれた背景のように見えて来て、散りばめられた呉須の色が美しい。

器 古染付 扇形向付  径16,5x13cm 高3cm

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No.214 黒豆大福

 裏庭の紅梅が数輪開いた。自然はいつの年も季節ごとに規則正しく巡っている。地球規模の気候変動は、少しは影響しているのかも知れないけれど、そんな事は感じさせずに居てくれる。ちょうど今頃、使いたい菓子器を思い出した。

 長い年月を経たために、見込みの真塗りは黒の中に濃い茶色が透けるように、少し赤味を帯びている。漆の表面は刷毛目が残る程度に磨かれ、温か味が残されている。そこに落ち着いた金で梅の蒔絵が散りばめられ、外側は錆朱色の漆が艶消しで掛けられている。山本 春正 と言う江戸時代から続く名古屋の塗師の作品だ。元は京都だったが、5代 正令 の時に、天明の大火に遭って京都を離れ名古屋に移ったらしい。箱には春正の銘と印が有るが、どの代の作品かは不明。多分幕末から明治頃の作ではないかと思われる。

さて。何を盛ろうかしらと、お菓子屋さんを探していて、黒豆大福を買って来た。大福の粉を纏った白い肌が器に映えて美しい。漆の磨かれた表面が大福の柔らかさを際出てているようだ。熱いお茶を淹れて、咲き始めた梅を眺めて楽しんだ。

器 梅蒔絵 八角菓子皿  径20cm 高6cm

作 山本 春正 (代不明)

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No.213 スペアリブ

 少し時間をかけて煮込んで、豚の甘辛味のスペアリブを作り、出汁で煮た大根と季節の縮みほうれん草を盛り合わせた。近所の八百屋でこの時期売っている徳島の大根は、包丁の歯触りが柔らかく、とても瑞々しいので薄く味付けて大根の旨味を味わいたい。野菜、特に根菜は、まな板の上で切った時の感触でその素材の良し悪しが解ったりする。いつも解る訳ではないけれど、スッと気持ち良く歯が入る時はきっと美味しいと解るので、作るのも食べるのも楽しみになる。

 見た目にもボリュームのあるスペアリブをどれに盛ろうか、と出してみたのは土肌に白い釉薬が特徴の萩のどら鉢。1600年代に始まる萩焼の名跡で、代々受け継がれる三輪 休雪 の 第11代  三輪 壽雪 の次男、三輪 英造 (1946〜1999) の作品。英造は、伯父・三輪 休和の養子となり、12代 休雪 は長男の 龍氣生 (1940〜)が継いだので、休雪を名乗る事はなかった。この鉢は10代、11代 休雪が残した “休雪白” と称される白い釉薬を掛けたもの。

 側面は内側に傾斜して見込みを抱えた形だが、縁の高さもあるので、どら鉢と呼べると思うのだけれど、箱には “皿“ とだけ記されている。因みに13代 休雪が、襲名前に本名の 和彦 の名で作った休雪白の皿は、No.52 (2021/12/24)で登場している。

さらっと掛けた白釉が土肌に透け、そのざらざらした土の質感と滑らかな白が美しいコントラストを作っている。瑞々しい生野菜を余白なく、こんもりと敷き詰め、ローストビーフや唐揚げなどを盛ってもとても映える。魯山人のように陶芸家の個性が際立つのものではないけれど、盛り付けるのが楽しい器のひとつになっている。

器 萩焼 皿  径25cm 高6cm

作 三輪 英造

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No.212 寒菊

 薄っすらと雪が積ったように、白い生姜風味の砂糖がかかっている。これは『寒菊』というおかき。さくっとした食感で、甘塩っぱくて優しい味だ。おかきは2枚ずつ、菓子名の入った紙に包まれている。福岡県豊前(築上町) で、寛政年間(1789年〜1801年)に小倉藩主に献上したという伝統のある銘菓だそうだ。

 ニ段重ねの蓋物は、細かい石が混ざった釉薬を掛けていて、ざらざらした質感が面白い。表面は木版画の版を削った時のような彫刻刀の溝が変化をつけている。器本体はもう一段下に、もっと大きな高さのあるパーツが組んでいたと思われる。が、壊れてしまったのか、昔我が家に来た時には既にこの薄い円形のニ段と蓋だけだった。資料を探せば見つかるかも知れない。器は第12代 楽 吉左衛門 (弘入) と思われる。

この2段の蓋付をどう使ったら良いからしら、と迷ってお菓子を盛ってみた。下の段に寒菊、上の段にはお干菓子を盛った。暖かい部屋でお茶を淹れてこうしてお菓子をいただく、と言うのも冬の楽しみのひとつかもしれない。

器 楽 砂薬蓋物  径12cm 高7,5cm(3,8+3,8+蓋)

作 楽 吉左衛門

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No.211 炊き合わせ

 白磁に、刷毛目を残して朱の釉薬を塗った、それだけなのに凛とした美しさが有る。朱の釉薬の溜まりによって、色の濃さや表面の凹凸の些細な変化が何とも言えず美しい。見込みには呉須で 『壽』 の一文字。紅白に寿、縁起の良いこの鉢は 北大路 魯山人のもの。

 プロにはとても遠く及ばないけれど、なぜか魯山人の器は素人の私でも盛り付けやすい。こんな風に盛ってみて、と器に言われているようだ。魯山人ご本人が料理を盛ることを考えて作っているからだろうが、料理をする人に広く懐を開いてくれているように感じる。

炊き合わせは、里芋に牛蒡、人参、蓮根、椎茸、高野豆腐と菜の花。お正月は甘味が強めな料理が多く飽きるので、出汁を効かせたさっぱり味に仕上げた。器と共に素材の味を楽しめるひと皿になった。

器 金襴の赤 鉢   径21cm 高10cm

作 北大路 魯山人

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No.210 おせち料理

 年末に留守をしたので、出掛ける前に作り置きが出来る料理を準備しておいた。黒豆、きんとん、ごまめ、鴨。新年には、それらと紅白蒲鉾や伊達巻を 橘屋 友七 の闇蒔絵の提三段重に盛り合わせた。

 京都の塗り師、長野 横笛 (ながの おうてき)が起こした漆器店 “橘屋” (1800年初め)は、二代目の時には隆盛を極めたが、三代目が早世したために”橘屋”の屋号を、その門人だった 浅野 友七が受け継いだ。

浅野 友七 の情報は少なく、生没年は定かではないながらも1860年(万延元・安政7年)没という記述が残っているらしい。明治5年と11年の京都博覧会の記録には『浅野 友七 手道具商社 博覧会社』の名があるが、その頃には友七の子や孫が”橘屋”の屋号を継いでいて、初代の友七は幕末に亡くなっていたのだろうと推察されている。

この三段の提重は黒一色。外箱には 橘屋 友七 の名が入っている。黒漆を横に凹凸のある刷毛目に塗り、その上に黒漆で秋草が繊細なタッチで描かれている。黒に黒で闇蒔絵。しかし古い文献を探ると ”黒蒔絵” と表記されており “闇” ではなく “黒蒔絵” を正しい表記としているらしい。しかしながら ”闇蒔絵” という表現はイメージを掻き立てられて、魅力的。つい使いたくなる。

 持ち手の内側など、当たるところには擦れた跡が有り、漆の浮いている所も数箇所ある。使われた回数は判らないけれど、きっと多くの場面で料理を盛って使われて来たのだろうと感じる。今、私がこれに料理を盛って使える事に感謝したい。

器 黒蒔絵 提三段重 

径19x16cm 高21cm (上5cm 中5,3cm 下6cm)

作 橘屋 友七

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No.209 プルドポークのサンドウィッチ

 以前、友人とパリとローマへ旅行した時に、ローマのフィウミチーノ空港から日本へ帰る時の事。空港でチェックインを済ませ、搭乗までに時間が有ったのでイタリアでの食べ納めに、とフードコートで食べた、ボリューム満点のサンドウィッチが長い間忘れられないでいる。熱々のポークの塊肉をカットして、パンに挟んだだけのものだったけれど、とてもジューシーで、カロリーも中々なものだった。空腹だった事もあって、最後のビールと一緒に、あっという間に食べ終えた思い出がある。あの時の、あのポークは何と言う料理だったのだろう、とずっと頭の隅に引っかかっていた。ただのグリルにしてはとても柔らかくて、不思議に思っていた。雑誌の料理のページで、このプルドポークを見つけた時、きっとあのローマの空港で食べた物に近いはず、と思った。

病院の待合室で見ていた雑誌のプルドポークは、塊肉で作るけれどそれを細かく割いてほぐして脂の部分を取り除く。だから、料理としては見た目が違うけれど、脂が無くてヘルシーで、今の私にはこの方が嬉しい。

雑誌のページはその場で写メを撮った。後日材料を用意して早速作ってみた。豚の塊肉にしっかりと塩をして、1週間置く。それを香味野菜やハーブと共に茹でてそのまま冷まし、細かくする。しっかり塩をしているのでそのままでも美味しいけれど、パンに挟むときは少しのワインビネガーやブラックペッパーを加える。ローマで食べた物と同じではないけれど、自分で作る中では一番近く、満足出来るサンドウィッチだ。

 この皿は、英国 Wedgwood (ウェッジウッド)のサンドウィッチプレート。皿自体は古い物ではないけれど、デザインはSusie Cooper (スージー • クーパー) のもの。彼女は、一時期 Wedgwood  でデザイナーとして在籍していた事がある。裏には Wedgwood の 下に “Susie Cooper Design”と明記されている。Susie Cooper の器と比べると絵柄の色使いが違い、グレイッシュなブルーやグリーンを使ってとても落ち着いた印象だ。素地の色も質感も違うから、やはり絵柄の色使いも違ってくるのだろう。繊細な細い筆のタッチで描かれたアネモネの花が美しい。

器 サンドウィッチプレート  径24x24cm 高4,5cm

作 Wedgwood Susie Cooper Design

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No.208 おでん

 この季節に食べたくなるおでん。大根と蒟蒻、牛すじなど好きな具材を入れて、ゆっくり煮込んで味が沁みたおでんは身体が温まる。久しぶりに、島岡 達三 (1919〜2007) のこの皿を使った。

 若い頃、結婚して暫くした頃に、2枚だけ購入した思い出の皿。当時の月給では2枚買うのもやっと、の大きな買い物だった。ちょうど今日は結婚記念日なので、使ってみようと出してみた。この皿を買った頃は経験も浅く、いつ壊すかと使うたびにとても緊張した。思えば、器を使う楽しみはこの皿から始まったのだった、と懐かしく思う。

厚手の皿は温かみのある質感で、大らかな刷毛目に鮮やかな色で素朴な花が描かれている。益子焼の濱田 庄司に師事した島岡 達三らしい、民藝調の皿。長い年月、この皿には数え切れないほどの料理を盛って、楽しませてもらった。この先も大切に使い続けて行きたいと思う。

器 益子焼 刷毛目 赤絵草花文皿  径18cm 高4cm

作 島岡 達三

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No.207 冬の果物

 冬なのに葡萄?と思ったら、いただいたこの『グローコールマン』という葡萄は、ロシアのコーカサス地方原産で、冬に収穫される珍しい葡萄だそう。日本では岡山県で生産されている。さっぱりして、酸味が少なく穏やかな甘みの葡萄だ。八百屋の店頭で真っ赤な小振りの紅玉を見つけたので、買って来た。林檎と柿と一緒に3種の冬の果物を盛り合わせた。

 手付きの器は萩焼ではないだろうか。箱が無く、本体にも銘が入っていないので、どこで、いつの時代に焼かれたものか、作者も判らない。手付きの器は、器の縁から手が出ている事が多いけれど、皿の面から手が出ているのが面白い。盛り付けに少し悩んだけれど、静物画のデッサンをしたくなりそうな、そんな盛り合わせになった。

器 手付き鉢  径21,5cm 高5,5cm (持ち手込 13cm)

作 不明